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第百十九話 投降兵

「そうか。トウガがそう言うのなら、ヴァンパイアロードを倒したんだろう」


 分魂のスキルを持っているヴァンパイアロードをどうやって倒したのかをリーナは聞かず、冬雅の言葉を信じる。


「ああ、リーナ師匠。それとグライン王国の勇者パーティですが、契約の呪いで戦わされていました。すでにその呪いは解いたので、彼らとは戦う必要はありません」

「は? ええと……」


 リーナは一度に色々な情報を聞かされて、冬雅の話が頭に入ってこなかったので、彼は詳しい状況をもう一度リーナに伝える。


「そうか。わかった。勇者パーティは、お前達の友人だったな」

「はい。それと彼らと同じように、だまされてほかの友人達もグライン王国軍に入ってました。だから彼らを見つけたら保護して欲しいんです」

「それはいいが、誰が友人で、誰がグライン王国軍か見分けがつかんから、お前達も一緒に中に入ってくれ」

「わかりました」

「よし。偵察部隊が先行して城内に突入しろ」

「はっ」


 気配察知などの感知系を持っている偵察部隊が先にグライン城に入り、その後を冬雅達とメイル国騎士団がついていく。すると城内には人もモンスターもいなかった。


「誰もいない。軍に入った奴らは、いったいどこに行ったんだ?」

「城にモンスターがあふれてたって言ってたから、その時、逃げたんじゃないの?」

「そうかもね。みんな無事だといいんだけど」


 冬雅達が戦闘職だったクラスメイト達を心配している。


「後は王都内にある軍の施設も調べよう。偵察部隊と騎士団で一緒に行ってくれ」

「はっ」


 グライン城を確保したメイル国軍は、王都内にある兵舎や待機所などの軍の施設も調べ始める。そしてリーナと冬雅達が中庭に戻ってきたところに、西側でモンスター軍団を壊滅させたラヴァ帝国軍と聖王国軍とシャルロッテ達がやってきた。


「リーナさん。敵は?」

「ここにはモンスターもグライン王国の兵士もいない。今、王都内の軍の施設を調べさせているところだ」

「ではヴァンパイアロードは?」

「奴はこのアンサズ宰相の体を乗っ取っていたようだが、すでに倒した。もうヴァンパイアロードはいない」

「ではこの戦いは終わりですね」

「ああ。そうだ。リチャード!」

「はっ」


 リーナがメイル国騎士団のリチャードを呼ぶ。


「王都の冒険者ギルドに行って、今の状況を報告しに行ってくれ。この戦いは冒険者ギルドの救援要請によって始まった戦いだからな」

「わかりました」


 リチャードは馬に乗って中央広場にある冒険者ギルドへ向かっていく。


「ラッパー団長。私たちはグライン城の中をざっとしか調べてないから、詳しく調べてもらってもいいか?」

「ああ、それくらいはやらせてもらおう」

「俺達も協力するぞ。特に隠し宝物庫とかないか調べないとな」


 ラッパー団長率いるラヴァ帝国軍と、ブレット神官長が率いる聖王国のテンプルナイトが、一斉にグライン城の隅々まで調べ始める。


「それでこの王都はどうなるんですか?」

「とりあえず、三か国連合で統治することになるだろう。だがグライン王国には、ほかにもいくつも町や砦などの拠点がある。そこと戦いになるかもしれんな」


 その後、王都ニルヴァナ内にある軍の宿舎にいた三十人くらいの兵士達をメイル国騎士団が見つけ、彼らの両手をロープで縛って、グライン城に戻ってきた。


「リーナ団長。降伏した兵士達を連れてきました」

「うむ。ご苦労。ではグライン城の地下の牢屋に……」

「武藤!」

「上泉!」


 冬雅は投降兵の中に、クラスメイトで友人の武藤がいることに気づき、名前を呼ばれた武藤も、冬雅に気づく。


「上泉?」

「ほんとだ。上泉だ」

「あっ、宮本さんと佐々木さんもいる」


 さらに投稿兵の中にはほかのクラスメイト達もいて、冬雅たちがいることに気づく。一方、冬雅は、武藤がいる場所に走って行って声をかける。


「無事だったか」

「ああ、騎士団に入ったみんなも全員無事だ」


 ここに来た投降兵の中に、グライン王国の騎士団に入った冬雅のクラスメイト達が全員いた。


「それはよかった。それで今までの経緯を教えてほしいんだ」

「ああ。一週間以上前、グライン城がモンスターの群れであふれかえってな。城の兵士達は全員逃げ出して、俺達も城から逃げ出した。それで大半の兵士たちは西グライン砦に行くと言って王都を出ていった。でも俺達はやつらについていかずにここに残ったんだ」

「それはいい判断だったな」

「だって、奴らは上官の命令は絶対だとか言って俺達に雑用ばっかりさせるし、訓練は厳しいし」


 武藤やほかのクラスメイト達も、グライン王国の対応に不満を持っていたようだ。その会話を聞いていたリーナが近寄ってきて声をかける。


「トウガ。彼がさっき言ってた、だまされてグライン王国軍に入った友人とやらか」

「はい。ほかにも俺の同郷の友人達がここにいます」

「ではトウガの友人たちはここで開放しよう。トウガが責任を持って管理しろよ」

「はい! ありがとうございます!」


 冬雅は武藤の両手を縛っていた紐をほどいで自由にし、ほかのクラスメイト達も、サキと凛子がロープをほどくのを手伝って開放された。


「はぁ、よかった。どうなることかと」

「上泉! 助かったよ」

「サンキュー! 上泉!」

「気にするなって」

「宮本さん。ありがとう」

「佐々木さんも」

「いえいえ。どうしたしまして」

「みんな無事でよかったよ」


 冬雅のクラスメイト達は解放されて安心している。


「いいんですか? 敵国の投降兵を解放してしまって」


 リーナのそばにいた騎士団の団員がそう聞く。


「かまわん。というか、トウガ達の要望はできる限り叶えたほうがいい。もしトウガ達を敵に回したら、メイル国が滅ぶぞ!」

「た、確かにそうですね。了解です」

「まあ、トウガ達が、国を亡ぼすようなことはしないということはわかってるがな」


 その後、今の状況を報告された王都ニルヴァナの冒険者ギルドが、王都のモンスターが一掃されたことと、今後は三加国連合がこの王都ニルヴァナを統治することを王都内に発表した。そしてその日のうちに、閉じていた大通りの飲食店や宿屋などが再開され、王都の住民に日常生活が戻ってきた。

 住人の中には敵対国が統治することに不安な者もいたが、三か国連合の兵士達は略奪や暴力行為などはせず、紳士的に対応してたので、王都ニルヴァナの日常は思っていた以上に早く戻ってきた。



 次回 教会の女神 に続く

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