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霊玉守護者顛末奇譚 番外編  作者: ももんがー
中学二年生 夏
8/16

霊玉守護者の祇園祭(山鉾巡行)

私達の世界では今年も山鉾巡行が中止になりましたね。

一日も早いコロナ終息を願います。

晃達の世界ではコロナはありません。

物語の中だけでも祇園祭を楽しんでいただけたら幸いです。

 七月十七日。土曜日。

「早く起きてまた修行しよう」と話していたのに起きられなかった。


「ゴメン! 寝坊した!!」

 ヒロの叫びに飛び起きた。

 時計を見ると六時半。


「とりあえず佑輝! 急いで! 会場に八時半だろ!?」


 ヒロの言葉に佑輝が一気に覚醒する。

 あわててベッドから出る佑輝をパジャマ姿のヒロが連れて行く。

「ゴハン食べてゴハン!」

 バタバタと部屋を出る二人につられて晃達も寝癖だらけの寝ぼけ顔で安倍家に移動した。


 めずらしくアキさんがあわてている。

 もしかしなくてもエプロンの下はパジャマではないだろうか。


「佑輝くん! ゴメンね遅くなって!

 さ! 食べて食べて!

 晃くん達もどうぞ!」


 昨夜「朝はあんまり食べられないかもしれない」と話していたからだろう。トーストに卵料理、ウインナーがドンと食卓に置かれていた。

 ビュッフェスタイルだ。

 葉野菜の盛られた皿と数種類のドレッシングをドン! と置くアキさん。


「パンおかわりいる人は言って!」

「ハイ! いただきます!」


 わあわあと食べて支度して、佑輝は晴臣に連れられてバタバタと出ていった。

 今日はこれから剣道の試合だ。

「がんばって!」

「あとでな!」

「おう!」


 バタンと玄関の閉まる音が響くと、誰からともなく「ほーっ」と息がもれた。


「じゃあ、こっちも支度してでかけるか」

 ニカッと笑う隆弘に晃達も笑顔になった。




 山鉾巡行の先頭である長刀鉾が出発するのは九時。

「せっかく見るならやっぱ『辻回し』だろう」と四条河原町に移動する。


 隆弘が親しくしている会社が通り沿いのビルに入っており、休日の今日、巡行見学に入れてもらえることになっていた。


 隆弘が友人である社長に挨拶をし、晃達も挨拶をする。

 案内された窓の下は人でごった返している。

 晃達以外にも二家族が見物に窓際に並んでいた。


 やがて現れた長刀鉾に歓声がおこる。


「なんだアレ! 怪獣じゃないか!」

 ビルの間をのっそりと移動する山鉾は、ついこの間みんなで観た怪獣映画の怪獣のようだった。

 のそり、のそりと進む山鉾に「巡行は前世(むかし)見たことがある」と話していたハルも顔に驚愕を貼り付けていた。


「テレビで見たことあるだろ?」

「テレビでやるのは河原町御池(むこう)の辻回しじゃないか」

 驚いているのを見られたのが恥ずかしいのか、隆弘の声掛けにめずらしく照れくさそうに答えるハル。


四条河原町(こっち)のほうがビルに囲まれてるから迫力あるね」

 ヒロも感心しきりだ。


 やがて「エーンヤラヤー」の掛け声とともに巨大な山鉾がその身をずらした。


「スゲー!」

「動いた!!」

 ズズズズズ、と進行方向を変えた山鉾に歓声がおこる。拍手があちこちから響く。

 晃達も思わず拍手していた。


「なるほど。あーやってひっぱって少しずつずらして左折するのか…。結構力技だったんだな」

「トモくん、テレビで見たことない?」

「『あー、やってんなー』程度でしか見てなかったから」


 トモと隆弘が話している間にも山鉾の巨体が進行方向を変えていく。

 やがて東を向いていた山鉾が完全に北に向いたとき、一段と大きな歓声と拍手が湧き上がった。

 晃も手が痛くなるくらい拍手をしていた。


「すごいすごい!!」

「うわぁー! こんなにすごいものだったんだね! 知らなかったよ!」


 ナツと一緒になって喜ぶヒロのいつもより幼い様子に隆弘がにこにこしている。


 次々にやってくる山鉾の違いを楽しみながら、辻回しに歓声を送りながら巡行を見守る。

 時折同じ高さになった山鉾の屋根の上の人と目があう。手を振ると振り返してくれる。それがうれしくてまた手を振った。


 巡行順を確認しながら、今のが何鉾、次が何山と話をする。

「僕が知ってるのと変わってるのもあるな」とつぶやくハルに興味は出たが、声をかける前に次の山鉾が来て話を聞くことができなかった。


 すべての山鉾を見送ると、誰からともなく拍手が湧いた。


「いやー、すごかった!」

「こんなにすごいと思わなかったよ!」

「ニュースでちょっと見るのとは全然違ったな」


 口々に話をし、場所を提供してくれた社長さんにお礼を言って御池のマンションに帰った。




 昼食をいただいて隆弘の運転で出掛ける。

 佑輝の剣道の試合の応援だ。

 予想通り順当に勝ち残って、午後から準決勝と決勝戦だと連絡があった。



 会場に入ると、独特の雰囲気に気分が高揚する。


「霊力の強いのが何人かいるな」

 すぐにハルが気付いてつぶやく。

「動きのいいのも何人かいるぞ」

 トモもざっとあたりを見回しただけでそう判断する。

「とはいえ、佑輝の敵ではないねぇ」

 のんびりしたヒロの言葉に全員が苦笑でうなずく。


 春休みの地獄の修行で急激にレベルアップした佑輝が、学校の練習が甘く感じて悩んでいたのは全員知っている。

 ハルの術で『竹刀を持つときは実力の半分しか出せない』ようにして何とか落ち着いた。

 今日はその術がちゃんと効いているかの確認と、せっかくなので佑輝の応援にやって来たのだ。


 佑輝は晃達にすぐ気が付いた。フル装備で軽く手を振ってくる。全員で手を振り返したら両手で手を振ってきたので笑ってしまった。


 結果は楽勝。術は問題なくちゃんと効いていた。




 学校のバスで帰る佑輝と分かれ、次に向かったのはトモの家。

 迎えてくれたおじいさんとおばあさんに昨夜からの話をした。

 楽しそうな子供達におじいさんもおばあさんもニコニコとうれしそうだった。


 霊玉守護者(たまもり)の四人は裏山でおじいさんに修行をつけてもらった。

 ニ対ニに分かれての模擬戦、放出した最大霊力を一気に圧縮など、実りのある時間となった。


 ハルと隆弘はおばあさんと残った。

 泥だらけで戻ったら呆れられてしまった。




 隆弘の車に荷物を積んでいたので、トモの家で解散にした。

 晃は迎えに来てくれた白露の背に乗り、一気に吉野まで帰った。


「ただいまー!」

「おかえり晃」


 迎えてくれた祖父母は、晃の顔を見るなり破顔した。


「楽しかったようだな」

「うん! すごく楽しかった!」


 話したいことがたくさんある。

 楽しかったことがたくさんある。

 うれしくて充実していて、気持ちが身体からあふれそうだ。


 ちいさい頃のように白露にぎゅっと抱きつく。


「白露様! 連れて行ってくれてありがとう!」

「晃が喜んでくれてうれしいわ」


 どういたしまして。そう言って大きな舌でぺろりと頬を舐めてくれた。

私達の世界では拝礼巡行が行われましたね。

二年連続中止の山鉾巡行。

来年はあの優美な姿が見られますように!

疫病退散!

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