第〇十七話 三日目の夜
「いや、しかし、こんな方法で……」
浅井は、ゼル将軍がひん死にしたシルバーウルフにとどめを刺すことをちゅうちょしている。彼は楽して経験値を稼ぐことに迷いがあるようだ。そうしてる間にゼル将軍は、すべてのシルバーウルフをひん死の状態にした。
「アサイ! ひとりで倒すのも、とどめだけ刺すのも、もらえる経験値は同じだ。お前達には、早く強くなってもらわなければならんのだ。さっさとやれ!」
「は、はい」
浅井は腰の聖剣を抜き、地面に倒れているシルバーウルフに近づいて、とどめを刺す。それを見て剣聖、前田と賢者、黒田もシルバーウルフに近づいて、持っている剣と杖でとどめを刺す。
「聖女様、あんたもだ。モンスターを倒さなければ、経験値はもらえないんだ。さあ、その聖杖でとどめを刺せ」
「ううっ」
(やりたくないけど、やらなくっちゃ……)
聖女、立花も倒れているシルバーウルフを聖杖の下側で突き刺してとどめを刺す。
「おお! レベルが上がった!」
「俺もだ」
「……」
「……」
浅井達は四人ともレベルが5に上がった。冬雅達のパーティは、パーティの誰かがモンスターを倒せば全員が同じ経験値をもらえるのだが、浅井達はパーティを組んでいても、経験値はモンスターを倒した者だけしかもらえなかった。
「まだシルバーウルフは残ってるだろ。さあ、どんどんやれ」
「はい」
このように浅井達はゼル将軍に手伝ってもらい、この廃墟街にいるモンスターを倒していき、レベルを上げていく。
それから時間が進んで夜になり、場面は王都ニルヴァナの宿屋の冬雅の部屋に変わる。サキと凛子は、冬雅とこれからのことを話し合うため、寝る前に彼の部屋に来ていた。
「これで三日目が終わりか」
「今日は色々あって疲れたよー」
「そうね。それで寝る前に、これまででわかったこととか、これからのこととか、色々話しておきたいんだけど」
「そういえば、俺も確認しておきたいことがあったんだ」
「ああ、まじめな話になりそうだから、凛子は寝てていいわよ」
「じゃー、おやすみーって、寝るわけないでしょ!」
サキと凛子がベッドに座り、冬雅は椅子に座って、彼から話し始める。
「まずこの世界のお金の価値だけど、三日の間、買い物した感じだと、1ゴールドが、大体百円くらいだと思う」
「うん。私もそのくらいだと思う。10ゴールドで千円、100ゴールドで一万円ね」
まとめると、
銅貨1枚 1ゴールド 100円
銀貨1枚 10ゴールド 1000円
金貨1枚 100ゴールド 10000円
ということだった。ちなみに金貨は純金で作られているわけではなく、ほかの金属と混ぜて作られていた。
「ということは、3000ゴールドの魔法のかばんは……」
「三十万円くらいってことね」
「これ、三十万のかばんか……」
凛子はテーブルの上に置いた自分の魔法のかばんを見る。
「ただのかばんとしてなら高いけど、魔法のかばんとしてなら安いよね」
「まあね。このかばんが三十万なら、日本なら飛ぶように売れるよ」
「この世界は魔法があるのが普通だから、この値段なんだと思う」
「私、日本に帰れたら、このかばんを絶対、持って帰りたいんだけど」
「そう。その話なんだけど」
凛子の言葉をきっかけに、冬雅が話し始める。
「俺達のこれからの目的は、日本に帰る方法を見つける、ということでいいよね」
「えっ? 当たり前でしょ。私、絶対帰るからね」
「うん。まあそうなんだけど、一応、確認しておこうと思って」
「そうね。あの城の偉そうなおじさんは、伝承には勇者召喚はあったけど、帰る方法は書いてないって言ってたから、帰る方法が存在しないわけじゃないと思う」
サキはアンサズ宰相が話していた内容を覚えていた。
「そう。だからまず俺達が強くなって、色々な所へ行けるようになって、それから帰る手がかりを探すというのでどうかな」
「うん。やっぱり冒険者になったのは正解ね。生産職のままじゃ、生活費を稼ぐ日々だろうしね」
「zzzzz……」
「おいーー! 凛子ーー!」
「ん? んーん。ああ、難しい話は、私はパス……」
凛子は眠たそうにそう話す。
「じゃあ、最後にもうひとつだけ。異世界召喚って、いい異世界召喚と、悪い異世界召喚があるんだよ」
「ああ、国がほんとに困って召喚したのか、自分の欲のために召喚したのかってことでしょ」
「……」
異世界ものの漫画や小説を知っている冬雅とサキの話に、凛子はまたついていけてないようだ。
「そう。それでこの国の異世界召喚なんだけど、まだどっちなのかよくわからない。魔族国に国を侵略されているのは本当らしい。でも『グライン王国の歴史』を読むと、この国は周辺の国と何度も戦争してるみたいなんだ」
「それはこの国が、ほかの国を侵略しようと戦争してたってこと」
「たぶん。本には相手の方が悪いから、国を守るため、しかたなく戦ったみたいなことが書いてあるんだけど、まあ、実際は違うと思う」
「なるほどね。まあ、国の思惑は置いといて、最初に金貨をもらえたのはよかったよね」
「うん。無一文で放り出されなかっただけ、最悪の異世界召喚ではなかったと思う」
「zzzzz……」
凛子はまた二人の話についていけず、いつの間にかベッドに横になっていた。
「もう、無理みたいね。じゃあ、今日はもう休みましょう」
「うん。まだ話し合いたいことがあるんだけど、後でいいや」
「ほら、凛子! 部屋に帰りましょ」
「うーん、めんどくさーい。もうここで寝るーー」
「えっ?」
凛子は冬雅のベッドのふとんをかぶって動かない。
「はー、しょうがない。じゃ、凛子はここに置いておいて、上泉君が私達の部屋で寝る?」
「えっ? それって……」
冬雅は、彼女達の部屋で、サキと一晩過ごすのかと妄想する。
「はい。私達の部屋のカギ。部屋はわかってるよね」
「あっ、ああ、大丈夫」
サキは冬雅に部屋のカギを渡し、冬雅はこの部屋のカギを渡す。彼は自分ひとりで彼女達の部屋で寝るということに気づいた。
「ちなみに私達の荷物は、この魔法のかばんに全部入ってるから、部屋を漁っても何もないからね」
「そ、そんなことしないよ」
「ふふふ、冗談よ。じゃあ、おやすみ」
「おやすみ」
冬雅はこの部屋を出て、魔道具のランプの明かりのある廊下を歩き、同じ階にある彼女達の部屋の前に行って借りたカギで扉を開ける。
「ふー。焦った。ああ、確かに俺の部屋より広い」
冬雅は部屋のテーブルの上にある魔道具のランプをつけて、サキ達の部屋を見渡し、荷物が何もないことと、ベッドが二つあることを確認する。
「はー。寝るか」
冬雅は魔道具のランプの明かりを消して、部屋の入口側のベッドに横になる。
「ん? いいにおいが……このベッドはどっちの……いやいや、そんなことを考えては、彼女達に申し訳な……」
冬雅は頭の中が色々な妄想でいっぱいになるが、その日は疲れていたので、いつの間にか寝てしまった。
場面は王都ニルヴァナの冒険者ギルドの一階のフロアの事務室に変わる。冒険者ギルドの一階で今の時間、酒場が開かれていて、冒険者達が飲みながら騒いでいる声がこの部屋まで聞こえている。
「はー、あいつらはいいな。こっちはまだ仕事だというのに」
事務室で若い男性職員が、椅子に座りながら机の上の何かの資料を見ている。
「今日、冒険者登録したのは、戦士ジン、狩人マサト、魔法使いキュリア、僧侶アイム、戦士トウガ、騎士サキ、魔法使いリンコか……」
次回 闇の古代遺跡へ に続く