あけましておめで投手
「あけおめ!」
「ことよろ!」
ケイタやトウマら野球部のグループLINEでは年賀状の変わりにこのような挨拶を交わすのは今時の若者と遜色ない。
年が明けた1月3日。松高野球部が新体制になり早9ヶ月。3ヶ月後には新入生も入って来るという状況で、迎えた練習初め。
「集合!」
「うーす!」
「各自自宅でしっかりトレーニングはしてたようだな。2年目となるこのチームの課題は、投手力の強化だ。入って来る新人にももう目星はつけてある。と言っても投げる方じゃない。投手の打撃力を上げていきたいと考えている。打てる投手。それが2年目の課題だ。皆、明けましておめで投手…。なんてな。(マツゾノさんすべってる。)とは言え、投手の本分は投げる事だ。野手に繋いで繋いで自らのピッチングを楽にする。それが松高の目指す理想の投手力だ。野手の方は引き続きヤマナ打撃コーチの指示に従ってくれ。練習試合も昨年より増やす方針だ。即戦力の新人に抜かれる事が無いように練習に励んでくれ。」
「うーす!」
「ストレッチから始めるぞ!」
「ケイタ!今日は40球で頼むわ。」
「打撃練習もするんだろ?今流行りの二刀流って奴か?」
「ああ。正直苦手なバッティングはやりたくないけど、新人にエースの座を奪われる訳にはいかないからな。やるしかない!」
「肝心のピッチングに影響しないと良いがな。」
「肩休めになって良いかなって思ってる。チュートレ(チューブトレーニング)や、走り込みとか、実際マウンドではない地道なトレーニングの量も減るし、その分自主トレでやるから二刀流もありなんじゃないかな?」
「でも、正直俺は反対派かな。」
「え?何で?」
「別に投手は九番でバントが巧い位で良いと思うんだ。投手はピッチングで結果出して欲しいからな。」
「まぁ、俺の意見はさておき、マツゾノ投手コーチの言う事だ。間違いはねぇだろう。」
「ヤマナ打撃コーチはどう思ってるんだろう?」
「そうだな。直接聞いてみれば?」
「首脳陣の方針だ。聞き返して反乱分子と思われたら敵わん。確かに、投手が打ってるチームは強い。ケイタみたいに、打って当然のスタンスの人間にとっても、マイナスの理論にはならないからな。だから、野暮な質問はせず、素直に己のコーチの指示に従うまでなのさ。」
「だな。」
「そういやぁ、来年度入って来る新人で、活きの良い投手が二人いるらしいぞ。」
「ほんまかいな?」
「そうかいな。」
「右のシュトウに左のカメガイ。実力はリトルリーグで折り紙付き。エースの座をとられんなよ?精々努力を惜しまない様に!」
「そっか。俺達後3ヶ月後には、もう2年生になるんだな?」
「今頃かよ?」
「活きの良い後輩達大歓迎だぜ?俺は。正捕手の座を譲るつもりは毛頭ないからな。」
「ケイタの心配はしてないよ。俺のエースナンバー"1"を守れるかが大事だよ!」
「いずれにしても、励め。」




