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サイレント・下山

 いつもの彼ならこう言う。

 「ああ。それで構わない。」と。

 だが年明けの投手の打撃力向上については、このセリフが珍しく出ず黙りだった。何か言いたそうな感じもしたが、彼は練習方針の全てをヤマナ打撃コーチとマツゾノ投手コーチに任せている。言ってみれば、彼は置物であり名ばかりの監督でしかない。だが彼の存在無くして、松高野球部は存在し得ないのである。彼にも一定の発言力があるのは確かである。

 だがこの期に及んでチームの方針に異議を唱えるのは、コーチと監督の不協和音をいたずらに生じさせるモノであり、フロントの争いはone teamの崩壊を招きかねない。だから彼は何も言わずサイレント・下山で居続ける訳である。

 腕を組み、口を真一文字に結び、真っ直ぐ正面を見て立っている。何者も寄せ付けない、そのオーラは、彼の人柄とは全く正反対のものである。だが、彼は松高の青いユニフォームに腕を通している時は下山監督は鬼になる。指示はおろか声すら出さない。だが誰かがアドバイスを求めて来た時は的確にアドバイスをする。

 まぁ、最も下山監督にアドバイスを求めるのは、学校の学務についてのモノが多く、野球の技術的な事を聞いてくる事はほとんどない。それでも、何もしていないわけではない。プレーヤー、一人一人の調子やコンディションまでを全て記録したノートを作ってまとめており、ヤマナ打撃コーチとマツゾノ投手コーチと共有している。土日祝日しか選手を見れない両コーチに変わり、平日はサイレント・下山もたまには口を開く。練習開始のメニュー読み上げと練習終了の合図をする。松高躍進の陰にはサイレント・下山の隠れた努力がある。

 「監督!?何やってんすか?今からミーティングですよ?」

 「ミーティング?そんな予定あったか?」

 「とりあえず来て下さい!」

 「なんじゃこりゃあ??」

 「ケーキっすよ。今日は下山監督の誕生日じゃないすか?」

 「そんな暇があったら練習しろよ。」

 「このケーキはほとんどマネージャーのセイコさんに作ってもらいました。」

 「高橋…。」

 「とりあえず食べて下さいよ。」

 「あ、ああ。旨いな。」

 「今日で37歳かぁ。」

 「どうせ独身貴族だから祝ってくれる家族も彼女もいないですよね?」

 「図星だな。」

 「毎日忙しいのに、休日返上で野球部の為に献身していただきありがとうございます。」

 「俺は松高野球部の監督だ。お前らの事は誰よりも知っている。当然の事だ。」

 「サイレント・下山も汚名返上ですね。」

 「沈黙は金なり時に逃げなり。山田玄助元監督から送られた言葉だ。とりあえず、ここは俺が片付けておくから、お前らもう行っていいぞ。」

 「うーす!」

 「あのぉ?調理部なんですけど、もういいですか?家庭科室使っても?」

 「ああ。今すぐ撤収する。(くそぉ、あいつらめ)」

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