第〇十六話 勇者達の訓練
「あれかな」
冬雅は店の奥にあるガラスのショーケースに並んでいる魔法のかばんを見つけて、その前まで来る。そのガラスの扉にはカギがかかっている。
「色々な種類があるのね」
「それで一番安いのは……」
サキと凛子もガラスのショーケースの前に来て、並んでいる魔法のかばんと、そこにある値札を見ている。
「冒険者の心得に書いてあったとおりの値段だ。ここは信用できる店みたいだ」
「私はウエストポーチタイプがいいかな。動きやすそうだし」
「魔法使いは動き回らなくていいし、どれでもいいよね。じぁあ……これかな」
凛子は肩にかけるタイプの薄いバックを選ぶ。
「これは店員さんに言って買うのよね」
「魔法のかばんは高いからでしょうね」
魔法のかばんが置いてある場所は、店員がいるカウンターからよく見える場所にあった。
「すみませーん。魔法のかばんが欲しいんですが」
「いらっしゃい。どれがいいんだ?」
そう言って中年の男性店員が、冬雅達がいるガラスのショーケースがある場所に来る。
「私はこれです」
「私はこっちで」
「二つも買ってくれるのか。じゃあ、少しまけようか」
「ありかとうございます!」
「お兄さん! ありがと!」
中年の男性店員は、腰につけてあるカギからガラスのショーケースのカギを手に取り、扉を開けて二人が選んだ魔法のかばんを取り出す。
「じゃあ、支払いしてくるね」
「俺はスキルブックを見てるよ」
サキと凛子は魔法のかばんを買うため、店員とカウンターへ行き、冬雅はスキルブックが並んである棚へ行く。
「結構、種類がある……でも高いな。まあ、スキルが安いわけないか」
冬雅は並んであるスキルブックと貼ってある値札をはじから見ていく。
「夜目は、夜でも見えるようになるスキルかな。罠看破は、ダンジョン攻略には必須のスキルだ。聴覚強化は、耳がよく聞こえるようになるんだろう。ほかに、望遠眼、毒無効、パワーブースト、気配遮断結界……うおおおお、欲しいスキルがいっぱいある! だけど高い!」
冬雅はスキルブックの棚の前でテンションが上がっている。
「ん、点火? 火をつけるスキルかな。クリーンは汚れを綺麗にするスキルで、水生成は水を作り出すスキルか」
魔道具屋には戦闘用のスキルだけでなく、生活が便利になるスキルブックも売っていた。
「俺は魔法のかばんはいらないから、3000ゴールド分くらいなら使ってもいいはず!」
冬雅は予算を決めて欲しいスキルを選んでいく。
「罠看破はこれから絶対必須だ。気配遮断結界は、野宿とか休憩とかに使える」
気配遮断結界の効果は「冒険者の心得」に書いてあり、気配、音、匂いを遮断する結界を展開するスキルだった。
「後はクリーンも欲しい。色々綺麗にできるはず」
冬雅は罠看破と気配遮断結界とクリーンのスキルブックを持ってカウンターに行く。そこではサキと凛子が、店員から魔法のかばんの使い方を教えてもらっていた。
「ん? 上泉、スキルブックを買うの?」
「うん。使えそうなのがあったから、買っとこうと思って」
「じゃあ、私も……とはいかないか。魔法のかばん買っちゃったから、今日は止めとこう」
「自制が効くなんて、凛子も大人になったわね。子供の頃なんか……」
「はいはい。そんなこと言わなくていいの!」
「じゃあ、これください」
「まいど!」
冬雅は店員にスキルブックの代金を支払い、罠看破、気配遮断結界、クリーンを手に入れた。
「またお金をためて来ましょう」
「今度来た時は、私もスキルブックを絶対買うよ!」
冬雅達は買い物を終え、魔道具屋を出る。
「次はどうする? 予定通り武器屋に行く?」
「うーん。私達、普通より強いんだから、慌てて買わなくてもいいんじゃない?」
「そうねー。今日はお金使っちゃったしねー」
「お金はある程度残しておいたほうが、心に余裕ができるでしょ」
「じゃあ、今日はもう宿屋に帰って、ゆっくりしようか」
冬雅達は今日の活動を終え、宿屋へ向かって歩いていく。
場面は王都ニルヴァナの北の廃墟街に変わる。ここにゼル将軍とグライン騎士団の騎士達と共に、勇者パーティと、騎士団に入った武藤などの生徒達がいた。彼等は馬車や馬に乗って一時間くらいかけてここにやってきていた。
「ぐあっ! た、助けて!!」
二本の剣を持った二刀流剣士の武藤が、シルバーウルフに攻撃を避けられ、太ももを噛まれてしまう。シルバーウルフはDランクモンスターで、灰色の体毛で普通の狼より一回り体が大きな獣のモンスターだった。
「ふん!」
そのシルバーウルフをゼル将軍が軽く大剣を振るい、体を切り裂いて倒す。
「い、痛いっ! は、早く治療を!」
「はぁ、その程度で大げさな。聖女様、治してやってくれ」
「は、はい!」
ゼル将軍に指示され、聖女の立花が急いで武藤のそばに走っていき、噛まれて血が出ている太ももに向けて持っていた聖杖をかざす。
「エクストラヒール!」
するとその聖杖が光り出し、武藤の足の傷がみるみるうちにふさがって治る。
「はー。レベル4のお前達では、このあたりのモンスターは無理か。しかたない。モアレ副団長!」
「はっ!」
離れた場所にいた鎧を装備した若い男性が走ってくる。
「お前は騎士団の半分を連れて昨日の草原に戻って、新人達のレベル上げを手伝え。俺と騎士団の半分と勇者パーティは、ここでレベル上げを続ける」
「了解しました」
彼等は昨日までは王都ニルヴァナの北の草原でレベル上げをしていた。そして今日は草原より強いモンスターのいるこの廃墟街に来たのである。
「よし、俺達は昨日の草原まで戻るぞ!」
モアレ副団長、騎士団の半分、そして武藤などの新人達が、廃墟街から馬車や馬に乗って出ていく。
「さて、もう少し進むぞ」
「はい」
一方、残った者達は、ゼル将軍と勇者である浅井が先頭に立って廃墟街を進んでいく。その浅井は豪華な鎧を身に着け、腰に勇者にふさわしい聖剣を帯剣していた。
「おっ、来たな」
「あ、あの狼があんなに……」
浅井達が進んでいくと、目の前にシルバーウルフが十二体現れた。
「グルルル」
シルバーウルフ達は、浅井達を睨みながら少しずつ近づいてくる。
「いいか。アサイ。強いモンスターを倒せば、それだけ早くレベルが上がる。あいつらを倒せば、お前達はレベルが上がるだろう」
「でも俺たちの強さでは、あの数すべてを倒すのは無理です」
「だろうな。だから!」
ゼル将軍はひとりで十二体のシルバーウルフに向かって走っていく。それを見たシルバーウルフ達も走り出し、ゼル将軍に次々と飛び掛かる。
「ガウウウウウ!」
「うおりゃあああああ!」
ゼル将軍は大剣を豪快に振るい、口を大きく開けて襲ってきたシルバーウルフを、斬って、斬って、斬りまくる。
「ガアアアアアアア!」
ゼル将軍に斬られたシルバーウルフ達は、血を流しながら地面に倒れていく。
「す、凄い!」
「あれがゼル将軍の力か!」
ゼル将軍の強さを見た浅井、前田、立花、黒田が驚いている。
「何をしている! こっちに来て、早くとどめを差せ! こいつらはまだ死んでない!」
次回 三日目の夜 に続く