第〇百六話 摩利支天顕現
「ギャアアアアアアア!」
「ガアアアアアアア!」
「グガアアアアアアア!」
辺境の町ベールの城壁へ突撃してきた二万のモンスターのうち、五千くらいが黄龍の聖光のブレスに飲み込まれて倒れ、生き残ったモンスター達は混乱して突撃が止まる。
「ちっ、何ということだ……」
「ゼル将軍! あの黄金の龍のブレスは、クールタイムが五分程度あったはずです!」
モアレ副団長は、西グライン砦の戦いの時の黄龍のことを詳しく調べていた。
「確かにあれだけの攻撃ならクールタイムがあるだろうな。よし、次のブレスが来る前に城壁に接近しろ!」
「グオオオオオオオ!」
「ギャオオオオオオオオ!」
ゼル将軍が手をかざしてモンスター軍団に命令すると、無事だった一万五千のモンスター軍団が再び突撃を開始する。彼はモンスター軍団を意のままに操っていた。
「無限凍結!」
一方、城壁の上のティターニアが右手をかざし、周囲の気温が数度下がるほどの冷気を発生させてそれを広範囲に放つ。
「ガアアアアアアアア!」
「グガガガガガ!」
城壁へ向かって突撃していた足の速いシルバーウルフやバトルボアなどの獣系モンスターの頭上にキラキラと輝く極寒の冷気が降り注ぎ、それに飲み込まれたモンスターが次々と凍り付いて倒れていく。
「グオオオオオオ!」
さらに城壁の上空に浮かんでいる黄龍が、魔力をまとわせた右前足の爪を振るって三つの巨大な魔力のやいばを放ち、それが地上の複数のモンスターを次々と切り裂いて倒していく。これはコロポックルが龍化した時に使える龍爪断というスキルだった。
「バカな! 前の時はブレスを使った後は姿を消していたはず!」
モアレ副団長は、聞いていた黄龍の情報と違っていたので驚き戸惑う。
「いや、今のスキルはブレスほどじゃない。ブレスが来る前に城門へ集中攻撃だ!」
ゼル将軍はモンスター軍団を操り、西の城門へモンスターを突撃させる。
「城門を守れ!」
それに対しリーナ率いるメイル国軍は、次々と突撃してくるモンスターの群れを、魔法や弓矢などで攻撃する。だが多数のモンスターが次々と城門の前へ集まってきて、今にも城門が破壊されようとしていた。
「くっ、モンスターとは思えないほど、動きの統制が取れている。このままでは城門が破壊されてしまう」
「なら俺が行ってきます」
空を飛んで襲い掛かってきたドラゴニュートに爆発魔力手裏剣を投げて倒した冬雅が、リーナにそう話す。
「は? 行ってきますって、どこへ?」
「もちろん城門の前です。でも十五分だけですよ」
「トウガ?」
「摩利支天顕現!」
冬雅は摩利支天顕現のスキルを発動し、彼の全身が白いオーラに包まれ、そのまま城壁を飛び降りて城門の前に着地する。
「お、おい! トウガ!」
「リーナさん。大丈夫ですよ。今の上泉君は戦いの神の力を使えるんです。十五分だけですけど」
「戦いの神?」
「まあ、見ててください」
「うりぁああああああ!」
城門の前の冬雅は、オリハルコンの剣に五メートルを超える白いオーラをまとわせ、それを振るって迫ってくるバイコーンに乗ったスケルトンナイトや、ワーウルフなどのモンスターを次々と豪快になぎ倒していく。
「凄い! なんて強さだ!」
「さらにあの状態なら物理攻撃を無効化できるって言ってました」
「何っ! それなら無敵じゃないか!」
「ああ、でも魔法は無効化できなかったような」
「そ、それは危険……いや、トウガは敵の中にいて高速で動き回ってるから、敵は魔法を使えないか」
「リーナさん。そろそろ前のブレスから五分経ちます」
「おお、コロポックルのじいさん、頼んだぞ!」
「ブフアアアアアアアアア!」
城壁の上に浮かんでいる黄龍が二度目の聖光のブレスを吐き出し、足が遅い後方にいたアーマーアント、オーガ、スケルトンソルジャーなどのモンスター達を次々と倒していく。その様子をゼル将軍とモアレ副団長が後方から見ている。
「何なんだ? あの龍の強さは!」
「ゼル将軍。何か手を打たないと、このままではモンスター部隊が全滅してしまいます」
「ちっ、あの龍だけじゃない。さっきの氷のスキルも厄介だ。敵にとんでもない術者がいるぞ」
さらに城壁の上のメイル国軍は、冬雅の活躍で余裕ができて、迫ってきていたモンスター軍団を次々と倒していく。
「くっ、怖いのは風魔法を使うリーナ騎士団長だけだと思ってましたが、このままでは……」
「この後の戦いのために、人間の部隊を温存しておきたかったが仕方ない。全軍を使って攻撃する。俺は一万のうち半数で北側へ回り込んで攻める。お前は残りの部隊を率い、南側へ回って攻めろ」
「め、命令とあれば従いますが、このまま部隊を分けて北側か南側に移動すれば、どちらかにあの龍のブレスを吐かれることになりませんか?」
「むう。確かにそれでは大損害だ。ならば、まずあの龍を始末するか」
ゼル将軍は馬から降りて、全身にまがまがしい魔力をまとい右手をかざす。すると目の前の地面に巨大な魔法陣が出現する。
「ダークメタルドラゴン召喚!」
ゼル将軍がそう叫ぶと、その魔法陣から、全身が黒く硬い鎧のようなうろこでおおわれた狂暴そうなドラゴンが出現した。
「なっ!」
(ゼル将軍はいつのまにモンスターの召喚ができるようになったんだ?)
これまで一緒にグライン鉄騎兵団にいたモアレ副団長は、最近のゼル将軍の力に疑問を持つ。
(それにモンスター軍団もゼル将軍の指示に従うし、何か……)
「俺とこいつであの龍を叩く。その後、部隊を二つに分けて北と南側から攻撃をしかけろ」
「了解しました!」
「はっ!」
ゼル将軍はダークメタルドラゴンの背中に乗る。
「いけ! ダークメタルドラゴン!」
「ガオーーーーーーーン!」
ダークメタルドラゴンが咆哮を上げながら背中の巨大な翼を羽ばたかせ、空に飛び上がり黄龍に向かって飛んでいく。
「ドラゴンだ! ブラックドラゴンが来るぞ!」
「いや、あれは……Sランクのダークメタルドラゴンだ!」
辺境の町ベールの城壁の上で戦ってるメイル国軍が、空を飛んで迫ってくるダークメタルドラゴンに気づく。
「奴は黄金の龍へ向かってるのか!」
「龍と竜の戦いか!」
「ブフアアアアアアアアア!」
ダークメタルドラゴンは口を大きく開き、黄龍へ向かって、魔法障壁をも破壊する破壊のブレス吐きだした。
「おじいちゃん! 危ない!」
「私にまかせて! アイギスの盾!」
城壁の上で凛子を守っていたサキは、黄龍を守るためアイギスの盾のスキルを発動する。
次回 ダークメタルドラゴン戦 に続く