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波乱万丈

 一回戦は波瀾の連続だった。大分県代表明豊高等学校が、格上の奈良県代表天理高等学校に1-14で勝利したり、甲子園常連の和歌山県代表の智弁和歌山高等学校が、岡山県代表の倉敷商業高校に2-3xでサヨナラ負けと、実力高校が、次々と敗れていった。そんな夏の甲子園だった。

 「なぁ、ケイタ?」

 「おう!どうしたトウマ?」

 「何してたの?」

 「素振り。」ビュン、ビュン、ビュン

 「ここに来てもまだやってたんだ?」

 「だって日課なんだもん。」

 「って言うトウマこそ、どうせTVにかじりついて皆でわぁわぁやってたんだろ?」

 「一生に一度の甲子園だぜ?折角なら楽しもうよ。」

 「って、そんなこと言いに来たんじゃねーわ。」

 「ミナガワキャプテンが、熱中症で倒れたんだよ。」

 「昨日寝てる時に具合が悪いって下山監督に連れられて、神戸市内の病院に運ばれたんだ。」

 「で、初戦には間に合うのかよ?」

 「監督の話じゃ2~3日は入院が必要だって。」

 「初戦まであと5日ある。何とかなるだろう。」

 「キャプテンの調子が悪いから初戦敗退でしたなんて、口が割けても新潟の人には言えない。」

 「トウマ、お前の調子はどうなんだよ?大切な初戦のマウンド行けるよな?地方大会と違ってコールドゲーム勝利はねぇ。九回まで投げきれるスタミナが心配の種だな。ミナガワの熱中症よりそっちの方が心配だわ。」

 「省エネ投法で行く。」

 「ほう。で、トウマの考える省エネ投法って何?」

 「ストライクゾーンからボールになるスライダーやチェンジアップでゴロを打たす。」

 「見切られたら増えるのはボールカウントだけだぜ?」

 「そしたらそこで、俺のストレートの登場だ。」

 「最初から力のある真っ直ぐ主体でリードしたいんだが?」

 「俺のストレートは150㎞オーバーだぞ?つーか、俺の指示通り投げたらそっちの方が余程省エネだぜ?」

 「あーあ、そうかもな。でもよ負けたら終わりなんだぜ?秋の国体に出るには夏ベスト8以上の成績が必要なんだよ!松高すげぇなって全国の野球ファンに見せてやりたいじゃん。しっかりしろよトウマ!」

 「ケイタ…。」

 「分かった。省エネ投法はやめる。いつも通りリードしてくれケイタ。」

 「エースが打たれたら、チームの士気に関わるんだ。試合の流れ次第じゃあ、それが致命傷になる可能性もある。とにかくいつも以上に何があっても可笑しくはない。って俺の兄貴がそう言ってた。」

 「え?ケイタの兄貴って去年事故って亡くなった、コンドウユキヤさん?西部ライオネルの若き四番。山田玄助元監督が育てた最後にして最大の、野球界の至宝。」

 「まぁ、年が10歳も違うからな。会ってたのは毎年オフになる秋くらいだけどな。松高時代はエースで四番。高校三年の夏の甲子園で優勝し、その流れで11球団競合のすえ西部ライオネルにドラフト1位で入団。史上初の新人で三冠王。メジャーからもスカウトが来てた。らしい。」

 「ちなみに松高時代は春夏計4回甲子園を経験している。兄貴の口癖はいつも同じだった。」

 「絶対なんて無い。試合は陸上競技のリレーの様なもの。一人も欠けたらアカン。」

 俺が今なんでこんな話をしているのかはよくわかんねーけど、兄さんは、死ぬ直前まで野球漬けだった。野球バカの不運な最後はさておき、そんな兄貴に憧れて始めた野球。兄さんを越える為にその一心でここまで来た。愚直に。

 

  

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