前書き
読まなくても本編読解に支障はありません。
この大陸の当時の姿を語れ、と言われたら、先ずこう訳される。
"五体の獣が住まう地"と
人類文明誕生から三千年の歴史を持つ大陸、エウロパ大陸。当時のこの地は、その言葉を体現する様に五つの国により支配されていた。
精霊に守られし、ブリテン=ノースエリン連合王国
果て無き発展を進む、エスパニア帝国
神に愛されし、神聖インペリウム帝国
折れる事なき猛者の巣窟、アレマン大公国
人知超えし獣を統べる、フランセーズ王国
人々を震撼させる五体の獣、五つの大国は、
ある時は敵対し、
ある時は手を組み、
ある時は謀略を巡らせ、
そして、ある時は戦争をした。
人類史における国家間の争いが絶えない様に、五大国の間でも、争いの文字は濃く刻まれていたのだ。
特に、五大国の統治下にあった九世紀末、十世紀の始め頃に於ける大陸の情勢は正しく激動の時代であったと、後世に伝えられている。
国家間戦争の続発、内乱の勃発、様々な流血を強いる戦争という名の産物が、激しく乱立していたのである。
乱世と呼ぶに相応しい時代、混迷を極めるエウロパ大陸であったが、だからこそ、"《英雄》"と呼ばれる者達が多数生まれたのは道理であった。
在る者は、王女に仕える騎士であり、
在る者は、引き篭もりがちな皇弟であり、
在る者は、自信溢れる将軍であり、
在る者は、無口な傭兵であり、
在る者は、末娘で当主となった貴族であり、
皆、等しく、歴史に濃く名が刻まれている。
新たな時代を築き、作り、変化を齎していく者達を《英雄》と呼称するならば、確かに彼等は《英雄》であったろう。
多種多様な物語、逸話、伝説を、彼等は紡いで行ったのだから。
同時期に生きた五つの大国と英傑達。時に絡まり、交じり合った彼等の記録。
五体の獣、五つの大国、そして、五人の《英雄》。
エウロパ大陸史に刻まれた稀有な時代、戦乱に満ちた鮮血の時代、流血と混沌が渦巻く五つの大国が記した戦いの記録。それを、これから五人の《英雄》の物語に沿って語る事としよう。