【ライブ・キラーズ】!
新しい話です。よろしくお願いします。
っても、中年の戯言ですので、読み流してもらえればうれしいですが
イギリスの四人組ロックバンド、【QUEEN】がデビューした1973年当時の世の中の動きと言えば……
ベトナム戦争が終わりに向かい、オセロゲームが発売され、日本赤軍が日航機ハイジャック事件を起こし、オイルショックで物不足となり、猿の惑星や燃えよドラゴンが上映され……
と、世間では色々とあったようですけど、当時小学1年生だった私はぼんやりとした覚えしかなく、猿の惑星が流行っていて、燃えよドラゴンの影響で皆がヌンチャクを振り回し、トイレットべ-パーが無くなると母親が騒いでいたのを横目に、鼻水を垂らしながら野原を駆け回ってウルトラマンごっこに夢中だったという、そんな時代でした。
音楽的なことに目を向けると、デジタル配信なんて影も形もないどころか、CDだってなかったしカセットテープレコーダーでさえ珍しい時代だったようです。
お金持ちの家には勉強机サイズのシステムコンポやオープンリールなるものがあったと後ほど聞きましたが、当時、私の周りにはそんな高級なものはなく、音楽はテレビかラジオ、それともソノシートと言われるぺらぺらのレコードを聴けるポータブルレコードプレーヤーで聴くものでした。
流行っていた音楽というと、アイドル歌手というのはまだなかったようで、ガロの「学生街の喫茶店」とかちあきなおみの「喝采」などの実力派の方が多かったようです。
といっても、当時の私はウルトラマンや仮面ライダーの主題歌ぐらいしか興味がありませんでしたので、システムコンポが無くたって、それはそれで別に困ることではなかったのですけどね。
所詮は小学一年生だし。
だからもちろんのこと、1973年に【QUEEN】がデビューアルバム【戦慄の王女】を発表し、【ライヤー】や【マイ・フェアリー・キング】などの名曲が世に出た時代だったなんて、知る由もなかったのです。
何度も言いますけど、小学一年生ですからね、それは当たり前だと思うのです。
では、いつ私が【QUEEN】を知ったかというと、【QUEEN】がデビューしてから6年が経過した1979年、鼻垂れ小僧がちょっとだけ一人前になりかけ、学生服を着だした中学一年になってからのことです。
1979年というと【QUEEN】が3度目の来日公演をし、そのジャズ・ツアーの模様をライブに収めた【ライブ・キラーズ】を発表した年です。
その頃には豪華絢爛長髪王子様時代の【QUEEN】ではなく、アメリカでのヒット狙いのためか、短髪ハードガイになっていた時代です。
あ、ブライアンは別です。あんまり、いや、ほとんど髪型変っていませんし。
では1979年当時の私の周りの世の中の動きはというと……
初代金八先生で長ラン姿のツツパリが話題になり、スリーマイル島の放射能漏れ事故があり、ソニーからウォークマンが発売され、エイリアンが上映され、インべーダーゲーム大流行となり……私個人としては、機動戦士ガンダムに夢中になっていたという時代です。
音楽を聴く方法も少々変りまして、その頃にはラジカセやレコードプレーヤーは一般家庭に普及していました。もちろん、我が家にもラジカセが存在していました。
で、聞きたい音楽があった場合、歌番組が始まるタイミングでそのラジカセをテレビのスピーカーの前へ持って行き、
「音、たてんといて」
と家族に言って録音するか、エアチェックと言われる、所謂FMラジオを録音して音楽を楽しむという方法が一般的になっていました。
今では考えられないかも知れないですが、FMラジオでは発売後暫くすると人気のアルバムはほぼ全曲を一気に流すといった荒業がなされていたのです。
あと音楽を聞く方法としては、友達のお兄ちゃんという存在がありました。
だいたいクラスに一人は年の離れた兄弟を自慢する友人がいるものでして、私の周りにもそんな友人、エニ君(偽名)がいました。
当時、一軒家よりもマンション住まいの方がお金持ちという感じがあり、一軒家は親やその前の代から続くちょっとボロイ木造家屋ってイメージで、マンションの方が最新設備の高級な住宅とのイメージでした。
いや、私は、ですけど。
で、その高級マンションに住んでいたのがエニ君という同級生です。
その頃の中学一年なんて年齢が聴く音楽は、基本的に歌謡曲です。
アイドルというカテゴリーがあったのか私の記憶にありませんが、キャンディーズとピンクレディというアイドルの双璧がいなくなっていて、サザンオールスターズ、八神純子、アリスらが奏でる、ちょっとおしゃれな感じ曲が流行っていたと記憶しています。
で、私はというと、歌謡曲には大して興味はなく、まだまだガンダムの主題歌を一生懸命歌っていたという、ちょっと子供っぽいところが残った中学一年だったのですが……
そんな私にもターニングポイントというものがありました。
中学になって同じサッカー部で仲良くなったエニ君の家に遊びに行ったことで、私の人生には欠かせない【QUEEN】を知ることになったのです。
あれは確か、夏休みが終わり新学期が始まった頃だったと思います。
「ヨッシー(当時の私の呼ばれ方です)、俺、ギター買ってまったんだわ。ほんだで家に来いへん」
「エニ君、ギター弾くんかて?」
「ああ。兄ちゃんが弾いとるもんでよ、教えてもらったんだわ」
「すげえ、見せて見せて」
ギターと聞いてフォークギターというのが頭に浮かびました。なので、エニ君が恰好良く弾き語りっほいのを見せてくれるのかと、そんな期待をしました。
なんにしても、楽器なんて縦笛かハーモニカぐらいしか吹いたことのない私でしたので、友人が楽器を弾けるってことにものすごく興味を持ちました。
つてより、ギターが買ってもらえるなんて、エニ君はやっぱりお金持ちだなんて、そんなことを思ったのを覚えています。
で、エニ君のマンションに遊び行くと、ちゃんと自分の部屋があって、その部屋には憧れのシステムコンポが置いてあったのです。
市営住宅で御祖母と同じ部屋だった私とは大違いの環境です。うらやましい限りでした。
「これ、兄ちゃんのレコードな。で、兄ちゃんに教えてもらって覚えた曲があるで、ちょっと弾いたるわ。っても途中までだけどよ」
と、そういってエニ君が持ってきたのは、コンサート会場のステージ上で、カラフルなライトに照らされた四人組のアルバムジャケットのレコードでした。
「なにそれ、サザン?」
「ちゃうて、【QUEEN】の新譜だて」
「【QUEEN】ってなんだて?」
「ま、知らへんわな。今、海外では凄い人気のロックバンドだわ」
「ロックって、エニ君はロック聴くんかて」
「ああ、兄ちゃんが好きだで、俺も好きになったんだがや。あ、これ、日本のロックとちゃうでな。本物の海外のロックだでよ」
「ふうん。英語の歌かぁ」
そのレコードが、私は初めて【QUEEN】と触れた【ライブ・キラーズ】でした。
次話投稿まで曲が空くかもしれませんが、長い目でみてやってください。