第三回山田玄助杯決勝ラウンド①
山田玄助杯二次ラウンド最終戦から一週間後。その土曜日、激戦を勝ち抜いた4チームが遂に雌雄を決する時が来た。NB(日本文理高校)、北越高校、新潟南高校、そして松高だ。
大会3連覇がかかる松高にとっては、県内の強豪チームしかいない今大会では、負けている訳には行かない。松高の初戦の相手は、北越高校である。強力な打線と豊富なブルペン陣を持つ強豪私立だ。
「集合!」
「うーす!」
「大切な1試合目だ。疲れているかもしれないが、気合いで乗り越えてくれ。」
「コンドウ。今日もMAT1を使ってホームラン量産してこい。」
「うす!っていうかMAT1って何なんすか?バットが相当重い感じがするんですが?」
「詳しい説明は優勝したら教えてやる。」
「優勝が必須ですか…。よし!」
「松高ーーファイオシ!!」
松高先発はマスオカが立ち上がり良く北越高校打線を0点に抑える。マスオカの先発という事で、七番にアリアケが入り、キャッチャー。コンドウはサードに入り四番。それ以外はいつもと変わらないメンバーだった。
「ヤマナコーチ!コンドウの奴サード守れるんすか?」
「ああ。ピッチャー以外は内外野全て守れるユーティリティプレーヤーだ。」
「礼!」
「うーす!」
時はさかのぼり試合直前。
「なぁ、マツゾノ?あのMAT1とか言うバットは、チタニウム合金製のダイヤモンドコーティングされたバットの事か?」
「流石ヤマナ。お目が高い。一本500万円もするんだぞ?」
「でもあのバットは公式戦では使えないぞ。」
「そもそも、うちは公式戦出場停止中や。かまわないだろ?」
「じゃあ何で?あのバットを使って勝つ事に意味はあるのか?」
「打つことの楽しみを、あいつらには知って欲しいねん。」
「打つことの楽しみ?」
「MAT1なら多少のボール球や芯を外した打球でもホームランになる。まぁ、普通のバットに戻した時に弊害が出るが、その修正力位あいつらにはあるだろう。」
「打撃コーチの俺からすれば、あいつらにはそんな小細工使わなくても、充分打てる程毎日素振りさせてるんだがな。」
「でもヤマナコーチ?普通の鉄バットで長打を放てるのは、ミナガワとコンドウ位ですよ?後のバッターは、皆短打か行けてツーベースですよ。」
「アベレージはかなりハイですが、もっとホームランを打つことの感覚、あのスリルを興奮をMAT1で叶えさせてやりたいんですよ。」
「まぁ、ここは使ってみて様子見ってところか。」
「盗塁やバントと言った機動力を使わない様なスタイルにしたのは、他でもないヤマナコーチ、貴方ですよね?」
「うちのチームはそんな小細工はいらん。」
「彼等の長打力を高く評価しているのはマツゾノ投手コーチも同じじゃないですか?」
…と、マツゾノとヤマナ両コーチが力説しているうちに、松高のスコアボードに数字が加算されていく。五回表を終わって13-0。この裏の攻撃を抑えれば松高の勝利である。マウンドには、クローザーのツチムラが登る。
「ストラック、バッターアウト!」
結局北越高校打線は、マスオカ、ツチムラの松高投手陣に散発2安打で負けた。もう一方の試合は延長12回日本文理高校が一点を取り、新潟南高校に競り勝った。




