第百十四話 グライン王国の勇者
冬雅達やシャルロッテ達の活躍で、王都ニルヴァナの東側の城壁の外側にいたSランクモンスターは倒され、メイル国軍は残ったモンスター軍団と有利に戦っていた。
そして冬雅、サキ、凛子はレベル75、コロポックルはレベル73になっていたが、新たなスキルは習得してなかった。
「リーナ師匠!」
「おお、お前達か! よくやってくれた!」
戦況が少し落ち着いたので、冬雅、サキ、凛子は、ヨルムンガンドが破壊した城壁の場所にいるリーナと合流する。ちなみにコロポックルはまだ黄龍の姿で、メイル国軍がいる上空に浮いて待機している。
「それでこれからどうしますか? ここから中へ突入しますか?」
冬雅は破壊された城壁から王都内を見ながらリーナにそう話す。
「いや、まだ北側と南側では戦いが続いている。それに西側にもモンスター軍団いるらしい。そいつらがどう動くのかまだわからん」
ヴァンパイアロードは、王都ニルヴァナの東西南北にモンスターの軍団を配置していたが、西側からはどこの国も攻めてなかったので、そこにいるモンスターはまだ動いていなかった。
「このまま我々だけで王都内に突入すると、ラヴァ帝国軍と聖王国軍がどうなるかわからん。まずは城壁の外のモンスターを壊滅させたほうがいい。だから私達は北と南に兵力を分けて両国に援軍を出す」
「北と南にはSランクモンスターもいるんですか?」
「いや。Sランクモンスターはいないらしい。ヴァンパイアロードはSランクモンスターを東側にだけ配置したようだ」
ヴァンパイアロードは、黄龍対策でSランクモンスターをメイル国軍が攻めてくる東側に集めていた。
「なら俺達は先に王都内に入っていいですか? 中にいる友人たちが心配なので」
「うーむ。いくらお前達でも単独では……いや、Sランクモンスターを倒す奴等にそんな心配はいらないか。ちょうど王都内の調査をしようと思ってたところだ」
この破壊された城壁からは、グライン城の様子まではわからなかった。リーナはモンスターであふれていると連絡があったグライン城の様子を確かめようとしていた。
「わかった。じゃあ、三人は馬に乗って大通りを進んで、グライン城の様子を見てきてくれ」
「わかりました」
「それと偵察部隊!」
「はっ!」
「お前達も王都内に侵入して、建物の陰に隠れて気配を隠しながらグライン城と王都内の様子を探ってきてくれ。今回は、トウガ達と偵察部隊との二段構えでいこう」
「わかりました」
作戦を理解した冬雅は、上空に浮いている黄龍に向かって叫ぶ。
「コロじいは、リーナ師匠達と一緒に行動してくれ」
王都内で黄龍の広範囲攻撃を使うわけにはいかないので、冬雅がそう指示し、黄龍がうなずく。
「それは助かる。黄龍がいれば、外での戦いは何とかなるだろう」
「では行ってきます」
冬雅、サキ、凛子は、馬に乗ったまま、破壊された城壁のがれきの上を移動して王都内に入り、大通りを駆けていく。
「誰もいないね」
「いや、何人かの人の気配は感じる。みんな家の中にいるみたいだ」
王都ニルヴァナにモンスターが現れても、王都から逃げ出さなかった住人たちは、この戦いが始まってから息をひそめるように家の中にいた。
「町の中が汚れてる」
「モンスターが現れてから、住人達は、まともな生活ができてないんだろう」
「建物が壊された様子がないのはよかった」
冬雅達は荒れた王都内の様子を見ながら馬に乗って大通りを走っていく。そしてグライン城が見える位置まで来て馬を止める。
「私、望遠眼で見てみるわ」
サキはグライン城の様子を望遠眼で探る。するとグライン城の城門は開いていて、中庭が見える状態だった。そしてそこにはモンスターの姿も人の姿も見つけられなかった。
「誰もいないみたい」
「それならグライン城にいたモンスターは、城壁の外に出たのかもしれない」
「ちょっと待って! 城の中から強い魔力を感じるんだけど」
魔力感知能力の高い凛子は、グライン城の中から強い魔力を感知する。
「たぶんヴァンパイアロードだろう」
「うん。でもほかにも強い魔力を感じるよ」
「ヴァンパイアロードが呼び出したSランクモンスターかも」
「それでどうする? モンスターが少ないなら、私達だけで倒しちゃう?」
「うーん」
冬雅は少し考えてから凛子の質問に答える。
「いや、ヴァンパイアロードの罠があるかもしれない。ここはリーナさん達の所に戻って、外の敵を一層してから全軍でグライン城に……」
「あ、あれは……浅井君たちだ!」
サキはグライン城の城門から見える中庭に、浅井、前田、立花、黒田の四人が出てきたことに気づく。
「よかった。無事だったか。じゃあ、リーナさんの所に戻る前に、浅井達のところに行って、今の状況を聞いてみよう」
「私たちのこと、話しちゃっていいの?」
「グライン王国はヴァンパイアロードに乗っ取られてる状態だし、もう俺達のことを浅井達に隠す必要はないと思う」
「なるほどね。じゃあ、行きましょう」
冬雅達はグライン城の城門を馬に乗ってくぐって中庭に到着し、三人は浅井達の前で馬から降りる。
「何者だ!」
「浅井君!」
「ん? 君たちは……」
冬雅達は顔がわからないように変装しているので、浅井達は彼らのことがわからなかった。
「ああ、俺達だよ」
冬雅は防塵ゴーグルとマフラーを外して浅井達に顔を見せる。
「あっ、上泉君? どうしてここに?」
「ここの冒険者ギルドからメイル国に救援要請があって、助けに来たんだよ。俺達はメイル国にいたから」
「何っ? メイル国から来たのか?」
「ああ。今、メイル国軍とほかの国の軍も来て、今、外でモンスターと戦っている」
「つまり上泉君たちは、メイル国軍と一緒に来たのか」
「そう」
その言葉を聞いて、浅井、前田、立花、黒田が、武器を構えて戦闘態勢になる。
「なっ! どうした?」
「侵略者め! 俺達はこのグライン王国を守るため戦う!」
「は? いや、違う! 俺達はヴァンパイアロードを倒しに来たんだ!」
「やはりそうか! ヴァンパイアロード王は倒させない!」
「は?」
冬雅達は、浅井達が何か正常じゃないような雰囲気に驚く。
「まさか、ヴァンパイアロードに洗脳されてるのか?」
「洗脳? 違う! 俺達は強くなるため、グライン王国からスキルや武器や経験値を得る代わりに、この国を守ると契約している。だからグライン王国を侵略者から守る義務がある!」
「あっ!」
冬雅は最初にこの国に召喚され、浅井が強力なスキルブックをもらった時、何かの契約書を書いていたのを思い出した。
次回 契約の呪い に続く