落とし前
4月22日、新メンバーで松高野球部がスタートして1週間が経とうとした時だった。練習をしているコンドウら1年生の元に、2人の3年生が現れた。
「お前ら、本当にすまん!俺とこいつのせいで松高野球部の看板に泥を塗ってしまった。」
「いきなり現れて何なんですか?しかも今更。」
「シンカイ達2年生にも本当に悪かったと思っている。」
「コンドウ。コイツらこそ松高野球部を2年も出場停止にした張本人、イデグチとアライだ。先輩だが、呼び捨てでもかまわないだろう?」
「今更謝られても困ります。それに2年生と3年生とようやくわだかまりも溶けて、新1年生を中心にしたチームがスタートしたばかりなんです。邪魔しないで下さい。」
「そんな邪魔をするつもりはないよ。ただ俺達に出来る事はないかなと思って来たんだ。」
「良いでしょう。"落とし前"つけてもらいましょう。」
「ああ。分かった。で、何すれば良い?」
「卒業するまでの1年間、2軍メンバーに混じってグラウンド整備とボール磨き。2軍監督とコーチをやってもらいましょう。ま、それで"落とし前"としましょう。」
「おい!コンドウ、温いんじゃねぇか?」
「え?」
「この2人のしでかした事は1度や2度じゃないんだぞ?」
「そうなんですか?イデグチさんにアライさん?」
「自慢じゃねーが停学は当たり前、退学になりかけた事もあった。ただ野球が上手いって理由だけで、この松高に残れたんだ。」
「分かりました。何かトラブルがあれば退学してもらいます。しかも、野球部に迷惑をかけない形で。何せ、これはボランティアですから。」
「OK分かった。」
「ドモン先輩やシンカイ先輩達はやりづらいかも知れませんが、そこは何とかよろしくお願いいたします。」
「ちなみに2軍監督とは言っても、イデグチさんとアライさんが卒業するまでは、2軍メンバーはいません。ですから、グラウンド整備とボール磨きが終わったら帰宅して頂いてけっこうです。」
「こういう仕事は3年生がやるものではないかも知れませんが、せめてもの罪滅ぼしのつもりでやって下さい。」
「来週には出張していた下山監督も、合流する予定ですので、そこで正式決定とさせて頂きます。」
「下山監督で甲子園目指すのか?」
「はい。正直監督は誰でも良いんです。試合はプレーヤーがするものですから。それに下山監督は、伝説の監督山田玄助氏の最後の教え子ですから。少し頼りない所はあるかもしれませんが、プロ野球に行かず進学を決断して、指導者の道を選んだのは凄いと思います。」
「つーか、その話誰から?」
「推薦入試の時っすね。下山監督が試験官だったんすよ。」
「よーし!無駄話やめて練習再開するぞ!」
「無駄ではないけどな(笑)」
「うーす‼Bマシーンと素振りあと、500回はノルマな。試合を意識してスイングしろよ!」
それから1週間。
「えーえ、今日から松高野球部の監督顧問になった下山太一、34歳だ。まだ若い監督だが、よろしく頼む。じゃあ、コンドウいつも通りのメニューを…。」
「集合。うーす‼」
「松高ーー!ファイオシ。」
「コンドウ、ちょっと良いか?」
「はい?何でしょう?」
「おい!ケイタ?監督何だって?」
「いや別に。いつも通りやれって。」
「なんだ、それだけか?つまんねーな。」
(コンドウケイタか。1年にして立派にチームを引っ張るキャプテンとして躍動している。2年後が楽しみだな。)
「コンドウ!スイングは肩でするな。体全体でスイングするイメージだ。」
「ホシノ?下半身を使って投げると球速がますぞ!まずは下半身を鍛えるんだ。」
(お、監督らしい的確なアドバイスくれんじゃん)
現時点で、部員22名、1軍20名、2軍2名ですが、今の所変更がある。カケフとアラガキが1軍から2軍に落ちた。これで1軍は18名となり、2軍は4名となった。この降格は、2日後に行われる新潟明訓の3軍との試合の為だった。
イデグチとアライも、野球部に馴染み過去の過ちを悔い改めていた。「カケフ、アラガキ、気にすんな。また上がれば良い。」
「うす!」
コンドウは、2軍監督にイデグチとアライを任命しておいて良かったと思った。