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蓋世の神子  作者: そるの
3/5

三話「過去」

執筆 そるの

挿絵 画路/ガロ 様

【ルーリア視点】




暗い世界、そこにいるのはいつも私だけ


足元は黒よりも黒くて、底が見えない


宙に浮いているのか、真っ黒な地面に立っているのかすらも分からない



「……………………………」



足先や手先が黒ずんでいる


気の所為(せい)か、昨日よりも黒ずんでいる部分が広くなっている気がする


昨日までは(くるぶし)辺りだったのが、(ふく)(はぎ)の下辺りまで侵食している



「………………っ」



それに、胸の奥を突くようにチクチクと痛みがする


それは次第に強くなっていき、立っていることすら(まま)ならなくなる



「やめて………痛い……っ……、」



鼓動と連動して全身が痛む


そこで私の意識は、遠くへ行ってしまった











【回想】



【ザーヴェス視点】




「………神子を軍事利用するだと?」



軍事会議の為に招集された俺は、グウェス総帥の放った言葉に耳を疑い、その場で席を立ってしまった


長広い机の向こうには、総帥を囲う上層部の人間達


とても巫山戯(ふざけ)て言ったとは思えないような、重鎮な空気感だった



「アルベート中佐、私語は慎め。質問なら許可を求めるように」


「まさか、あんた達もサルベス教徒のような真似をするつもりじゃないでしょうね?」


「……勘違いしないでくれ。我々をあんな野蛮な狂信者と一緒にしないでもらいたい」



グウェス総帥は、自慢の長い顎髭を触りながら鼻を鳴らした



「……ですが話を聞く限り、あんた達は何の罪もない子供を戦場に駆り出して殺そうとしているようにしか聞こえないのですが……?まさか、二十年前にサルベス教徒が起こした事件をお忘れになられましたか?」


「 "サルベスの惨劇" だろう?もちろん記憶している。あんな惨劇は二度と起こってはならないと思っている」



"サルベスの惨劇"



神子を "()み子" として呼称し、差別的に信仰する(いにしえ)の宗教、サルベス教


その教徒達が三十年程前に起こした、人類史上最も悲惨な神子の大量殺人テロ


その教徒曰く、かつて五百年ほど前に数十人の神子が何万人もの民を、神子の力で殺戮した歴史があるらしい


サルベス教徒達は、"五百年前の報復を遂に果たした" と熱く語っているようだが、客観的に見れば唐突に起こった、ただの大量虐殺事件だ


五百年前のことなんて、今を生きる神子達には全くもって関係無いのに、だ



「だったら何故…」



グウェス総帥は肘を机に立て、両手を組みあわせてから、口を開いた



「現状、他国共は神子を軍に取り入れる動きが活発してきている。このまま何もせずに、指を咥えているままでは国が滅ぶぞ」


「国を守る為に、何の罪もない子供を犠牲にすると?」


「子供…?ふん、笑わせるな。彼らはもう人間の域を逸脱している」


「……神子が人外とでも?」


「当たり前だ。貴君は神子の脅威を知らないからそう言えるのだ。彼らの蓋世の力は、容易に世界を変えられるほどの脅威だ。現在、軍で管理している神子は三人だが、(いず)れの能力も脅威だ」



……………………。



「……私には理解し()ねます。彼らは何も罪を犯していないただの子供です」


「彼らは、生まれ持った力を有効的に使う義務がある。古来では、飢饉(ききん)の際に食糧を生産し、民を救ってきたそうだ。それが、この時代では戦争だったというだけの話だよ」



…………………。



「……… "賛成できない" と言ったら」


「……こうするまでだ」



総帥が(てのひら)(かざ)すと、俺の傍に立っていた男二人が、こちらに銃口を向けてきた


緊迫した空気感に加え、周囲の冷徹な視線


思わず圧倒されそうにもなる


挿絵(By みてみん)



「…………………」



"諦めて言う通りにしろ" ということか……



「………君の言いたいこともわかる。私だって子供の未来を守る為に、軍に入った」


「だったら何故……」


「だが、彼らは神子だ。同じ人間だとは考えない方が良い。それに、何も彼らを必ず戦場に駆り出すという訳では無い。彼らの能力が他国にとっての抑止力となり、最悪の事態を避けられる可能性だってある」


「………………」


「私だってこんな真似はしたくない。内部で血が流れるのは誰も望んではいないだろう。だが、これは軍の決定事項だ。拒むと言うのならば、幹部である貴君の立ち位置ですら危うくなるということを理解してもらいたい」


「………………………」


「私にも貴君にも、ここに居るものは少なからず家族と呼べる存在が居るはずだ。その唯一無二の存在を守る為には、もう手段など選べる余裕はないのだよ」



セルアの顔が浮かぶ


総帥の仰ることは理解出来る


だが、その為にただ神子として生まれただけの子供を利用するというのが引っかかる


総帥は、彼らは人間ではないと仰った


俺は彼らの本当の脅威を目の当たりにした訳では無い


だが、俺の瞳には彼らが "可哀想な子供" にしか映らないのだ


そんな子供を利用し、仮に訪れた平和に本当の意味はあるのだろうか



「…………………」



……いや、これは間違っている



………………………。



俺はその場で、席に腰を掛けた



「………分かりました」


「…………」



グウェス総帥が(てのひら)を顔の位置まで掲げると、両隣に立っていた黒服の男達が銃を下ろし、腰に収納し始めた



「………………………」



その後も、何事も無かったように会議は続いたが、詳しい内容は覚えていない











────── 三日後




軍で管理している神子は三人


(いず)れも、B棟の地下に収容されている



「…………………」



ここ、か


目の前には、鉄格子の部屋


遠くからは、中の様子が(うかが)えない



「…………………」



確か、三人の内の一人に空間移動の力を有した子がいたはずだ


その子自身の意思で、逃げることは出来なかったのだろうか



「………………」



いや、あの軍のことだ


逃げられないように、対策が施されているのだろう


そう考えていた俺は、目前の光景を目の当たりにし、自分が抱いていた疑問に納得した



「………なるほど」



三人の神子全員の顔に、目隠しがされていた


神子の力を発動するには、"目" が必要なのか、はたまたそれに関する何かが材料になっているのだろう



「……………………」



ルークには事前に政策の詳細と、俺がやることを説明してある


ルークも俺と同じ意見らしく、政府軍を辞めてまで協力すると言ってくれた


………最後の最後で、迷惑をかけちまったな



「…………………」



俺は南京錠に数発の鉛玉を撃ち込み、破壊した


すると警報が鳴ると同時に、赤い警告灯が至る場所で点灯する



「………………………」



………これでよかったはずなんだ


何より、子供たちが悲しむ姿はもう見たくない



「……………………」



ルーク、お前には迷惑をかけることになるが、許して欲しい


それから……



「…………………」



………セルア、すまない


十年前の冬、お前を拾ったあの日から、最後まで一緒に居るって決めたはずなのに、こんな形で投げ出すようなことをして、本当に申し訳ないと思っている


これは、俺の我儘(わがまま)になるのかもしれない


だが、ここで誰かが立ち上がらなければ、この世界は変わらない


そう、思った



「……………………」



俺は静かに神子の前にしゃがみ込み、三人分の目隠しを解いた


三人共に、青い秀麗な瞳が顕在化する



「安心しろ、俺は敵じゃない」



そう伝え、ポケットから一枚の写真を取り出す


リーヌにある建物だ


そこでルークが待っている


早く移動させないと……



「この場所に、お前たちを助けてくれる男がいる。そこでお前たちは暮らすんだ」



三人は唖然としていたが、俺は続けた



「そこのお嬢ちゃん。遠くへ飛べる "力" は使えるか?」


「…………うん」



少女は暫く放心していたが、意味が分かったのか、こくりと頷いた



「東に30km程だ。この場所まで飛べるか?」



写真をもう一度よく見せながら、少女に語りかける



「う、うん」



弱気そうな少女が、そう小声で頷いた



「よし」



俺はそう言うと、その場で立ち上がった



「行け!!!」



俺が大声で叫ぶと、少女は決心したように他の二人と手を繋ぎ、青い目を見開いた



「………っ」



すると、地下にある僅かな光は、少女達の周りに寄り添うように集中した


多少、幻惑される





──────刹那





すると、その場で強い光を発しながら、少女達は姿を消した


狭い空間に、若干の空気の流れを感じる



「……………………」



………行ったか


静まり返った空間には、複数の(せわ)しい足音が聞こえてきた


気付けば、地下に数名の隊員が降りてきていた


あっという間に俺は囲まれ、あらゆる方向から銃口を向けられた


俺は潔くその場で手のひらを向け、両手を上げた



「…………………」



……セルア、すまない



俺は、最後の最後で(しゅ)に見放されちまった













─────新暦1291年、1月12日




【セルア視点】




「………………………」


「………それから、私はザーヴェスさんからこの子達を任されました。あの人は申し訳なさそうな顔をしていましたが、私もあの政策には納得出来ませんでしたしね」


「それで、ザーヴェスは……」


「…………………」



ルークは何も言わなかった


いや、言いたくなかったのかもしれない


それに、言わなくともその沈黙の()で俺は納得した



「……………………」



………元から分かっていたことだ


ザーヴェスが生きている可能性なんて、無いことに


だが俺は、一筋の光に(すが)りたかっただけなんだ



「……………………」


「ところでそろそろ、そこに隠れている子はお迎えしなくてもいいんですか?」


「……?」



隠れている子…?



「……ギクッ」



背後から声がした


振り返ると、被ったフードに手をかけたルーリアが、廊下の角から顔を出していた



「ル、ルーリア!?いたのか…」



ルークの話に夢中になっていて、ルーリアのことを完全に忘れていた



「……す、すいません。いつ出ていいか分からなくて…」


「……いや、こっちこそ悪い。色々あって、少し昔話をしていてな……」



…………………………。



「ところで、その神子とはいつから一緒にいるんです?」


「あぁ、ちょうど………」



……………………。


……ん?



「……お前、今なんつった?」


「ん?その子、神子なんですよね?それとも、神子のコスプレとかですか?」


「………気付いてたのかよ…」


「私を欺けるとでも?」



ルークは、自慢げな顔を俺に向けてきた


一々(いちいち)ウザイやつだ



「………ちょうど一年前にリリーシャ家の地下で会ったんだ」


「リリーシャ家と言えば、セガーシアの有名な貴族ですよね。どうしてそんな場所に?」


「……ただの依頼だ」



そう言い、ルーリアのフードを外してやる


フードを外すと、ルーリアは頭を左右に振った


綺麗な純白の長髪が、ふわりと空間に波を作る



「……………」



ルークは、片眼鏡(モノクル)を軽く上げて言った



「では、私が引き続きこの三人を保護する……ということで構いませんか?」


「あぁ。この子達を一緒に連れ回す訳にもいかないだろ。それに、あんたなら大丈夫だろ」


「それは、私の実力を認めて下さっているという解釈で相違ないですか?」



ルークは、ニヤニヤしながらこっちを見ていた



「………面倒くさいな、お前…」


「よく言われます。まぁ、自画自賛になりますが、私なら大丈夫でしょう。勿論、ザーヴェスさんには(かな)いませんが」


「当たり前だ」


「本当にお父さんっ子ですね、貴方は」


「……うるせぇ」



…………………………。



さっき、ルークから聞いた話を思い出す


ザーヴェスは軍に管理されていた、たった三人の神子の為に、自らの命に顧みずに行動した



「(…………神子)」



そういえば、彼らのことをよく知らないでいた


あの日、ルーリアと出会ってから、もう一年が経過した


出会った頃は、神子なんて半分神話のようなイメージで、実際に自分の目で見てみると何だか不思議な感じがした


今も似たような感じだが……



「………………………」



今は、彼ら……いや、神子のことを知らなければ、何も始まらない気がする



「………なぁ、神子のことについてもっと教えてくれないか?」



ルークなら何か知っているのではないか、という謎の自信があったから聞いた



「………。そうですね、私の知る限りで宜しければ、お話しましょう」



ルークは、流暢に言葉を紡いでいった


神子の成り立ちは、約千年前に遡ると言われている


遠い昔、神子は、自らが持つ摩訶不思議な力で地を開拓し、川に橋をかけ、災害から人々を守ったりと、神子のお陰で文明が発展した地域も多くあったそうだ


その栄光を称え、先人達は不思議な力を操り、人々を救済する彼らを "神子" そう呼称し、(たてまつ)ってきた


しかし、人々は民族同士の争いに、神子を "人間兵器" として利用し始めた


昔も今も……同じだ



「………………………………」



ザーヴェスもきっと同じ気持ちだったのだろう


悲惨な現状に、自分が何も出来ないという無力感


俺は……俺の出来ることがしたい


ザーヴェスのように……



「……ルーク」


「はい、なんでしょう」


「全世界の神子を助けたいという願望は、馬鹿馬鹿しいと思うか?」


「馬鹿のやることですね」



ルークは俺の問いに、即答した



「おま……っ!そこまでストレートに言わなくてもいいじゃねぇか!」


「ですが、"本気" なんですよね」



ルークは真面目な視線をこちらに向けてきた



「……あぁ」


「ですが、流石に "馬鹿" は言いすぎましたが、無謀である事には変わりありません。この広大な世界から神子を全員見つけるのも至難の業です」


「……そう、だよな。自分でもわかってるさ。全員は無理だって…。でも、出来る限りは尽くしたい……せめて神子を効率的に見つける方法でもあれば………」


「………なら、貴方に良い情報を100ペントで売りましょう」


「……は?売るのかよ……」


「当たり前でしょう。では何ですか、私に "借り" を作りたいんですか?それなら止めませんが」


「ぐ……わ、分かったよ」



ポケットから100ペントを取り出し、ルークに向かってアンダースローで投げ渡す


宙に舞った硬貨を、ルークは空中でバシッと掴んだ



「はい、確かに」


「………………」



ルークはそんなことを言ったが、借りを作らせないという、奴なりの気遣いだと感じたのは気の所為(せい)……だろうか



「では、"魔女" ……という神子はご存知でしょうか」


「……魔女?神子なのに魔女なのか?」


「会えば分かりますよ」


「…………?」



ルークは、含みのある笑顔を浮かべた



「……………………」



"会えばわかる"



ルークはそう言った


まんま魔女みたいな格好をしてるのだろうか


いや、いくらなんでも安直的過ぎるか……


だとすれば何なのだろうか…



「その魔女が、アルタジアのカイルにいるそうです」


「……アルタジアの……って、カイルっていったらサルベス教の聖地じゃねぇか!そんな場所にいて大丈夫なのか?」


「……それが、彼女は "神子を見つける能力" を有しており、その力を駆使して神子を集めていているそうです」


「……なんだって?……神子を集めて戦争でも始める気か…?」


「…………そうなることも考えられますが、私としては、それは何としても避けたいところです…」



…………………。



「………冗談だ。誰もそんなこと望んじゃいない」



"戦争は人々から全てを奪い、憎悪だけが残る非生産的な厄災だ"


ザーヴェスがそう言っていたことを思い出す


……人々は何故、戦争を起こすのだろうか


幼い頃から抱いている疑問は、未だに分からないままだ


そんなこと、誰も分からないというのに



「………………………」



ルークは少しの時間目を瞑ると、スーツの内側から何やら紙を取りだし、床に広げた



「北大陸の地図か?」


「ええ。」


挿絵(By みてみん)


俺達が今いるのは、セルフォリア北部の町、リーヌ


そこからアルタジア南部の町、カイルまで行くとして、距離は馬鹿にならないほど遠い


一年前、セガーシアからリーヌまで、ルーリアをおぶりながら徒歩で行ったのとはレベルが違う



「ですが、隣国と言ってもここはセルフォリアの最北端の町。かなり遠いですよ?リーヌからは交通の便も悪いですし、徒歩で行くにはかなり酷な話です」


「それもそうだな………」



徒歩で行く場合、二ヶ月………いや三ヶ月はかかるだろうか


どうする、決めた初日から "詰み" だ


何か、いい策はないだろうか……



「………………………………」


「あ、あの…っ!」



熟考していると、背後から子供の声がした


振り返ると、半開きのドアから顔を出した神子の少女がいた


今の話を聞いていたのだろうか



「スイ、どうしましたか?」



ルークは少女の目線まで腰を下げ、向き直る


この少女の名は、"スイ" というのか


歳はルーリアと同じくらい、と言ったところか



「ぁ……えっと、その……」



スイはモジモジとし、なかなか本題に入れない



「スイ、落ち着いて下さい。ちゃんと聞いていますから」


「は、はい、マスター」



スイは静かに目を閉じ、その場で呼吸を整えた



「お前、マスターとか呼ばせてんのかよ」


「彼女がそう希望したから、許可したまでです」


「ふーん」



すると、スイが一歩前に出て、口を開いた



「……えっと、移動手段に私の力を使っては如何でしょう…?」


「空間移動を、ですか?」


「は、はい。ダメ……ですか?」


「……………………」



空間移動……か


確かに便利だが、それ故に本人への弊害が気になる


神子について詳しくないが、更に寿命が縮まったり、暴走したりなどはしないのだろうか



「ルーク、能力多用による弊害は無いのか?」


「私も考えましたが、今のところそれらしい予兆などは確認できていません。持続的に能力を発動してしまう神子もいるくらいですから」



持続的に能力を……ルーリアの読心のようなものか……


それもそうだよな、能力を抑えることが出来ない以上、先に待っているのは破綻のみだ


それでも、ルーリアは今も元気に生きている


それなりの理由があるはずだ



「しかし、往復で350kmほどでしょうか……力で御二方と一緒にアルタジアまで飛び、直ぐにセルフォリアに一人で戻るまでの余力は残ってないと考えた方が良いでしょう」


「力を連続で使うことは出来ないのか?」


「短い距離でなら連続で使用することは可能です。しかし、ここまでの距離となると行きは飛べても、帰りは無理でしょうね」



往復は無理だと言ったが、行きだけで170km以上もあるんだ。それを一気に飛べるとは、"さすが神子" と言ったところか



「では、一晩は御二方と一緒にアルタジアで寝泊まりをした方が良さそうですかね」


「一晩でいいのか?」


「えぇ。一晩でも寝れば、戻ってくるだけの力は溜まりますよ」


「そうか……じゃあ、お願いしていいか?」



スイに向き直る



「は、はい!」


「あぁ、助かるよ」



スイはルーリアよりも少しだけ背が小さく、程よい高さに頭が来ていた



「………………」



つい、スイの頭を撫でてしまった


スイは少し硬直しながらも、手を払ったり逃げたりすることはしなかった


嫌がるかと思ったが、そうでもないようだ


この年頃の、子供の接し方が分からんな




────ドスッ




背中に、何かがぶつかる


何だ?


拳の感覚だ


力は弱く、"殴られた" というよりは"叩かれた" 方が近いか


後ろを振り返ると、ルーリアが頬を膨らませた顔を向けていた



「……ん?なんだルーリア」


「…………なんでもないです」


「………?」



なんだ?


怒ってる……のか?


一体、何に?



「………………………」



やはり、この年頃の子供は接し方が分からん……











「じゃあ、カイルへの出発は明朝で良いな?」


「はい、そちらも準備など色々あるでしょう。それに、私は同行出来ませんから、そちらで決めてもらって構いませんよ」


「そうだな」



俺はルークの店の玄関前で、改めて装備を確認していた



「本当に、此処に泊まらなくて良いのですか?」


「お前と同じ屋根の下で、一晩過ごすって想像しただけで寒気がするわ」


「私は構いませんがね」


「俺が構うんだよ。今夜はリーヌの宿にでも泊まらせてもらう」


「まぁ、私はどっちでもいいですけど。気が変わったらいつでもお越しください」


「 "気が変わったら" な」



わざとらしくルークに言葉を吐き捨て、玄関につま先を向けた


俺とルーリア、そして明日に備えてスイも一緒だ


三人でルークの店から出て、宿へと向かった











────── そしてその夜、ルーリアが宿で倒れた




いつも「蓋世の神子」をご愛読下さってありがとうございます。とても励みになっています


筆者作 ルーリア

挿絵(By みてみん)

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