表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
霊玉守護者顛末奇譚 番外編  作者: ももんがー
中学二年生 春
5/16

晃と本

 教室にひとりまたひとりと生徒がやってくる。

「おはよう」「おはよう」と挨拶を交わしながら自分の席につく。

 そんな様子を、晃は聞くともなしに感じていた。


 ぺらり。ページをめくる。

 本の世界に入った晃は、顔も上げずただ本を読んでいる。


「――晃! どうしたんだよ!?」


 突然の叫びに、驚いて顔を上げる。

 何? 何? と声の主を探すと、入口から友人が走ってきた。

 小学校からずっと同じクラスのミチオだ。


「おはよーミチオ。何?」

「何って、お前、どうした!?」


 ミチオの慌て具合に、何があったかときょとんとする。


「晃が本読んでるなんて!!

 頭でも打ったか? 天変地異の前触れか?!」

「失礼な」


 むっとしながら、ちょっと口をとがらせて反論する。


「おれだって、本くらい読むよ」

「うそつけ。教科書以外読まないくせに」


 幼なじみはこんなとき厄介だ。

 なんでも知っている。

 えへへ。と気まずさに苦笑がもれる。


「これ、昨日貸してもらったんだ。

 帰ってすぐ読み出して、おもしろくて一気に読んだ。

 で、もう一回読み直してるところ」




 昨日、仲間達と会った。

 強い霊力を持った一人の男から分かたれた五つの霊玉の持ち主『霊玉守護者(たまもり)』の仲間だ。

 春休みに霊玉の霊力の元になった『(まが)』を浄化した晃達は、それからも週に一度は会っている。

 修行に励む日もあれば、ご飯を食べに連れて行ってもらうときもある。

 ただただ喋って終わる日もある。


 先週はそれぞれの属性を活かした技の話になった。


 陰明師でもあるハルとヒロが、術を行使するにはイメージが大切だと言う。

 どんな風に、どうやって行使するか。

 二人はそのイメージを、映画や漫画からもらっていると教えてくれた。

 先週はそこで時間切れとなったため、改めて昨日、二人のオススメ映画の上映会になった。


「これ、できそうだな」

「これもできるんじゃないか?」

 CGで作られているであろう効果や技も、晃達にとっては「できるかもしれないもの」だった。

 早速挑戦して、いくつかは会得した。

 体術も『完全模倣』の能力があるナツが覚えてみんなに教えてくれて、映画さながらのアクションができた。


「おもしろいな!」

「今度は別の映画に挑戦しようぜ!」


 映画の効果やアクションをどこまで再現できるかの遊びは、思った以上に楽しかった。


 その別れ際、ヒロが渡してくれたのがこの本だ。

 さっきまで再現に挑戦していた映画の原作本だという。


「これ、炎使いが主人公の話だから。

 晃なら感情移入して読めるんじゃないかな?」


 術の参考にもなるよ。と言われ、とりあえず受け取った。



 正直、困ったなぁと思った。


 自分は本を読まない。

 読む習慣がない。

 今までは大きすぎる霊力をこの身体に納めるための修行で手一杯だった。

 本を読むひまはなかった。

 学校で「読書週間」として本を読まないといけない時も、特におもしろいと思ったことはなかった。



 でも、ヒロがせっかく貸してくれたから。

 また来週会った時「どうだった!?」て聞かれるのがわかってるから。

 映画はおもしろかったから。



 本はけっこうな厚さがある。

 一週間で読みきれるか不安だ。

 来週会った時に返さないといけないから、少しでも早く読み始めないと間に合わない。

 いやだなぁと少しおもいながらも、仕方なく、しぶしぶ、表紙をめくった。



 気がついたら、夜中だった。

 一気に読み終わった。


 面白かった!!

 先に映画を観ていたので、だいたいのあらすじがわかっていたというのもあるかもしれない。

 それにしても、面白かった!


 炎使いの少年の奮闘、努力。

 仲間との出会い。

 敵に向かって行く様子。

 映画には描かれていなかった細かい心情。

 


 そうそう! わかるわかる!

 そうだ、がんばれ!

 おお、あの場面ははこういうことだったのか!


 本を読んでこんな感情になったのは初めてだった。

 面白くてもう一度読みたいと思ったのも初めてだった。

 帰ってまた読もう。そう思ったのに、つい「バスの中で読めるかな…」と、持って出た。

 バスの中で読み、そのまま教室でも読み続けていた。




「晃が本読むなんてなぁ」

 ミチオは感心したようなあきれたような声で言う。

 

「晃、変わったよな」

「そう?」


「なんていうか、色んなことに興味持つようになったよな」

「それは確かにそうかも」


 ミチオの言葉に、ここ最近の自分を振り返る。




 春休みに様々な出会いがあった。

 人生を変える出会いだった。


 共に戦った仲間達。

 見守ってくれていた父ズ。

 そして何より。



(まが)』と呼ばれる存在だった茉嘉羅(マカラ)と、お師さん。



 黒い炎に身を焦がし、世の中が憎いと叫んでいた茉嘉羅(マカラ)

 善人が救われる世の中にしたいと、くるしんで、己を炎に変えていた。

 その奥底に在ったのは、お師さんが大好きだという気持ち。


 そのお師さんは、息子のように大切にしていた茉嘉羅(マカラ)が濁って『(まが)』になっていくのを止めようとしても止められず、苦しみながらただ見守っていた。

(まが)』になってしまっても、見捨てることなくずっと側にいた。


 お互いにお互いが大切な二人のために、晃が決めたこと。

 黒い炎に灼かれるお師さんに、茉嘉羅(マカラ)に向かって晃が叫んだこと。



「善人がしいたげられることのない世の中は、おれがいつかつくってやる!!」



 その言葉に後悔はない。

 茉嘉羅(マカラ)が自分の言葉を信じて成仏したのかはわからないが、いつか果たしたいと本気で願っている。

 ただ、その『善人がしいたげられることのない世の中』をつくるにはどうしたらいいのか。


 晴臣は言った。

「どうすればいいか、考えること。

 考え続けること。

『彼』からの宿題に、向き合い続けること」


 隆弘は言った。

「自分自身が変化していっても、常にその宿題と向き合っていたらいい」

「その宿題を抱えて生きることは、きっとその『彼』と一緒に生きることにつながるよ」


 

「晃くんは、その『彼』の『魂』を引き継いだんだな」

 晴臣の言葉は、晃の胸にストンと収まった。



 茉嘉羅(マカラ)の魂を引き継いで、茉嘉羅(マカラ)と共に生きる。



 それが、自分の人生の目標になった。




 今まではこの身に宿る大きすぎる霊力を納めること、扱うことだけでいっぱいいっぱいだった。

 でも、春休みの地獄の特訓とその後の遊びを兼ねた霊力訓練で、自分の霊力は落ち着いた。


 霊力が落ち着くと、いろんなものが見えてきた。


 茉嘉羅(マカラ)のことも、『茉嘉羅(マカラ)からの宿題』のことも考えるようになった。



 色々な人に話を聞いた。

「『善人がしいたげられることのない世の中』をつくるにはどうしたらいいと思いますか」


 先生達。宿坊にきた修験者達。近所の人。同じバスに乗り合わせた人。

 片っ端から聞いた。

 嫌な顔をする人もいたが、ほとんどは真面目に一緒に考えてくれた。


 色々な意見があった。

 色々な見方があった。

 色々な考え方があった。

 どれも本当だと思った。


 茉嘉羅(マカラ)が暮らしていた時代はどんな世の中だったのか知りたくて、歴史の勉強をした。

 茉嘉羅(マカラ)がいなくなって世の中がどう変わっていったのか知りたくてまた勉強した。


 他の国ではどんな世界なのか興味が湧いて、また勉強した。


 自分ひとりではどう勉強したらいいのかさっぱりわからなかった。

 でも、ハルが、ヒロが、父ズが、世間話のように、色々と教えてくれた。

 特にハルは千年前からずっと転生していて、当時のことを身をもって知っているので、おもしろい話を交えて色々と教えてくれて、晃だけでなくトモまでも興味深いと話に聞き入った。


 

 ひとつを知ると理解ができる。

 理解できると勉強がおもしろくなる。


 ひとつを知ると次も知りたくなる。

 どんどんどんどん知っていって、知識が増える。


 そうして、中学一年生時は落ちこぼれと呼ばれていた晃は、そこそこ勉強ができるようになった。


 今回ヒロに借りたこの本で、読書にも興味を持った。

 これからは食わず嫌いで「本は読まない」なんて言わずに、本も読んでみようと思う。


 とはいえ、いきなりムズカシイのはムリだから、ヒロにまたオススメを貸してもらおう。



 ミチオの言うとおり、自分は変わった。

 きっとこれからも変わり続けるだろう。

 でも、どんなに自分が変わっても、この『人生の目標』は変わらないと自分で思う。


 だって自分は『(たま)()り』だから。

 



 チャイムと共に担任がやってきた。

 教室に入るなり晃が本を広げていることに驚いて近づいてきた。


「何だ晃。本読んでるなんて、どうした?」

 担任までこれだ。


「お。これ、面白いよな。今一巻か」

「――え?」

「全部で五巻出てるぞ」

「えええーーっ!!」


 これ、続きがあるの!?

 ヒロはそんなこと言ってなかった!


「これ初版本だな。だから続きの紹介がしてないんだな」


 パクパクと金魚のようになった晃に、担任は意地の悪い笑みを浮かべる。


「このあと色々あってなー」

「やめてやめて! 言わないで!!」


 そんな。

 続きがあるなんて。

 そんなこと聞いたら、気になる!!


 ソワソワしだした晃に、担任が面白そうに笑っている。


「晃は最近勉強がんばってるな。

 この調子で、色んな知識を吸収していけよ」


 乱暴に頭をなでられ、えへへと笑う晃だった。

帰ってすぐにヒロに連絡した。

『借りた本、続きあるって本当!?』

『あるよー』

メッセージアプリにシュポッと返信がくる。

『おもしろかった? よかった』

『週末に二巻貸すね』

画面をみながら笑みがこぼれる。

週末の楽しみが増えた。

そこでふと迷いが浮かんだ。

一冊ずつ借りるのと残り全部借りるのと、どっちがいいだろう。

先は気になる。でも、全部手元にあったら一気に読んで他のことができなくなる。

むむむ。悩ましい。どうしよう。

晃が悩んでいると、シュポッと次のメッセージが入った。

『来月最新巻が出るんだよ。楽しみー』

なんてこった!! まだ続くのか!!

本にこんなに心を乱されることになるなんて考えたこともなかった晃だった。




ストックがなくなったので、これにて一旦完結にします。

また気が向いたら投稿したいと思います。

投稿したら活動報告で報告させていただきます。


明日からはまた別のお話を投稿します。

よかったらまたおつきあいくださいませ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ