号外と退院
「あと、2、3日で退院出来ますよ。野球も問題なく出来ますよ。」
「先生ありがとうございます。俺を引いた犯人も捕まり、松高野球部は、甲子園出場を果たしました。俺がいなくても、仲間がちゃんとやってくれたおかげです。」
「私も松高のOBなんですよ?だから嬉しくてね。」
「そうだったんすか。甲子園でも松高旋風吹かせますよ‼」
「無理はしないように。じゃあお大事に。」
トウマの完全試合達成は、号外が出る程の騒ぎとなった。ポリスメンの話だと、紙一重で死ななくて済んだらしい。俺がチームに合流出来たのは決勝戦の五日後だった。
「ケイタ?」
「コンドウ!?」
「コンドウ先輩!」
「生きてて良かったな?」
「おう!決勝は俺がいなくても勝てると思ってたが、皆良くやった。TV観ててヒヤヒヤしたけどな。」
「全校集会は終わったのか?」
「ああ。昨日だった。つーか、もう夏休みだぜ?」
「そうか…。」
「コンドウ!」
「下山監督!」
「無事か?」
「はい。この通り。」
「新聞社やTV局から、何でコンドウはいねーんだ?って聞かれまくったよ。まぁ、大丈夫ですよって曖昧にしておいたけど。」
「約束は果たしてくれましたね?甲子園のチケットありがとうございます。」
「お前のいない穴を皆で必死に埋めた証だ。」
「甲子園の初戦には、間に合わせますから。」
「今すぐ出来るんじゃないの?」
「野球勘を取り戻さないと。主治医からは、激しい運動も大丈夫だと言われてます。」
「まぁ、時間はまだある。」
ビュン、ビュン、ビュン、ビュン
「うん。」
「この調子なら2、3日で復帰出来そうですね。」
ビュン、ビュン、ビュン
「コンドウ選手、体の方は大丈夫ですか?」
「はい。もうこの通り、ピンピンです。」
「甲子園に向けて一言!」
「日本一目指して頑張ります。」
「ありがとうございます。」
「コンドウはもう復帰した様だな?」
「はい。ヤマオカさん。」
ビュン、ビュン。風を切るコンドウの素振りの音は神がかっていた。この日は500スイングしっかり鏡を見てやれた。
翌日…。「え?裁判?そんなの母さんが行ってくれよ?」
「俺、野球に集中したいんだ!というかさせてくれよ。」
「分かったわ。甲子園も近いことだし、弁護士の先生には、代理人をたてるよう言っておくわ。」
「民事裁判?」
「いや、刑事裁判よ。」
「マジかよ?」
「飲酒運転の過失傷害だからね。」
「もう、勘弁してくれよ。」
「賠償金ぼったくっても、バチあたらないよ。とにかく裁判には、絶対勝てるんだから、せめて夏休みの間…っても新潟には居ないけどよ。まぁ、雑念になるから裁判の話はしないでくれ。良いな?」
「分かったわ。」
「じゃあね。」
「ケイタ!?」
「おう!トウマ。おはよう。」
「もう大丈夫なの?」
「ああ、昨日から素振り500回再開した。つーか、今日は甲子園の組み合わせ抽選会の日だろ?日課こなして午後3時から先発隊で兵庫にいるミナガワやカネトモやイトハラが、動画を流してくれるはずだよな?」
「ああ、どことあたるか気になるな?」
「何だよ。珍しく弱気だね。」
「いつもなら、どこが来ても楽勝だぜとか言っているのに。」
「怪我明けだからな。出来るだけ大会中盤の二回戦あたりで出たいな。理想は。」
「なぁ、ケイタ?俺の球受けてくれよ。」
「20球位な。」
バシーン、バシーン、バシーン
「これで完全試合達成したのか?」
「何だよ?メディアも太鼓判の俺の投球にケチつけるのか?」
「図に乗るな!」
「あ?」
「お前の実力はそんなもんじゃない。」




