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第〇〇一話 勇者召喚

「は?」

「えっ!」

「何だ?!」


 高校の紺のブレザーの制服を着た三十人くらいの男女が、自分達に何がおきたのか理解できず、広い部屋の床に座り込んでいる。


(ここはどこだ? 俺達は教室で英語の授業を受けてたはずだ)


 そう考えているのは上泉冬雅かみいずみとうが。高校二年生の普通の男子生徒である。彼が周囲を見ると、クラスメイト達の周りに鎧と槍を装備した騎士がたくさんいて、鋭い目でこちらを見ている。


「勇者達よ、よくぞ参られた。いきなりの事で混乱してるだろうが、まず私の話を聞いてほしい」


 生徒達の前に立っている豪華なローブを身に着けた五十歳くらいの男が、そう話し始める。


「私はこの国の宰相、アンサズという者だ。ここはグライン王国の王都にあるグライン城の儀式の間で、君達がいた世界とは別の世界だ」


 冬雅は周囲の様子やアンサズ宰相の話を聞いて、今の状況がなんとなくわかり始めた。


(まさか……異世界ものの勇者召喚か!)

「まずは、いきなりこの世界に呼び出したことを謝罪させて欲しい。だがそうしなければならないほど、この国は切迫した状況にある。西にある魔族国のモンスター共の侵略のせいで、我等は滅びの危機に直面しているのだ」

(うわー、間違いない。漫画とかアニメでよくある勇者召喚だ! まさか自分におきるとは……)


 冬雅は漫画やアニメやゲームが大好きな青年だった。その中には異世界ものもたくさんあり、今の状況に似た物語もたくさん知っていた。


(ここに来る前、授業中でみんな椅子に座ってた。それでここに呼ばれて椅子がなくなったから、みんな床に座り込んでいるのか)


 冬雅は細かいことが気になる性格だった。


「それでまず君達に、自分のステータスを確認してもらいたい。ステータスオープンと唱えれば、目の前にステータスボードが現れる。その中の職業欄を確認して欲しいのだ」


 状況を理解した数人の生徒が、自分のステータスボードを表示して確認する。冬雅以外にも異世界ものの話を知っていて、今の状況を受け入れた者達が数人いた。


「ステータス、オープン!」


 上泉冬雅かみいずみとうが  17歳  人間

 職業 羊飼い

 称号 


 レベル   1

 HP  303/303

 MP   61/61

 

 攻撃力  13

 防御力  14

 魔力   11

 速さ   22


 経験値       0


 スキル

 言語理解 アイテムボックス

 ゲートオブアルカディア



「おお! ホントに出た!」


 冬雅は目の前に現れた自分のステータスボードを確認する。


「職業は……ん? 羊飼い?」


 冬雅はステータスボードをさらに読んでいく。


「言語理解で、この世界の言葉が読み書きできるんだろう。アイテムボックスも定番だが、超当たりのスキルだ。そして……ゲートオブアルカディアって」


 ゲートオブアルカディアとは、冬雅が何度もクリアした一番大好きなコンシューマーゲームの名前だった。


「スキルがゲームの名前ってどういうことだ?」


 冬雅は色々な異世界もののアニメや漫画を見てきたが、ゲーム名がスキルという話は聞いたことがなかった。


「俺は剣士だ!」

「おっ、錬金術士って書いてある!」

「私、家政婦だった」

「私はウェイトレスなんたけど」

「おお! 俺は魔法使いだ! やった! 魔法が使える!」


 周りにいるクラスメイト達もステータスボードを見て自分の職業を確認している。その様子を見て異世界ものの話に興味がなかった生徒達も、真似をして自分のステータスボードを確認し始める。


「その職業欄に勇者、賢者、聖女、剣聖とあった者は教えて欲しい」


 自分のステータスボードを見てざわついている生徒達にアンサズ宰相がそう話す。


「あの……俺、勇者なんですが」


 生徒達がざわついているなか、立ち上がってそう話したのはクラス委員長の浅井あさいだった。


「俺が賢者か。賢い者……まあ、当然だな」

「私が聖女……この物語のヒロインかも!」

「剣聖って俺か! 剣なんて握ったことないけど、いいのか!」


 そう言って立ち上がったのは、テストで学年首位を何度も取った黒田くろだと、保健委員の立花たちばなと、野球部の四番の前田まえだだった。


「おお! 古の伝承どおりだ。さあ、四人はこちらへ……」


 浅井と黒田と立花と前田が、アンサズ宰相のそばへ歩いて行く。


「鑑定!」


 アンサズ宰相が上級職業鑑定スキルを発動し、四人のステータスボードを確認する。


「うむ、間違いない、君達がこの国の救世主だ! 頼む、君達には魔族国のモンスターと戦える力がある。その力で我が国を救って欲しい!」

「あの、質問いいでしょうか?」


 浅井は、アンサズ宰相に聞きたいことがあった。


「うむ。なんでも聞くがよい」

「状況は何となくわかりました。それでその魔族国のモンスターというのを倒したら、俺達は元の世界に戻れるんでしょうか?」


 浅井の質問を聞いて、アンサズ宰相の表情が曇る。


「……残念ながら君達が元の世界に戻る方法は、我が国の伝承には書かれていない」

「そんな……」

「帰れないのかよ」


 帰れないということがわかり、生徒達は落胆している。その中には大声を出して怒ろうとする者もいたが、周りを全身鎧を身に着けた屈強な騎士達に囲まれいてるので、何も言えなかった。


「その点は済まないと思っている。だから君達四人以外の者のことも考えてある。戦闘系の職業の者は、我が国でいい条件で召し抱えよう。ゼル将軍!」

「おお!」


 返事をした屈強な体の男が前に出て話し始める。その男は三十歳くらいで、大剣と黄金の豪華な鎧を装備していた。


「戦闘系の職業の者は、我が国の騎士団に迎えよう。異世界から来た者は強力な職業とスキルを持っていると聞いている。お前達ならすぐに隊長クラスになれるだろう」


 アンサズ宰相が続いて話す。


「それと錬金術師も王宮錬金術師として召し抱えよう。勇者達と共に、我が国に使えたい者は名乗り出て欲しい」


 アンサズ宰相とゼル将軍の話を聞いて生徒達がざわつく。


「どうする?」

「いきなり言われてもな」

「騎士団に入るということは、前線でモンスターと戦うということじゃないか?」

「それはいやだな。城の警備とかならいいけど」


 いきなり今後の重要なことを言われて生徒達は困惑し、誰も手を上げなかった。


「むう、我々は魔族国との戦いで時間がない。後で我が国に仕えたいと言っても受け入れられないだろう。好待遇を望む者は今、この場で名乗り出て欲しい」


 アンサズ宰相が生徒達をせきたてる。すると、ひとりの生徒が名乗り出た。


「俺、錬金術士です! 俺、王宮錬金術師になります!」

(錬金術師なら戦場に行くこともないし、王宮錬金術師なら地位と名誉も思いのままだ!)


 錬金術師の職業の生徒の決断を見て、他の生徒達も名乗り始める。


「俺の職業は騎士です! 騎士団に入ります!」

(一般の兵士ならごめんだが、騎士団なら待遇がいいはずだ)


 騎士の職業の生徒以外にも戦闘職の何人かが騎士団に入ることを決めて、ゼル将軍の元へ行く。


(考える時間を与えずに決めさせるって詐欺師のやり方だな。こいつは信用できない……)


 冬雅はアンサズ宰相にあまりいい印象は持たなかった。


「アサイ、クロダ、タチバナ、マエダ。君達はこれから正装して国王様と謁見してもらいたい。その後、君達はこの国の英雄として、騎士団と魔法師団で訓練を受けてもらい、戦う力を身につけて欲しい」

「わかりました」

「おお、そうだ。謁見の前に勇者であるアサイに最強のスキルを渡そう」


 アンサズ宰相が指示し、ひとりの文官が一冊の書を持ってくる。


「これはスキルブックといって、スキルを習得できる本だ」



 次回 スキルブック に続く 

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