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事務的異世界転移

「出向してもらうから、異世界に」

そう言われたのは一週間前。

なんとなく毎日を生きて、なんとなく休みの日はゴロゴロして、なんとなくただまっとうに生きてきた俺に入社直後に下された辞令だった。


俺はこの人がどんな人か知っている。この人も俺のことを知っている。

仕事のことでは真面目でいつも唐突な人だということも知っている。


「会社作るから退職するわ」

今の会社に入る前、ランチを決めるぐらいの温度感で告げられた決定事項。突然の退職に上司は大慌て。けど引継ぎ資料は既に作成済みで滞りなく退職していった。


「今の仕事つまらんだろ、やめちまえよ」

なんで仕事をしているのかなんて考える事もなく、ただ漠然と与えられた仕事をして、給料をもらって、たまに欲しいものを買っておいしいものを食べる。それだけの生活をしていた俺にいきなり断言してきた。


これが2か月前かな。


「ちょっと何言ってるかわからないです」

俺が出向を言い渡された時の返事がこれだった、と思う。

一々会話なんて覚えてないし、今の俺だったらこう言うし、なんだったらこれから先の俺もこう言うと思う。


「業務は新規市場の開拓。期間はそうだな、終わるまで」

「詳しい説明は現地で。行き方はメモに書いているから、覚えろ。それが今日の業務」


ろくな説明がなかったのだけは確かだった。それだけは間違いない。確実にそう。

いつもいつもそうだった。

学生時代からまずはやってみるタイプで周りを巻き込み、混乱と動揺を隠せない周囲を無視して突き進み、


最期はだいたいうまくいってた。

だから、まぁ今回もうまくいくんだろう。

社会というものと、この九六位あかねという人物に慣れ過ぎた俺の出した答えはこれだった。


今朝、メモに書かれていた道順……いや、手順か?まぁ異世界とやらへの行き方を思い出しながら出向先へ赴いたわけだ。


「本当に着くんだもんな、訳が分からない」

ここまで事務的にローテンションで異世界に来たのはそうそういないんじゃないか。

そもそもこの異世界にどれだけの人が来たのかもわからないが。


あくまでも仕事。とはいってもやはり気になる。

最初に目についたのは建物。新しいけど古い。古民家か?って感じ。けど年季が入っているという感じでもない。

なんなら普通に人が住んでる。

いや、人じゃないな。耳生えてるぞ、頭の上に。ケモミミってやつだな、これは。


駆け回っている子供は多種多様だ。

首が長いのもいれば目が一つのもいる。

子供が遊びまわっている姿は世界中どころか異世界でも変わらないんだな。なんていうか、平和を感じる。


そしてなぜだろう、どこか懐かしい感じもする。

とりあえず指定された場所に行ってみよう。


すれ違う人から会釈されたら会釈を返し、子供から挨拶されたら挨拶を返す……


訪問先での対応と変わらないな、何が異世界だ。ちょっと人間じゃないっぽいのが住んでる田舎がすぎる地域じゃないか。


ちらほらと、人の姿も見えた。何も変わらず無視する人もいれば会釈する人もいる。

あれ、もしかして俺が知らなかっただけで普通に来れたりするところなんですか?ここは。


もしかしたら自分の感性が間違っているのかもしれない。ここでは普通のことなんだ。そう思ったら順応は早かった。


「ごめんください。赤星零士というものですが、トクサブロウさんはいらっしゃいますか?」

異世界の言葉?そんなものはない。走り回る子供は日本語だし、挨拶もこんにちは。異世界共通語日本語だ。

「あー?トクさん?奥にいるよ。ちょっと待ってな」

指定された酒場……?のような所にはまたしても多種多様な方々が詰めていらっしゃった。それにしてもどの建物も天井が高い。そういう文化があるのか?

そして時刻は昼前、飲むには早い気もするが日本とは違うんだろうな、羨ましい。


「あかねさんの紹介って言うからとんでもないのかと思ったら普通の人じゃねえか」

天井が高い理由は私です。なんてオーラを漂わせながら一つ目の巨人が出てきた。


「初めまして、赤星零士です」

挨拶は基本。これはどこも変わらないだろう。


「トクサブロウだ。ここは初めてだろ?随分落ち着いてるな」

「そうでしょうか?」

「あかねさんの知り合いならまぁそんなもんか」

あの人と同類にされてしまった。

「伊達に付き合いが長い訳でもないですからね」

ざわ……っと、周囲がどよめいた。

「あかねさんの知り合い?」

「例のあの人と?」

「俺……帰る……」

「かわいそうに」

「あいつもやばい奴じゃないのか?」

どうやらあの人は自分が存在できる世界である限り九六位あかねという個人らしい。


「もしかして、あかねさんは有名人なんですか?」

「有名なんてもんじゃねえよ!」

太鼓でも叩いたかのような低音が効いた笑い声と共に何をしでかしたかを聞いた。


女一人でここに来て一晩で全員酔い潰した。

拾ったお金だけで花札で全戦全勝、二日後には家持ち。

町の長の家に突撃して袋叩きにした。

盗賊団を壊滅させた。

と同時に手下にした。

などなど。


「台風みたいな人だが、悪いやつじゃない。それだけはみんなわかってる。けどいつも被害を被るのは」

「「周りの人たち」」

「ですよね?」

「よくわかってるじゃねえか!」

「あかね被害者の会同士仲良くしましょう」


ガハハとまた低音を響かせ、包み込むような握手を交わした。

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