第〇十四話 冒険者ギルドへ
冬雅、サキ、凛子の三人は同時にレベル13になり、新たなスキルを取得した。
冬雅
加速
使用者の速さと回避率が十五分間20%上昇
消費MP 15
サキ
堅牢
使用者の防御力が十五分間20%上昇
消費MP 15
凛子
魔力チャージ
次に発動する魔法の威力を二倍以上にする
消費MP 20
「俺は加速、動きが速くなるスキルだった」
「私は堅牢、防御力が一時的に上がるみたい」
「私は魔力チャージだって」
「ああ、それはボス戦で有効なスキルだよ。魔力チャージからの攻撃魔法で大ダメージを与えるやつ」
「なるほど、ボス戦で使うのか」
スキル確認が終わり、三人は地面に倒れているレインボーバードの死骸を見る。
「七色の鳥も高く売れそうじゃん」
「レアモンスターだし、羽根の色が綺麗だしね」
「じゃあ、収納!」
冬雅はアイテムボックスにレインボーバードの死骸を収納する。
「七色の鳥の名前、レインボーバードだって」
「見たままの名前か!」
「レインボーバードも倒せたし、今日はもう王都へ帰ろう」
冬雅達は戦闘をなるべく回避しながら森を出て草原の道を進み、王都ニルヴァナの噴水広場に帰ってきて少し休憩してから、冒険者ギルドの前に立つ。
「ふー、とうとう冒険者ギルドで登録か」
「冒険者ギルドって、八割の確率でからまれるんだっけ?」
「そう。そのために、先にレベルを上げたんでしょ」
「じゃあ、からまれたら戦うの?」
「むっ、そうか。その場合、対人戦か……」
冬雅はモンスターとの戦いは慣れてきたが、対人戦はしたことがないので不安になってくる。
「対人戦ってギルドの中で戦うの?」
「異世界ものでは色々なパターンがあるよ。その場で戦ったり、場所を移動して決闘として正式に戦ったり……ああ、なんか緊張してきた」
ここでサキが考えていたことを話し始める。
「私、思うんだけど、異世界もので冒険者ギルドでからまれるのは、読者をドキドキさせるための作り話だからで、実際はそうそうからまれないんじゃないかな」
「えっ? そうなの?」
「それなら俺の取り越し苦労だったでいいんだけど、万が一の場合があるから怖いんだよ」
「そうね。確かに万が一のことは考えておかないとね」
「八割と万が一って全然違うじゃん! からまれるの? からまれないの? どっちなの?」
「うーん」
冬雅が凛子になんて返そうか考えていると、冒険者ギルドからクラスメイトの鍋島、本多、ほか二名が出てきた。
「おっ、上泉。それと宮本さんと佐々木さん。どうしたんだ?」
「というか、なんで三人は武装してるんだ?」
鍋島と本多の質問に冬雅が答える。
「ええと、実は宮本さんと佐々木さんとパーティを組んで冒険者になりたいんだけど、冒険者ギルドに入ったら荒くれ冒険者達にからまれるんじゃないかって心配なんだよ」
「んっ、上泉は生産職じゃなかったか? それに二人も」
「ええと、それは……」
冬雅は鍋島達に転職できることを話していいかどうか迷う。
「ああ、生産職でも王都の中の掃除みたいな依頼ならいけるか」
「冒険者になりたいんなら俺達と一緒に……いや、生産職では一緒に行くのは危険か」
「そうだな。俺達はこれから王都の西にある初心者用のダンジョンへ行くところなんだ。草原でモンスターを狩り続けて、三日間でレベルが4になったからな」
「えっ? レベル4!」
「4? 聞き違いじゃなくて?」
「三日で4って、どういうこと?」
鍋島達のレベルを聞いた冬雅、サキ、凛子が驚いた顔をしている。
「おっ、驚いたか? ギルドの受付嬢も驚いてたぞ」
「ああ、三日でレベル4だからな。こっちの世界の冒険者なら、普通は二週間くらいかかるらしい。多分俺達がこの世界の人間じゃないから、何かの補正があるんだろうな」
「そのために俺達はこの世界に呼ばれたんだろ。たぶん、俺達はもっと強くなれる」
鍋島達はやる気に満ちた表情をしている。そこへ冬雅が質問する。
「ええと、色々と聞きたいことがあるんだけど」
「ああ、ギルドでからまれるかもってことだろ。今なら大丈夫だ。からんできそうな冒険者がいるのは夜だけらしいからな」
「そうそう。ギルドの中に酒場があるんだけど、夜からだからな。受付も酒場が始まると、男の職員に変わるって言ってたな」
冒険者ギルドの受付の担当は女性の職員が多いのだが、酔っ払いが多くなる夜は受付可能なカウンターが一か所になり、そこを男性の職員が担当することになっていた。
「なるほど、昼間なら安全なのか」
「それに今はすいてるしな。朝と夜は冒険者が多いけど」
「朝は新しい依頼書が張り出されるからな」
「じゃあ今なら大丈夫なのか。よかった」
冬雅は鍋島達の話を聞いて安心する。
「そんなに心配なら俺たちがついていこうか?」
「いや、大丈夫。それと今から少し二人と話すことがあるし」
そう言いながら冬雅はサキと凛子を見る。
「そうか。じゃあ俺たちはダンジョンに向かうか」
「もし何かあれば、俺たちが力を貸すからな」
「うん。ありがとう」
鍋島達は王都の西にある初心者用のダンジョンに向かって行った。
「ちょっと作戦会議しよう」
「うん」
「そうね」
冬雅達は噴水広場の人が周りにいない場所に移動する。
「ど、どういうこと? 私達のレベル、13よね」
「間違いなく13だよ」
「こっちの世界の人はレベル4になるのに二週間かかるって言ってたよね。私達は三日でレベル13……」
三人は自分達が異常なスピードで強くなっていることに気づく。
「ちょっとおかしいと思ってたのよね。一人前の冒険者のレベルが10くらいでしょ」
「そう冒険者の心得に書いてあった」
「でも普通、一人前になるのに、三日って早すぎるでしょ」
サキは自分達が強くなる早さに、違和感を感じていたようだ。
「うーん。俺はレベルの上がる早さに何も違和感を感じなかった……そうか! わかった!」
「何?」
「ゲートオブアルカディアだよ。ゲートオブアルカディアを遊んでいるのと同じようにレベルが上がってるんだ」
「ん? どういうこと?」
サキは、冬雅にもっと詳しい説明を求める。
「ええと、コンシューマーのRPGって、一日に三、四時間遊べば、十日から二週間くらいでクリアできるんだよ」
「私はゲームは一日一時間くらいだからもっとかかるけど、早い人はそのくらいなのね」
サキはクリアを急がず、少しづつ遊ぶプレイスタイルだった。
「それでゲートオブアルカディアは三日プレイすれば、だいたいレベル10くらいになるんだ」
「あー、わかった。私達のレベルの上がるスピードが、ゲームと同じってことでしょ」
「そう! ゲートオブアルカディアもラスボス倒すのに二週間くらいかかって、それがレベル80くらいなんだ」
「つまり私達も二週間でレベル80になれるってこと?」
「たぶん。いや、ゲームと現実では移動時間とか違うから、まったく同じってわけにはいかないと思う。ゲームなら二週間で世界中を回って色々なダンジョンをクリアできるけど、現実では無理だし」
「確かに」
ゲームではプレイヤーにストレスを与えないため、目的地に魔法を使って一瞬で移動したり、行きたい場所を選んだらすぐに到着したりして移動時間を省略したり、睡眠の時間も一瞬で終わったりするので、冬雅はそう考える。
「だから現実では、三か月以上はかかると思う」
「それでも三か月でレベル80か……」
冬雅とサキは、ゲートオブアルカディアのスキルの凄さを改めて理解した。
「上泉君のスキル。間違いなくチートって奴でしょ。転職できない世界で転職できて、レベルも早く上がる……。こんなの城の人達に知られたら、絶対連れてかれるよ」
「確かに。だから鍋島達にも今は言わないほうがいい。鍋島達をこの件で巻き込むかもしれないし」
「これは誰にも言えないわね。凛子も誰にも言っちゃ駄目だからね」
「わかってるよ。私達のレベルと転職できるってことは内緒ってことでしょ」
冬雅とサキの会話にいまいちついていけなかった凛子も、そのくらいは理解していた。
次回 魔道具屋へ に続く