第〇百七話 ダークメタルドラゴン戦
サキが発動したスキル「アイギスの盾」の効果によって、黄龍の前に巨大な円状のバリアが出現し、ダークメタルドラゴンが吐き出した破壊のブレスを完全に防ぐ。
「バカな! 破壊のブレスは、どんな魔法障壁でも破壊できるはず!」
ダークメタルドラゴンの背中に乗っているゼル将軍が、アイギスの盾の絶対防御の力を見て驚く。
アイギスの盾
すべての攻撃を一度だけ無効化することができる
クールタイム二十四時間
消費MP 50
「よかった! 間に合った!」
「ナイス! サキ!」
「とう!」
今の攻防を城門の前で見ていた冬雅は、忍者歩法のスキルの効果で城壁を走って登ってきて城壁の上に戻ってくる。彼はまだ摩利支天顕現の効果が二分程度、残っている状態だった。
「コロじい! あの黒いドラゴンはコロじいを狙ってる! だから後方に下がってくれ」
その冬雅の声を聞いて、黄龍は辺境の町ベールの内側へ移動していく。
「逃げる気か! 追え!」
「グオオオオオオオオオン!」
ゼル将軍の指示で、ダークメタルドラゴンが離れていく黄龍を追うように飛んでいく。
「これで奴はこっちに近づいてくる。リーナさん! 奴が射程に入ったら一斉攻撃しましょう」
「お、おう!」
冬雅の黄龍への指示は、ダークメタルドラゴンをメイル国軍の攻撃範囲内へ誘導するためだった。
「よし! ダブルサイクロン!」
リーナは飛んでくるダークメタルドラゴンを狙って、風のやいばが高速で回転する巨大な竜巻を二つ作り出して放つ。
「うりゃあ!」
それと同時に冬雅は、城壁の上に置いてあった投げ槍を手に取って、全身にまとっていた白いオーラをその投げ槍にまとわせて、全力でダークメタルドラゴンを狙って放つ。
「魔力チャージ、完了! そして……サンダーブレイズ!」
さらに凛子が杖を掲げながら魔力チャージを完了させ、二倍以上の威力に強化された、魂をも感電させる特殊な雷をダークメタルドラゴンを狙って放つ。
「ガアアアアアアアアアアア!」
まず飛行しているダークメタルドラゴンの胸部に、冬雅が投げた投げ槍が突き刺さり、続いて風のやいばが渦巻く二つの竜巻がダークメタルドラゴンの全身を切り裂き、それと同時に凛子の放った雷系最上級魔法が、ダークメタルドラゴンの全身と魂を感電させる。
「ガガガガガガガガ!」
その雷がダークメタルドラゴンの背中に乗っていたゼル将軍にも伝わり、彼も魂ごと感電して大ダメージを受ける。
「ギャオオオオオオオオンンンン!」
ダークメタルドラゴンはそれらの怒涛の連続攻撃を受けても、その強固な鎧のようなうろこのおかげで、まだ倒れなかった。逆に攻撃を受けて怒りだし、全身から黒いオーラを発生させてそれを身にまとい、黄龍ではなく城壁の上のリーナや冬雅達がいる場所に向かって突撃していく。
この黒いオーラは「漆黒の鎧」というダークメタルドラゴンのスキルで、その黒いオーラに触れたものに闇属性の魔法ダメージを与える能力を持っていた。ちなみに背中にいるゼル将軍の体を乗っ取ったヴァンパイアロードは闇属性のモンスターなので、その黒いオーラではダメージを受けなかった。
「こっちに来るぞ!」
「迎撃しろ!」
「うおおおおおおお!」
「サンダーボルト!」
「オーラアロー!」
飛んでくる黒いオーラに包まれたダークメタルドラゴンに向かってメイル国軍が、一斉に長距離魔法や弓矢のスキルなどで攻撃する。だがダークメタルドラゴンがまとっている黒いオーラが、その魔法やスキルなどの攻撃を完全に防ぐ。
「効いてない! あの黒いオーラのせいだ!」
「生半端な攻撃じゃ、あの黒いオーラは突破できないぞ!」
メイル国軍の兵士達が、自分達の攻撃が通用しないので動揺している。
「ウルスラグナ召喚!」
一方、城壁の上のサキは、ウルスラグナを召喚してその背中に乗り、彼女の全身と右手に持ったドラゴンブレイカーに黄金のオーラをまとわせる。
「黄金不死鳥破!」
サキがウルスラグナに乗ったまま、黄金のオーラをまとわせたドラゴンブレイカーを振るって放つと、黄金のオーラが巨大な鳥の姿に変化し、近づいてきたダークメタルドラゴンに命中する。
「ギャギャアアアアアアアアアアアアアア!」
その巨大な黄金の鳥のオーラが、ダークメタルドラゴンがまとっていた黒いオーラを吹き飛ばし、さらにその体に直撃して特大ダメージを与える。
「ダ、ダークメタルドラゴン!」
「……」
サキの必殺技を受けて空中で意識を失ったダークメタルドラゴンは、ゼル将軍が名前を呼んでも答えることができず、そのまま落下して地面に激突して動かなくなった。その後、冬雅達の頭の中にレベルアップの効果音が鳴り響く。
「レベルが上がった!」
「ということは、あの黒いドラゴンを倒した!」
「あ、あれ!」
サキが空中を見ると、背中にコウモリのつばさがあるゼル将軍が、空中に浮かんでいるのを発見する。
「やってくれたな!」
(俺の力の半分以上使って召喚したダークメタルドラゴンを!)
ゼル将軍は背中のコウモリのつばさを使って飛行して、リーナ達がいる辺境の町ベールの城壁の上に着地する。するとその周囲にいたメイル国軍の兵士達が驚く。
「なっ! ゼル将軍!」
「グライン王国のゼル将軍だ!」
「グライン王国、最強の男が、ひとりで乗り込んできた!」
「やばっ!」
黄金の鎧と黒いマントに身を包み、大剣を持ったゼル将軍の姿を見た冬雅は、素顔を見られないようにマフラーの位置を直して警戒する。
「エルフの女騎士……。お前がリーナ騎士団長か」
「何っ!」
ゼル将軍が、まるで初めてリーナに会ったような言葉を話したので彼女は戸惑い、ゼル将軍をよく観察する。すると彼の目が赤く、さらに口の中に牙があることに気づいた。
「お前は誰だ! ゼル将軍じゃないな!」
「ふふふ、俺は吸血魔王ヴァンパイアロード! グライン王国の新たな支配者だ!」
「何っ?」
「さらに俺は古代の神カオスの力を手に入れた。この力を持って、この大陸を制覇する! フハハハハハハハ!」
「カオス……原初神カオスのことか!」
原初神カオスは、神の祖と呼ばれ、神ゼウスや大地の神ガイアなどを生み出したといわれている最古の神である。グライン王国の王とアンサズ宰相は、その原初神カオスをこの世界に呼び出し、その力を手に入れようとしていたが、ヴァンパイアロードにその力を横取りされていた。
「リーナさん。こいつはゼル将軍じゃないんですか?」
「そうだ。おそらく魔族国の四体目の魔王が、ゼル将軍の体を乗っ取んだんだ」
「じゃあ、こいつを倒していいんですよね」
「ああ、遠慮することはない。やってくれ」
「はい! 黄泉比良坂!」
次回 原初神カオスの力 に続く