第〇百三話 吸血魔王ヴァンパイアロード
「瞬速乱舞斬!!」
剣聖の前田が、全身に魔力をまといながら高速の連続斬撃を放ち、ヴァンパイアロードの体のあちこちを斬りつける。
「ぐあっ! おのれ! 影龍!」
全身が傷だらけになったヴァンパイアロードが、自分の影から巨大な黒い龍を出現させ、それが大きく口を開けながら前田に襲い掛かる。それを見た聖女である立花が、両手を掲げて防御スキルを発動する。
「ホーリーバリア!」
前田の全身が聖なる光に包まれ、彼に襲い掛かった影の龍が、その光によってかき消える。
「灼熱波!!」
続いて賢者の黒田が、周囲の気温が数度上がるほどの超高温の大量の火を作り出して放ち、ヴァンパイアロードの全身がその激しく燃え盛る炎に包まれる。
「ぐああああ! は、はあああああああああ!」
炎の中のヴァンパイアロードが、全身から膨大な魔力を一気に放出して、周囲の炎を吹き飛ばす。
「ぐっ……」
(これが勇者パーティの力か。このままでは……)
浅井はここに来るまでにレベルが40になり、新たな勇者専用のスキルを習得していた。
勇者の輝き
勇者とその仲間は、魔王に与えるダメージ二倍
勇者とその仲間は、魔王から受けるダメージ半減
「はあああああ!」
浅井は聖剣を構えながら魔力を集中させる。すると聖剣に三メートルを超える巨大な破壊の魔力が宿り、彼は聖剣を振り上げたままヴァンパイアロードに一瞬で接近して、その強大な魔力を帯びた聖剣を豪快に振り下ろす。
「ファイナルギガバースト!!」
「ぐああああああああああああああああああ!」
巨大な魔力の斬撃が、ヴァンパイアロードの全身を飲み込み、その直後、爆発してヴァンパイアロードが後方に吹き飛ぶ。その浅井の最強の必殺技によってヴァンパイアロードは致命傷を受けて意識を失い、吹き飛んだ先の床を転がっていき、そのまま動かなくなった。
「や、やった!」
「つ、ついに魔王を倒したぞ!」
「や、やっと終わった」
「はぁ、はぁ、はぁ……。むっ、レベルが上がった」
ヴァンパイアロードにとどめを差した浅井のレベルが43に上がる。
「よくやった」
浅井達から少し離れた場所にいたゼル将軍が、四人に近寄り声をかける。
「これで魔族国の魔王はすべて倒された。もうグライン王国を脅かす者はいない」
「はい! これもゼル将軍が、レベルアップを手伝ってくれたおかげです!」
「うむ。では宝箱とヴァンパイアロードの死骸を回収するといい」
浅井達はこのボス部屋の奥にある大きな宝箱を開けて、中にあった装備品やスキルブックなどを手に入れ、その後、浅井は彼のアイテムボックスにヴァンパイアロードの死骸を収納する。その様子を見ながらゼル将軍は考える。
(アンサズ宰相と国王は、古代の神とやらの力を奪うことに失敗して、全滅する確率が高い。そうなればグライン王国は俺のものだ。旧サイム国まで手に入れたグライン王国は、数年でこの大陸で一番の強国になる。そうなれば俺が大陸を制覇するのも夢ではなくなる)
「ゼル将軍! 報酬の回収が終わりました!」
「よし。これでここにはもう用はない。地上に戻るぞ」
勇者パーティとゼル将軍がこの部屋を出ていく。その時、どこからか現れたコウモリのような姿の影が床の上を移動していき、誰にも気づかれずに一番後ろを歩いていたゼル将軍の影に入り込んだ。
時は少し過ぎて、場面は魔族国の西グライン砦へ続く街道に変わる。ヴァンパイアロードを倒した浅井達とゼル将軍率いるグライン王国軍が、西グライン砦へ帰還するため長蛇の列を作って行軍している。
「今回の作戦。順調すぎたな」
「はい。大きな損失もなく、早く魔族国を滅ぼせました」
馬に乗ったゼル将軍とモアレ副団長が、移動しながら話している。
「魔族国との戦いは上手くいった。問題は……」
(西グライン砦で行われる古代の神の召喚のことだ。このまま西グライン砦へ移動したら、俺達も巻き込まれる。どこかで進軍を止めて時間稼ぎすべきか)
(ほう。古代の神の召喚とは面白そうだな)
「!」
ゼル将軍は頭の中に響く声に驚き、周囲を見渡そうとする。だが彼の体は少しも動かなかった。
(なっ、動けな……)
(この体は俺がもらった。お前の魂は我が闇の糧となるのだ)
(……)
ゼル将軍の魂が彼の体の中で闇に溶けて消滅し、新たな魂が彼の体の表に出てくる。
(ふふふ、成功した。勇者共の体には光の力が強くて潜り込めないが、そばにいたこいつが深い闇を持っていて助かった)
ゼル将軍の体を乗っ取ったのは、先ほど浅井達に討伐されたはずのヴァンパイアロードだった。彼は勇者パーティとの戦いの途中、自分の魂を分けて体から切り離し、その戦いの後、影のコウモリとなってゼル将軍の影に潜んでいたのである。
(今までどうやってこれ以上強くなれるか研究してきたが、その方法は見つけられなかった。だが、人間共の欲望と、古代の神の力とやらをうまく利用すれば……)
ゼル将軍の体を乗っ取ったヴァンパイアロードは、そのまま軍を率いて西グライン砦へ向かって進んでいく。
時は過ぎて、冬雅達が迷宮都市ヘルムを出発して七日後、彼らは辺境の町ベールに帰ってきた。それから冬雅達は、冒険者活動を一週間、休むと決めてこれまでの疲れを癒す。その休暇の途中で、冒険者ギルドからヴリトラの素材の代金の準備ができたと連絡を受けて、彼らはそれを受け取る。
それからさらに時が過ぎて、一週間の休みの最終日の朝、冬雅は泊っている豪華な宿屋の部屋で、自分のステータスボードを確認している。
上泉冬雅 17歳 人間
職業 忍者
称号 真・魔族キラー ドラゴンキラー
魔王討伐者
レベル 68
HP 5462/5462
MP 627/627
攻撃力 167(+100)(+20%)
防御力 124(+110)
魔力 131
速さ 240 (+20%)
経験値 1143694
スキル
言語理解 アイテムボックス(二倍)
ゲートオブアルカディア
異性運上昇 錬気斬 気配察知
後の先 罠看破 気配遮断結界
クリーン 見切り 竜牙一閃
剣速強化 マッピング 危険察知
天羽々斬 影縛り 軽業
分身 ドラゴンオーラ 気配遮断
因果の刃 黄泉比良坂 戦神スサノオの加護
風月再起召喚 忍者歩法 爆発魔力手裏剣
貫通 摩利支天顕現 絶対回避
仲間
宮本サキ レベル68 姫騎士
佐々木凛子 レベル68 召喚士
コロポックル レベル65 龍王
装備
オリハルコンの剣 攻+100
戦神の胸当て 防+70 物理・魔法耐性30%
軍神の指輪 攻+20% 速+20%
竜神の籠手 防+40 会心率+20% 闇無効
精霊王の指輪 毒・麻痺・睡眠・混乱・魅了状態を無効化
「だいぶ強くなった。レベル70くらいなら、もうゲートオブアルカディアならメインストーリーをクリアできるレベルだ。それに大迷宮のおかげで装備も充実した。さて、これ以上強くなるには……」
冬雅は明日からの冒険者活動で何をするか考えている。
「シャルロッテさん達が行ったラヴァ帝国の大迷宮に行くか、リーナさんの所でまた剣術の修行をするか……。うーん。俺一人で考えても仕方ない。みんなと話し合って決めよう」
冬雅は自分の部屋を出て朝食を食べるため、宿屋の一階の飲食フロアへ移動する。するとそこにはサキと凛子とコロポックルがいて、テーブルに座って朝食を食べていた。
次回 進軍 に続く