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五大国戦記  作者: 我滝 基博
第1章 忠義の騎士と怠惰な皇弟
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1-29 一掃作戦

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアッ‼︎」



 木霊(こだま)した悲鳴。声質は男、されでも若さは無く、老練な少し嗄れた声。


 ランスロットの【精霊術】により、左腕を飛ばされた()()()()()()()()()()()()だった。



「皇弟殿下‼︎」


(わか)ってる。合図を出せ‼︎」



 ランスロットの催促、フィリペの号令に釣られてドラが鳴り、帝国軍の一部の部隊の旗が連合王国の物へと変化、帝国の護衛達によって連合王国側の護衛も全滅させられる。


 更に、王都内からも戦闘音が響き、フィリペ達の居る城門以外が開け放たれ、帝国軍と連合王国軍が大挙して都市へと侵入を果たす。



「ランスロット・サルフォードぉおおおっ‼︎ 貴様、祖国を裏切ったというのかぁあああっ‼︎」



 憎しみに彩られた双眸でコヴェントリー宰相に睨まれたランスロットだったが、アン王女を左腕で守護する様に抱き寄せながら、右手の水の剣を宰相へと向ける。



「裏切った? 人聞きの悪い事を言わないで頂きたい! 私は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のみ。そう、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、貴方からね!」



 結果から言えば、カルロスと内通していたのはニューポート辺境伯とベリー将軍だったが、カルロスが真に協力関係を結んでいたのはランスロットだった。


 正確には、ランスロットがベリー将軍と協力し、カルロスと歩調を合わせていた。全ては、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



「内通を申し込んで来たのは実は彼方(あちら)からなんです。何処(どこ)で知ったのか、我々が謀殺される危険性を持ち出し、協力関係を結ぼうと言って来たのですよ」


「で、あっちが俺達の帝位簒奪に協力する代わりに、こっちは王都の腐敗を一掃すべく人肌脱ぐ、と……お前から聞かされた時はビックリしたぞ!」



 苦笑いを浮かべるフィリペに、カルロスもまた笑みを浮かべる。


 計画はこうだった。


 先ず、帝国軍は敵となり得るニューポート軍の数を辺境伯自身の裏切りを利用して削り、それを元にランスロットが断罪して粛正。


 また、互いに犠牲少なく戦闘を行いながらも、この計画を知らぬブルゴス将軍、ウエルバ将軍、クライヴ、(当初はフィリペも含まれていた)が味方と成り得るか見極めつつ、味方とさせるべく戦意を薄れさせておく。カーム川で『大精霊』を使ったにもかかわらず帝国軍の人的被害が少なかったのはその為である。


 これで騎馬を潰されたブルゴス将軍とウエルバ将軍は、カルロス達の計画に乗る事を決めた。やはり、皇帝に弓引く行為への抵抗から多少渋られたが、『大精霊』に多少戦意が削られていたのと、「このまま帰っても命が危うい」という現実が決定打となり受諾された。


 クライヴの協力は、ベリー将軍による内通がバレた後、説得によって簡単に受諾された。そもそも誠実な人柄であったし、王女を助ける為となれば断る理由もない。


 これによって両軍全員の協力が得られた事で、作戦を実行し、ベリー将軍等は惨敗した様に見せかけて大半の兵を帝国軍と偽装、王都を包囲。交渉と称し、王女を王都から引き離し、ランスロット使って宰相からも引き離した後、ベリー将軍等の手引きで帝国軍等を招き、王都に巣食う腐敗の元凶を一掃する。



「通りで妙に犠牲が少なく、相手に逆撃の積極性すらない訳だ。犠牲を出したら、現エスパニア皇帝たる兄上を打倒する為の戦力も減る訳だからな」


「手紙だけのやり取りでしたから、戦い当初はまだ信用も信頼もし切れませんでしたし、上手く連携も取れずのすれ違いやミスもありました。特に、ブルゴス将軍が連合王国兵を蹂躙し始めた時はヒヤヒヤしましたよ」


「何によ、俺達の手助けは此処(ここ)までだ。後は、王女の騎士殿に任せるとしよう」



 眼前で王女を抱き寄せ、自国の宰相と相対する騎士を眺めながら、フィリペは少し楽しそうに、口角を上げるのだった。




 コヴェントリー宰相を睨み、アン王女を抱き締めるランスロットだったが、相手にバレない様にする為とはいえ、本当に殴られ、蹴られた為、全身に痛みが走り、顔を歪める。



「ランス、大丈夫?」


「大丈夫です、少し傷が痛んだだけですから。少々、やり過ぎましたね。もう少し手加減して貰えば良かった」



 冗談混じりに軽く笑うランスロットだったが、再びコヴェントリー宰相の怒号が襲って来た事で表情を鋭く戻す。



「儂が裏切りものだと⁈ 人に罪を擦り付けるとは何事かぁあっ‼︎ 騎士の端くれにも置けん、売国奴がぁあっ‼︎」


「我々が何も知らずに事を起こしたとお思いか? ベリー将軍を私の忙殺に使おうとしたのが間違いでしたね。貴方に協力するふりをして、色んな情報を流してくましたよ。貴方が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()も、我々を殺し、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()殿()()()()()()()()()()()していた事も! 貴方が玉座に座るべく謀略を巡らせていた事全て、私は知っているのです‼︎」



 ランスロットの(げん)に詰め寄られ、コヴェントリー宰相はギリギリッと奥歯を鳴らし、衝撃の真実にアン王女は驚愕する。



「このままでは殿下の身が危ぶまれた。しかし、王宮内部は貴方の手勢で溢れ返り、外部から変えようにも殿下を人質にされる危険があった。だからこそ、この様な芝居を打ったのですよ、コヴェントリー宰相‼︎」



 ランスロットの追求に、歯軋りを激しく鳴らしていたコヴェントリー宰相は、手を震わせ、怒りを振るわせ、化けの皮が剥がれ落ちていく。



「何が悪い……王になろうとして何が悪い……歴史上、王位を非人道的行為で簒奪し、栄華を極めた者達が居るのに、儂だけ王になれない道理は無い筈だ……」


「コヴェントリー宰相……本当に、本当に、貴方がお父様を殺したの?」



 怯えを持って、震えを持って、悲しみが含まれた瞳でアン王女に見詰められたコヴェントリー宰相は、嗜虐的(しぎゃくてき)に口元を歪ませる。



「その通りだ! あの木偶の坊を殺したのは俺だ‼︎」


「何で、何でお父様を⁈」


「決まっている! 奴が無能だったからだ‼︎」



 コヴェントリー宰相は不快にまた奥歯を鳴らす。



「二人の王に仕え、忠誠を誓い、政務に従事したが……歳を取る度に考えさせられた。こんな無能より俺の方が王に相応しいと。証拠に年々貴族共が言う事を聞かなくなり、政治は衰退の一途を辿っていた……俺が居なければな!」



 顔を上げ、残った右手を胸に当てた。



「俺が貴族共を纏め上げ、多少の不正を黙認し、操作してきたからこそ国は安定を保っていた! 国王共が居なくても、俺さえ居れば国は保たれる! なら、俺が王になるべきだ、俺が王であるべきだっ! ただユニオンという姓を持つが為に、ただそれだけで能も無く玉座に座らせ続ける奴等より、俺の方が王に相応しい! なら、奴等を廃して俺が王になるしかないではないか! だからこそ……」



 アン王女を鋭く睨み付け、彼女を震え上がらせる。



「王の娘というだけで玉座に着こうとするクソガキを利用してやろうと思った。女だぞ⁈ 子を産む道具に過ぎぬ女が、子供に男が居ないと理由だけで王冠を戴くなどあって良い筈が無い‼︎ なら、孫を宛行い、王継承権を持たせ、ユニオン一族を皆殺しにすれば、孫を伝い俺が国王になれる! そうすべきだ、そうあるべきなのだ‼︎」



 盲信しトチ狂った(げん)を並び立てるコヴェントリー宰相。それは狂気であったろう。聞くに耐えなかったろう。実際、ランスロットはもう限界だった。


 アン王女をフィリペに一時預けた彼は、コヴェントリー宰相へと近付き、水の剣で最初にその右足を切り離し、地面に仰向けに倒れさせ、胸倉を掴んで殺意に満ちた眼光で睨み付ける。



「女……? 女だから何だと言うのだ‼︎ 殿下は道具なんかじゃない! 一人のれっきとした人間だ! 貴様の野心にあの方を侮辱する事は俺が許さん‼︎」


「へっ、なら殺すが良い。俺が死んだ所でこの国の膿が消える訳じゃない! せいぜい痛い目を味わう事だな‼︎」



 下衆に大笑いするコヴェントリー宰相に、ランスロットは堪え切れず、水の剣でその喉元をかっ切ろうとして、背後から抱き締められ、止められる。



「ランス、駄目。怒りに任せて殺しちゃ駄目」



 アン王女に制止されたランスロットは、彼女の王女としての瞳を見て、水の剣を四散させ、コヴェントリー宰相の上から退()いた。



「これはこれは次期女王殿下……情けで生かしてくれるのですかな?」


「残念ながらそれはありません。コヴェントリー宰相、貴方は連合王国の法に則り、裁かれ、死刑となるでしょう」


「ふん、なら今直ぐ殺しても差し障りないだろうに……つくづく甘ちゃんだ」



 棘を含んだ言葉をぶつけてくるコヴェントリー宰相を見下ろしながら、姫君は次期女王として彼へ視線を向ける。



「確かに、私に能力は無いのでしょう。ただ、前王の娘だった、それだけです。貴方の方が王に相応しいのかもしれません」



 これに鼻で笑ったコヴェントリー宰相だったが、尚も崩れぬアン王女の瞳に目を奪われる。



「ですが……私は王になります! 皆が望む以上、私は王にならねばなりません! 他にも適任が居ようとも、私に資格が無かろうと、皆が望む以上、私は王になります! そして、王になる以上、私は民を、皆を幸せにします。その義務を果たすべく、尽力をしてくつもりです! 貴方の野望を踏み越えて」



 颯爽と風が吹く、光が王女を照らし、彼女の髪を輝かせ、瞳も輝く。


 神々しい姿、威厳のある姿。錯覚だろう、思い込みだろう。しかし、コヴェントリー宰相の瞳に映るのは、間違いなく只の幼き少女ではなく、国を滑るべき偉大なる王の姿であった。


 これに、宰相は自虐的に嘲笑を浮かべる。



「なら、踏み越えた先にある貴女の姿を、地獄から見守るとしよう。もし、相応しくないと判断すれば、野望を打ち砕いた憎しみで呪い殺して差し上げますので」



 これに、この言葉に、アン王女は威厳を持って笑う。



「望む所です」



 裏切りの宰相へと最期の言葉を告げ、アン王女は彼から離れ、コヴェントリー宰相はランスロット等に拘束された。


 こうして、〔ルゴス戦役〕は様々な思いを乗せ、願いを生み、又は(つい)えさせ、幕を下ろした。


 後に、コヴェントリー宰相は国家反逆罪、国王暗殺など多岐に及ぶ罪状により極刑となる。


 刑場までの道中、彼は騒ぐ事なく、喚く事なく、最期まで沈黙を保った。


 その口元には、何故か、少し楽しげな笑みが浮かんでいたと言うが、定かではない。

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