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第百二十〇話 教会の女神

 三か国連合が王都ニルヴァナでの戦いに勝利した次の日の朝、冬雅、サキ、凛子、コロポックルが、王都ニルヴァナの中央広場付近にある宿屋から出てくる。その宿屋には武藤などのほかのクラスメイト達と、浅井達、勇者パーティも一緒に泊っていた。

 浅井達はグライン城から退避した後、グライン城の城門が見える路地裏に隠れていたが、冬雅や武藤達が出てくるを見て合流し、同じ宿屋に泊ることになった。


「大通りの宿屋が再開してよかった。ここがやってなかったら、安全かどうかわからない宿屋に泊るしかなかった」


 王都ニルヴァナの大通りは グライン城からあふれ出たモンスターの移動ルートになっていたので、その周辺の店や宿屋はすべて閉まっていた。大通りから離れた場所にある店や宿屋は営業していたが、中には安全かどうかわからない怪しい店もあった。


「まずは、冒険者ギルドに行こう」


 昨日、冬雅達が倒したSランクモンスターの死骸は、昨日のうちに冒険者ギルドに運ばれ、解体が始まっていた。冬雅達はその魔石をもらうため、朝から武装して冒険者ギルドの入口から中に入る。すると朝は依頼書が更新されるのでたくさんの冒険者がいるはずだが、今日はあまり冒険者はいなかった。


「昨日、再開されたばかりだから、人がまだ少ないみたいだ」

「とりあえずカウンターへ行きましょ」


 冬雅達は冒険者ギルドの一階の受付カウンターに行き、Aランクの冒険者ギルドカードを見せる。すると受付嬢は二階の応接室に冬雅達を案内し、そこで彼らはヨルムンガンドとキマイラ変異種の魔石を手に入れた。今回の戦いの報酬はすでにメイル国軍から大量の金貨でもらっていて、倒したモンスターの素材は、冬雅達が魔石だけもらう約束をしていた。ちなみにヴァンパイアロードとグレーターデーモン変異種は魔石を持ってなかった。


「鍋島達は……いないか」


 Sランクの魔石を入手した冬雅達は、一階に降りて周りを見渡す。だがそこに冒険者になったクラスメイトの姿はなかった。


「鍋島達も無事だといいんだけど」

「そうね。でもここで待つより、中央広場に行ってみようよ。この付近には商業ギルドもあるし、ほかの誰かと会えるかもしれないよ」


 サキの提案で、冬雅達は冒険者ギルドを出て、中央広場にある売店でジュースを買って、ベンチに座る。


「そうだ。ランダムスキル強化オーブって、ひとつしかないよね。誰が使うかじゃんけんしよ!」

「あっ、ランダムスキル強化オーブのこと忘れてた」

「恨みっこなしの一回勝負ね」

「じゃあ、最初は……って、おじいちゃんはどうする?」

「ふむ。じゃんけんとは何じゃ?」

「ああ、それは……」


 凛子がコロポックルにじゃんけんを説明する。


「おほっ、それは面白そうじゃ!」

「じゃあ、最初は……グー」


 冬雅、サキ、凛子、コロポックルがじゃんけんをして、凛子が勝利する。


「やった! 上泉!」

「はいはい」


 冬雅はアイテムボックスからランダムスキル強化オーブを取り出して凛子に渡す。


「で、これ。どうやって使うの?」

「手に持って使おうと思えば使えるんじゃないの?」

「やってみる」


 凛子はランダムスキル強化オーブを右手で強く握って念じる。すると彼女の右手のが光り出し、やがてその光が消える。


「これで終わり?」

「ステータスボードで確認してみれば?」

「よーし! ステータスボード、オープン!」


 凛子がステータスボードのスキル欄を確認する。


「あっ、香水作成が、回復薬作成になってる!」

「じゃあ、ポーションとか作れるの?」 

「さあ? というか、まず材料とかわからないし、作り方もわからないよ」

「なら、そこから勉強して作れるようになると、成功率が上がったり、効果が上がったりするのかもね」

「げー。勉強とかやだー」

「あっ、そうだ」


 冬雅はアイテムボックスからエリクサーを取り出す。


「これを参考にして、最終的にエリクサーを量産できるようにがんばって」

「エリクサーね。まあ、暇なときに、ちょっとづつならやってみるか」


 凛子はエリクサーを手に取りじっと眺めている。


「おっ、上泉!」

「鍋島!」


 中央広場に、冒険者になった鍋島、本多、ほか二人が現れ、ベンチに座っている冬雅達に近づいてくる。


「みんな、無事だったか」

「お前達もな。というか、避難していたお前達が、この危険な時になんで戻ってきたんだ?」

「まあ、いろいろあってメイル国軍と一緒に戻ってきたんだよ。それでほかのみんながどうなってるか知ってるか?」

「ああ、城を出たみんなとは、たまに連絡を取っている。それと何かあったらこの中央広場で会うことになってるんだ」

「みんな無事か。それはよかった。ああ、城にいたみんなは、そこの宿屋に泊ってる。浅井達も一緒だ」

「そうか。なら全員無事……」

「ちょっと待って。斎藤君がいないよ」


 凛子がそう指摘する。斎藤とは、冬雅達のクラスメイトで錬金術師になった男子生徒だった。


「確か王宮錬金術師になってたような……」

「でも城には誰もいなかったから、モンスターがあふれた時、逃げ出したのかも」

「じゃあ、王都のどこかに隠れてるかもしれないわね」

「それを探すのも大変だ」

「そうだな。町の中に斎藤がいないか、探しながら歩くようにしよう。それで上泉達はこれからどうするんだ?」

「一応、メイル国で日本に帰る方法がないか調べてみたんだけど、まだ見つけられてない。だからこれからはこの王都で帰る方法を調べてみるよ」

「そうか。俺達は冒険者ギルドの依頼を受けに行く。しばらくギルドが休みだったから、生活費を稼がないと」

「あっ、ならちょっと待って」


 冬雅はアイテムボックスから金貨の入った袋を取り出す。


「俺のスキルでメイル国で稼げたから、これを四人で使ってくれ」

「いいのか?」

「ああ、まだまだあるから遠慮するな。浅井達にもあげたしな。あとほかの奴らに会ったら、俺がお金を配ってるから取りに来るように伝えてくれ。俺達はあの宿屋に泊ってるから」

「まじか。生産職のスキルって凄いんだな」

「よし、生活費はこれでなんとかなりそうだから、俺達は斎藤を探しに行くよ」

「わかった。頼んだぞ」


 鍋島パーティは行方がわからないクラスメイトを探しにいく。


「さて、俺達はあの教会に行ってみよう」

「今度こそ、帰る手がかりが見つかりますように……」


 冬雅達は以前、冒険者ギルドの掃除の依頼で行った教会を目指して歩いていく。そしてその教会に到着すると、入口に掃除をしている中年女性のシスターがいた。


「あら、あなた達は……」

「お久しぶりです。今日は祈りに来たんですが、中に入ってもいいですか?」

「もちろんですよ。さあ、中へどうぞ」


 冬雅達は教会の中に入り、礼拝堂の女神像の前に移動する。


「サキ、お願いね」

「一応、二人もお祈りしてよ」

「わかった。そのほうが効果があるかもしれない」

「じゃあ、お祈りしてみますか」


 三人は女神像の前に立ち、眼を閉じてお祈りする。


(女神様! 聞いてください! 私達はこの国の権力者に無理やりこの世界に呼ばれました。どうか私達を元の世界に戻してください!)

「「何ですって!」」



 次回 疑問 に続く

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