地獄ダッシュ
「車には気をつけろよ。」
「ちなみに信号が赤の時は、その場でももあげをしろ。」
「おう。」
「松高は高台の上にある。地元の人間なら松港橋から松高まで、ダッシュ!?なんて反応するくらいエグイ坂がある。だがこの地獄ダッシュを50本も100本もやるのは不可能だ。一日精々20本も出来れば、上出来かな。居残り練習は校内練習に限られてるからな。夜は視界が狭く危ない。」
「走り出したついでに新潟空港まで走ったらどうだ?」
「それは良いっすね。」
「だが日が落ちる前には一往復出来るか?って所だな。」
「結構キツいぞ?良いのか、マツゾノ?」
「若いあいつらにはこれくらいのメニューは楽にこなすでしょう?」
「それよりも、ウェイトトレーニングを取り入れたらどうだ?」
「無茶な筋トレでは瞬発力はついても、持続力はつかない。」
「走る事に意味があるんです。地味な鍛練ですが、やはりスポーツの基本はランニングですし野球も、同じですよ。」
「ただ走るだけじゃ芸がねぇな。重り10㎏を両足につけて、走るってのはどうだ?」
「良い提案だ。だが怪我の恐れがある場合は、直ぐに外す様に。いいな?」
「うす!」
「つーか、投手ばっか走らされて大変だな?」
「人事かよ?走らされるのは、ホシノだけだよ?」
「マスオカに負けたくねぇんだと。」
「松港橋から松高までを10本やるのと、新潟空港までの往復便。ケイタはどっちがキツいと思う?」
「そりゃあ、空港往復だろ?ま、いずれにしても、トウマには走り込んで貰う必要があったんだよ。」
「しかも10㎏の重りつけてやれだって。」
「トウマは今のままで良いと思っている訳?」
「やりたいとかやりたくないじゃない。やらなきゃ駄目なんだよ。気持ち込めて野球出来ないなら、やめちまえ。」
「んだよ!?(バン)」
「おい、なんかあったのか?コンドウ?」
「いや、ちょっとトウマに吹っ掛けたと言うか…。今のままじゃあ、あいつは二流の投手で終わってしまうのです。どうせならトウマと二人でNPBで切磋琢磨して活躍したいんです。」
「お前は女房役だもんな?」
「きちんと努力すれば、もう一皮も二皮も剥けて甲子園を沸かせるような、ドラフトで上位指名される様なそんな投手に成れる筈なんです。だから、この程度で終わって欲しくないんです。」
「甲子園まであと一年切ってるもんな?大丈夫、お前らなら出来るよ。」
「ありがとうございます。下山監督。」
「トウマ??」
「さっきは悪かった。言い過ぎたなんて言おうと思っていたんだろ?」
「別に気にしちゃいねぇよ。お前の力でやって魅せろよ。日本一の景色を見せてくれよ。そこまで俺に求めるならな。」
「嗚呼。」
「俺はいつもやれる事を一日一日積み重ねているだけだ。その先に何が待ってるかなんて誰にも分からねぇ。」
「とりあえずランニングやってみるよ。」
「何をやるか選択するのはトウマだ。結果はマウンドで見せてくれよ。」
「少なくとも、ここまで入学以来一年半かけてやって来た中で、背番号1が似合うのは、トウマ。お前だけだと信じてる。俺はな。キャッチャーが俺なら、トウマのベストピッチを引き出す事が出来る。マツゾノ投手コーチもトウマの開眼を心待ちにしてるよ?」
「嗚呼。分かった。」




