高校受験も控えてましたので、プレッシャーがあったりしました。
私が中学三年だった1981年の11月。【QUEEN】の新しいアルバムが発売されました。べストアルバムでもある【グレイテスト・ヒッツ】です。このアルバムは色々と思い出の深いアルバムでして……
中学三年の1981年当時は、校内暴力という言葉が色々なところで飛び交っていました。
学校の廊下をバイクが走り、授業中に爆竹が鳴り響き、卒業式には警察が学校を囲んでいたり、卒業生に殴られたという先生が顔を腫らしていたり、体育大会では至る所で喧嘩していて、放課後には他校の生徒が校門で喧嘩の相手を待っていたり……
ということをテレビでは見たことがありましたが、私の通う中学校は、それはそれは平和でして、女子生徒のスカートを覗いたとか、男子生徒が掃除をしないとか、そんな程度でも大騒ぎをするような学校でした。
東京から来たカシクロウなどは、平和であることに感動していたほどでした。
そんな浮世離れした平和な中学生活でしたが、さすがに三年の二学期になると世間と同じく皆が受検モードとなってきました。
「ヤスはもう高校どこにするか選んだんかて」
「まだだて。俺の頭だと選んでなんかおれえへんで、入れるところだったらどこでも良いんだけどよ。そういえばユニ君は進学校へ行くって本当かて」
「ああ、俺んとこ大学行けって親が煩いでな」
「サト子は家を継がなかんで美容師の専門学校かて」
「たぁけ。まずはちゃんと普通の高校へ行くに決まっとるがね。美容師の勉強はその後だわ。ヨッシーはどうすんの」
「まぁ、公立高校だったらどこでも良いんだけどよ。でも俺の頭だとあんましないんだよな」
当時は公立高校の方が偏差値が高く、私立高校の方が偏差値が低いというのが一般的でした。もちろん、超有名進学校ともなると私立でも偏差値の高いところはあったのですが、私のような勉強が不得意である人を受け入れる高校というのはほ基本的に私立だったのです。
そして偏差値の低い私立高校はヤンキー発生率も高いため、一般的な生徒は肩身が狭いという副産物が付いて くるのでした。
で、私と言えば頭の出来は底辺なのですが、大勢のヤンキーの中で生きていけるほど生命力は強くなく、おまけに私立へ行ける程裕福な家庭ではないという、本当に困った状態だったのです。
「あんたまだ決まっとらへんのかね。まあ1 1月だに」
「分かっとるんだけどよ、行ける高校があらへんのだて」
「ほんなことあらへんでしょう。探しゃあ、いっくらでもあるでしょう」
「そりゃあ、あるはあるけどよ、私立行けるほどカネがないし、公立行けるとこはむっちゃんこ遠かったり興味のない農業高校だったりなんだわ」
一応ですが、こんな私でも行けそうな公立高校も少しはありました。ですけど、いきたい高校ではなく行ける高校を選ぶとなると、どこを選ぶにしても決定的にココだというポイントがなく……
スミマセン。【QUEEN】の話になかなか繋がりませんね、もう少しお付き合いください。
とくにかく私は優柔不断なところがあって、それで高校をどこにするかもなかなか決めれなくて、それだけでも大きな悩みを抱えた年末だったのですが、なんとこの時期、新たな悩みの種が……
「ヤス、【QUEEN】の新しいアルバム出るって、昨日のラジオで言っとったけど」
「おお、聞いたて」
悩みは【QUEEN】の新しいアルバム、【グレイテスト・ヒッツ】の発売たったのです。
【グレイテスト・ヒッツ】の発売はもの凄い話題となりました。前のアルバムである【フラッシュ・ゴードン】 の微妙さを吹き飛ばし、【ザ・ゲーム】以上の人気のアルバムとなったのです。
ラジオではいつも話題になっていたし、あの【ベストヒット・USA】でも収録曲の【アンダー・プレッシャー】が流れたりもしていました。
なんでもアルバムの収録曲は各国で違っていたらしく、日本盤のアルバムには日本語の歌詞で有名な【手をとりあって】が入ったことで話題になり、ベストアルバムなのにイギリスではでは一番売れたアルバムとして……私の うんちくは不要ですよね。
「ヤス、どうする、買う? 【グレイテスト・ヒッツ】」
「買わへん」
「なんでだて、ニューアルバムだぞ」
「でも持っとる曲ばっかだし」
「そりゃそうだけどよ。ほんでも【アンダー・プレッシャー】が入っとるて」
「一曲のために高いカネ出せえへんて」
「でも2000円って安いんちゃう」
「普通よりは安いけど、でも俺は買わん」
【グレイテスト・ヒッツ】は普通のLPよりも少し安く2000円ぐらいで売っていたのを覚えています。けどヤスが言っていたように、ベストアルバムなので、どの曲も既に持っている曲ばっかりたったのです。
新曲の【アンダー・プレッシャー】一曲のためだけに2000円はもったいないし……でも普通よりは安いし……【QUEEN】のアルバムは全部揃えたいし…….でも一曲のために2000円はもったいないし……堂々巡りでした。
どの高校を受けるかと悩みながらも、【グレイテスト・ヒッツ】を買うか買わないかと、そっ ちも悩んだため、何がなんだか分からないという時期があったのです。
受験生だからまずは高校を決めたらどうだと、当時に私に言ってやりたいとも思うのですが、これもまた青春と言いますか……
で、結局……【グレイテスト・ヒッツ】は買いました。
【アンダー・プレッシャー】が入っているならと思い、また、やっぱり新しく出るアルバムだから揃えたいという思いもあり買うことにしたのです。
でも結局は次のアルバムにも【アンダー・プレッシャー】が収録されていましたし、ヤスが持っているアルバムはカセットテープに録音していたから、自分の持っているアルバムとカセットから【似非グレイテスト・ヒッツ】を作っても同じだと思ったりも…….いや、今になって思えばですよ。
その当時はやっぱり【グレイテスト・ヒッツ】が欲しかったのです。
と、まあ、買うか買わないかを悩んだ【QUEEN】のアルバムはこの一枚だけでした。
あ、最後になりますが、ちゃんと高校も選びましたよ。
私の頭脳でも受け入れてくれる公立高校の中から選んだのは、愛知県内のド田舎にある某県立高校でした。
自宅から電車とバスを乗り継いで2時間の距離のある高校で、それこそ校内暴力だとかヤンキー少年とは無縁でのどかな……
それはまたの話となります。