第〇十八話 闇の古代遺跡へ
冒険者ギルドの男性職員は、今日、冒険者登録した者のリストと、もう一枚の紙を見比べている。
「異世界人の名前はないな」
その男性職員はグライン王国の密偵で、城から出た異世界人の戦闘職の動向を探っていた。冒険者ギルドは特定の国に属さない中立の組織で、国との繋がりはなかった。それでグライン王国の息のかかった者が潜入し、グライン王国に冒険者の情報を渡していたのである。
ちなみに国から冒険者ギルドに戦力を求められることはあるが、それは正式な依頼としてなので強制力はなかった。
「やはり監視するのは今、話題のナベシマのパーティだ。彼等の今後の活動は報告しておこう」
アンサズ宰相の部下の文官は、戦闘職の異世界人のリストをこの密偵に渡していたので、生産職の冬雅達の名前は、そこにはなかった。
時は過ぎて四日目の朝になる。冬雅は朝の身支度を終え、サキと凛子の部屋を出て一階の食堂フロアに行き、朝ごはんを注文して待っている。
「おはよー、昨日はごめんね」
「いや、別にいいよ」
サキと凛子は二階の冬雅の部屋から出て来て一階に降り、朝ごはんを注文してから彼女達も彼のいるテーブルの所に座る。
「それで今日はどうする?」
「俺はダンジョンに行きたいけど、二人はどう?」
「ダンジョンってまた森のダンジョン?」
「いや、もっと強いモンスターがいるダンジョンだよ。弱い敵を倒しても、レベルが上げづらいから」
「ああ、冒険者の心得に、いくつかダンジョンが載ってたよね」
「そう。その中にあった王都の東にある闇の古代遺跡がいいと思うんだ」
「私はいいわよ」
「私もオーケー」
「じゃあ、色々買い物してから出発しよう。闇の古代遺跡は、王都から一時間はかかる場所だから」
冬雅達は朝食を食べた後、食料品や雑貨などの買い物をしてから、王都の噴水広場から繋がっている東大通りの先にある東門から王都を出る。
「これからは通行税は払わなくてもいいのね」
「そう。冒険者ギルドカードがあるからね」
冬雅達は東門にいる兵士に冒険者ギルドカードを見せて外に出て、草原の街道を進み、その途中の分かれ道に入り、約一時間かけて闇の古代遺跡にたどり着いた。
「結構、歩いたのにあんまり疲れてないよね」
「私も疲れてない」
「レベルが上がって体が強化されているからだと思う」
三人はここに来るまでに草原に出るEランクモンスターを数体倒していたが、それでも体力を消耗してなかった。
「さて、この遺跡の中は今までよりモンスターが強いから、一日でクリアは目指さないで、まず入口付近で全力でスキルを使って戦ってみよう」
「後のことは考えないでいいのね」
「そう。まず、ここのモンスターがどのくらいの強さか確かめよう」
「ここでは火の魔法、使っていいよね」
「うん。広い場所ならいいと思う」
「わかった。私、中級魔法、使ってみるよ!」
三人は闇の古代遺跡の入口から中に入る。この闇の古代遺跡はかなり大きな建物で、中の部屋や通路はモンスターと戦うのに十分な広さだった。
「さて、敵の気配は……」
三人は入口フロアで止まり、冬雅は気配察知のスキルで周囲のモンスターの気配を探る。その入口フロアは前方と左右の三方向に通路が繋がっていた。
「近くに何体かモンスターの気配を感じる」
「ここで迎え撃つ?」
「いや、まず一体でいるモンスターの所に行って戦ってみよう」
冬雅達は右方向の通路へ進む。すると通路の前方に剣と盾を装備した骸骨が一体立っているが見えた。
「いた!」
「あれはDランクモンスター、スケルトンソルジャーだ!」
三人の前に現れたのは戦士タイプの人骨のモンスター、スケルトンソルジャーだった。スケルトンには色々なタイプがいて、弓を装備したスケルトンアーチャー、魔法を使うスケルトンメイジなどの種類がいた。さらにスケルトンソルジャーの上位種である全身鎧を身に着けたCランクモンスター、スケルトンナイトなども存在している。
「カタ、カタ、カタ」
スケルトンソルジャーは冬雅達に気づき、あごの骨を鳴らしながら冬雅達に接近してくる。
「心臓辺りにあるのが魔石かな。多分あれが動力になってるんだと思う」
「ならあれが弱点ね」
接近してくるスケルトンソルジャーの胸部に、紫色の魔力をまとった魔石が見えている。
「ここは私にまかせて!」
凛子が魔導士の杖をかまえ、杖の先に魔力を集中させる。
(むっ、中級魔法は発動に時間がかかる……よし!)
「フレイムピラー!」
凛子が火系中級魔法を発動すると、スケルトンソルジャーの足元から直径三メートルくらいの火の渦が現れ、その火の渦が上昇して火の柱になり、スケルトンソルジャーの全身を飲み込む。
「ガアアアアア!」
「凄い!」
「これが中級魔法!」
火の柱に焼かれたスケルトンソルジャーは骨の半分程度が灰になり、残った骨は地面に散らばって動かなくなった。
「魔石が弱点とか関係なかったわね」
「Dランクも一撃だったわ!」
「スケルトンとかゾンビとかのアンデッドモンスターは火が弱点なんだけど、佐々木さん、知ってたの?」
「えっ?」
「偶然だったみたいね」
「ま、まあ、倒せたんだからいいじゃない」
三人は倒したスケルトンソルジャーのそばに近寄る。
「これは……収納するの?」
「骨はいらないかな。剣と盾と……魔石も回収しておこう」
冬雅は地面にちらばった戦利品をアイテムボックスに収納する。
鉄の剣×1
皮の盾×1
スケルトンソルジャーの魔石×1
「よし、じゃあ、次は俺が全力で戦ってみるよ」
「ならまかせる」
「それでどっちに行く?」
「ええと……こっちだ」
冬雅達はモンスターの気配のする場所へ進む。そこにはスケルトンアーチャーが一体いたが、冬雅がスキルを駆使し難なく倒す。この遺跡のモンスターと十分戦えることを確認した三人は、一階フロアを探索し、スケルトンソルジャー、スケルトンアーチャー、スケルトンメイジなどを倒してレベルが一つ上がって14になった。さらに宝箱を発見し、マナポーション、鋼鉄の盾、魔力の指輪を手に入れた。
「魔力の指輪で、魔力が5あがったよ!」
魔力の指輪を装備した凛子が、ステータスボードを表示してその効果を確認する。
「私も鋼鉄の盾を買わないで済んでよかったよ」
サキも宝箱から入手した鋼鉄の盾を装備していた。
「その盾、重くないの?」
「軽鉄の盾よりは重く感じるけど、問題ないかな」
サキは鋼鉄の盾を軽々と振り回している。
「いい戦利品も手に入ったし、今日はこのくらいで引き上げよう」
「私、残りのMPにまだ余裕があるけど」
「余裕があるうちに引き返したほうがいい。ここはゲームじゃないから、死んだら終わりだからね」
「それもそうね」
「じゃあ、帰りましょ」
冬雅達は闇の古代遺跡の一階フロアを引き返していく。
「ん? この気配は……」
「モンスター?」
「こんな強い気配は今までにな……こっちに来る!」
冬雅達が警戒しながら通路で待ち構えていると、黒色の剣、盾、鎧を装備した人型のモンスターが現れた。そのモンスターは屈強な若い人間の男性のような姿をしていたが、人間とは明らかに違い、肌が青色で、頭に悪魔の角が二本生えていた。
「初めて見るモンスターね」
「なんか強そう……」
「あいつ、何かヤバい気がする……」
次回 最初の試練 に続く