女子受け!
私が【QUEEN】に初遭遇したころの時代背景を、長々と三回に分けて説明をさせてもらいました。
で、当時の【QUEEN】は世間的にどんな感じで捉えられていたかという話ですが……あ、世間一般的にはではなくて、中学生である私の周りでの【QUEEN】は、という意味ですけど。
私が【QUEEN】に出逢ったのが1979年の9月頃で、その半年ほど前にジャズ・ツアーで来日公演もありましたから、それはそれは凄い人気で……
いえいえ、そうでもありませんでした。
今ほどの人気があったかというと、そうではないと思います。中学生だからという理由もありますけど、私の周りでは【QUEEN】の名前を知らない人がほとんどでした。
今現在は映画【ボヘミアンラプソディ】の影響もあり、CMでも【QUEEN】の楽曲が良く流れるし、【QUEEN】黄金期のファンだった私世代も、そして私より上の【QUEEN】初期からのファンという世代も、反対にリアルタイムの【QUEEN】を知らない、親の影響でファンになった若い世代もいます。
親戚の中学生も知ってます。職場の若者も知ってます。昔は音楽に興味が無かったという同僚も、良く行く居酒屋の店長も、その店のアルバイトの女の子も、【QUEEN】は世代を超えて浸透しています。
そんな現在に比べると、1979年当時、若者と言われる世代以外では【QUEEN】なんて名前も知らない人がほとんどだったと思うのです。
でも仕方がありません。
当時、日本で人気なのは日本の曲だったのですから。
テレビやラジオの歌番組やCMから良く流れていたのは日本の曲でした。今と違い歌番組が数多くありましたから、人気の曲は一日に何度も耳にする事も出来ましたし、歌手の個人的な情報だって容易に入手出来ました。
けど洋楽はそうもいきません。こちらから聴く努力をしないと入っては来なかったのです。
で、中学当時、私の周りはというと……
洋楽の中にロックというカテゴリーが別にあったわけではなく、【アバ】【ノーランズ】【シーナ・イーストン】【ベイ・シティ・ローラーズ】らのポップスに並んで【ジャーニー】【トト】【フォリナー】【REOスピードワゴン】そして【QUEEN】があり、洋楽好きの多くがロック好きとなっていました。
ただ、ロック好きの中にはバンドを組んだりするグループもありまして、彼らは【ディープ・パープル】を中心に【レインボー】【ホワイトスネイク】【キッス】【ヴァン・ヘイレン】【AC/DC】などのハードロックという、ロックをもっと狭くしたカテゴリーの音楽を好んで聞いていました。
肝心の【QUEEN】はどこに位置していたかというと、洋楽の中のロックに、そのロックの中でもハードロック寄りに位置してはいたものの、バンドを組んでいたような連中からはなんとなく軟弱に見られていたという微妙な立ち位置だったと思うのです。
と、私の周りではそんな【QUEEN】なのに、世の洋楽好きからの人気は一番高く、音楽情報誌は常にクイーンの記事が載っていたという印象があるのです。
当時の洋楽情報雑誌はミュージックライフかヤングギターです。その中でもヤングギターがバンドを組んでいたゴリゴリのハードロック好きの愛読書で、ミュージックライフは洋楽全般ってイメージがありました。
それら雑誌では【キッス】【エアロスミス】【クイーン】の3つのバンドの人気が高く、良く比較されていました。
色物的な【キッス】。硬派な【エアロスミス】。そして軟派でも一番人気の【QUEEN】って感じだった気がします。
ミュージックライフでは良く表紙で【QUEEN】が載っていたし、ベストボーカル、ベストギタリスト、ベストドラマー、ベストベーシストなんてファン投票があると、必ず上位に四人がいたのは確かでしたし。
あと、女子受けが良かったとも聞きますが、そうでもなかったのではないでしょうか。あ、もちろん、中学生の私の周りではということですが。
高校生や大学生、そして若者という世代では女子受けが良かったのかも知れませんが、中学生の私にはそんな感じはしなかったし……
ってより、同じ中学生の女子とそんなに口を聞いたこともないような私でしたので、そういった印象を持っていたのかも知れませんが……
話を進めます。
その年のクリスマスに、なんと驚くことがありました。
音楽なんて興味のない親父殿が、何を思ったのか我が家にステレオを買ってきたのです。
何があったのでしょうか?
私がステレオを欲しいと言い出してから数か月、何の反応もしなかったのに急に買ってきたのは今でも不思議です。
以前、親父殿に聞いてみたのですが、そんな覚えがないとの返事が返ってきました。ただの気まぐれだったのかも知れません。
もちろん、フルコンポタイプではない、レコードとカセットとチューナーが一体化したモジュラーステレオでしたけど、それでも市営住宅の狭い我が家です。どこに置くのかと問題に……
「私、音楽なんてそんなに聞かないし、そんな大きなもの狭い部屋に置きたくないわ」
と姉上が言い、
「居間はな、こんなん置くと布団を出せえへんで置けんわな」
「ほうだわね。じゃまだわね」
と、両親が言うと、
「じゃぁ、儂とヨッシーちゃんの部屋に置くだわね。仲よう使わせてちょうだいよ」
と御祖母が言い……
なんと私と御祖母の部屋に置くことになったのです。
もちろん、御祖母と仲良く使うかどうかは別でしたけど……