シーズン開幕(メジャー二年目)
二年目のジンクスとは、よく言ったものだが、コンドウは、それを払拭する暴れん坊だった。3、4月は月間MVPを獲得。打率4割2分4厘、本塁打19、打点51をマーク。敵の対コンドウ策は不発に終わった。オープン戦の時とは違い、勝負してくれた事が、結果を残せた要因だ。
アメリカは、日本人とは違いどんな強打者でも塁が開いていても、真っ向勝負をする傾向がある。
「ケイタ?どうした、真っ青な顔をして。」
「夢で嫁が流産をしたってだけ。現実にはしてないから安心した。」
「聖子ちゃん、妊娠しているのか?」
「もうすぐ、出産だ。だから余計気合いが入る。」
「ギアが入った訳だ?」
「ああ。」
「ギアが入ったケイタを止めるのは、ちょっとやそっとじゃあ無理だぞ。」
ヤンキースは4月を終えて21勝3敗でアメリカン・リーグ東地区を首位で独走している。この勢いで勝ち続ければ、記録的なチームの勝利数となる。名将スタンビッチさえ、経験した事はない勝ち星になる可能性は高い。
「ケイタ?無理が利くのは若い今だけだ。思いっきり無理をしろ!」
「うす。」
五月に入ってもヤンキースの連勝は止まらなかった。世の中はゴールデンウィークとはしゃいでいるが、プロ野球選手にはそんなものはない。ヤンキースタジアムに詰めかける多くのファンの目当ては、ヤンキースの大黒柱、ケイタ・コンドウである。
「彼はまだ、20歳なのにキャッチャーとしても打者としても完成している。ニューヨーク・ヤンキースは、とても良い買い物をした。5年で20億ドル?もっとあげても良いんじゃないかな?」
四番キャッチャー、ケイタ・コンドウNo.29グワーン、グゴワーン。この日のケイタ・コンドウは4打席で4安打3本塁打10打点の活躍で、チームの勝利に貢献した。
「ケイタの奴、メディアでは神童とか言われているけど、努力家なんだぜ。3Aのプレーヤーがやるようなメニューを、毎試合やってるんだ。」
3Aと言えば、日本で言うところの二軍に相当する。メジャーに上がるか下がるかの際どい若いプレーヤーは、とても多く比較的若いプレーヤーが多い。その練習はかなりハードである。
「ケイタ・コンドウは練習の鬼だ。」
どうやらコンドウは、今も昔も練習の鬼の様だ。だが、野球はチームスポーツ。一人だけ良くても駄目だ。だが、コンドウの場合は違う。一人だけ良くて勝てるプレーヤーなのである。昨シーズンは、ルーキーながら世界新記録となる本塁打75、打点205に達した。打率は奇跡の4割2分4厘。規定打席に達したプレーヤーの4割越えは、史上初だった。この勢いで行けば、今シーズンは更なる記録の更新も夢ではなかった。
「そういやあ、ケイタって体柔らかいよね?ビックリしたよ。」
「柔軟やストレッチは昔から誰よりもやって来た。だから生まれてこの方捻挫1つした事ないよ。」
「怪我で戦線離脱したプレーヤーは吐いて捨てるほどいるからさ。気になってたんだ。」
「監督、俺の怪我よりハミュエルの酷使は考えた方が良いっすよ?」
「そうだな。だが、今大事なのは、ケイタ・コンドウという金の卵をどう育てるかだ。」
「はぁ…。」
「君は私が見てきたどんなメジャーリーガーよりも、パワフルでクレバーだ。」
「しっかり仕事はしますよ。高給取りですからね。」
「頼むぞ、ケイタ。ポストシーズンやワールドシリーズはお前の活躍にかかってるからな。」
「あ、監督すみません。病院から電話来ました。」
「おう!早く行ってやれ!」
「し、失礼します。」




