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6.嘘つき(その11)

 同様の祈りが、法廷内のごく一部、即ちトカゲのビルや料理番、ドードー鳥たちから懸命に捧げられていた。しかし一方、聴衆たちのほとんどは、今や打ちしおれたかのようなルイス・キャロルに向かって、侮蔑や挑発の声を浴びせ掛けている。

「オラオラッ、カジノ潰しッ! 何のろのろやってやがるッ! 負けを悟ったんならさっさと投了しろッ! そして潔く死にやがれッ!」

 ひと際甲高い声でグリフォンが言った、ちょうどその時だった。ルイス・キャロルは唇を引き結び、ゆっくりとその表を上げたのである。そうして彼は女王を見据えると、手元からカードを出しつつ、苦痛をにじませながらも毅然として言った。

「4が、三枚です……!」

 聴衆たちの間に若干の戸惑いが走るが、ロリーナ・リデルは動じない。彼女は氷のような表情と、捕食者のような瞳でもってルイスを観察し、そして狂おしい程の時間が過ぎた後、高らかにこう宣言した。

「ダウトッ! この男は嘘つきよッ!」

 怪しく微笑むロリーナに対して、その場の他の全ての者は、固く口を結んで息を呑む。強張るひれ先をのろのろと動かし、ナンチャッテウミガメはカードをめくった。

「……ムフッ……! ムフフフフッ……! 4では、ないッ! 2と、3と、Qッ! 大噓だッ! ブラックレディーのダウト、成功ッ!」

 法廷は一斉に沸き起こった。自らの笑い声すら掻き消されてしまう程の音量の中で、ロリーナ・リデルは苦しそうに歯を食い縛るルイスを眺めつつ、次のように思考していた。

 ――アッハハハハッ! 流石の度胸だわッ! それともただの、破れかぶれかしら? このタイミングで、バラ札三種三枚一気出しとは! フフッ! けど、そうよね? もうそれしか、あなたの命が助かる道はないものねッ!


 AAA23444577788889999TTJJJJQKKKK


 ……抜き札はさっきので「A4567T」の六枚と確定したから、あなたの手札はこうだった! もちろん今も変わらずね! 即ち、四枚揃いを無視すれば、カードは八種! 一方、私の手札は――


 22233355666TQQQ


 六種十五枚よッ! 愚直に一種類ずつ出したとしても、後たった六手で上がり! 5二枚と10を合わせて嘘を通しさえすれば、五手で上がれるッ!

 一方でチャールズ……! あなたが上がるには、愚直にやれば八手。バラ札を三枚にまとめて出せば、最短では私と同じく五手で上がれる。こんな風に……。

 AAA、235、444、777、TTQ

 だからこそ今、あなたは23Qと三種三枚で出した! けれどもあなたが私より先に上がるためにはッ、この私に対して、嘘を二回も通さなければいけないッ! いいえッ、それも今一回失敗したせいで、単なる必要条件に過ぎなくなった! なぜなら次は私の手番! 上がりのための五手を、私の方が先に挑戦する事ができるんだからッ……! しかもこっちは、嘘一回で済むッ!

 ……フフフフッ……! チャールズ、あなたが未だ、諦めていないかもしれないというのは分かったわ……! だけどそれは、あなたが抜き札を一枚も見ておらず、私ほどには実際の形勢が分かっていないからこそ、そうしていられるだけなのではなくって? ここから先は、私のコールする数字から判断して、あなたにも真実が分かってくるでしょうね……。あなたとアリスの死が、既に間近に迫っているという事が……! 既に全てが、手遅れだという事がッ……!

 ロリーナ・リデルはこう考えると、怪しく微笑みながら自分の手札に視線を落とし、そこからカードを取ってテーブル中央に叩きつけた。

「3よッ! 3が三枚ッ!」

 先の手札を引き取り終えたばかりのルイスは、これを聞いていささか動揺の色を見せた。聴衆たちの一部も、ロリーナのこの一手に対して少なからず反応する。陪審員席のドードーは青い顔をして言った。

「じょ……、女王が、さ、三枚出すのは、久しぶり……! 前の時は、ク、Qを運命の三女神に見立てたり、ちょ、挑発的な意味があった……。け、けど、こ、今回のこれは……、ま、まま、まさか……!」

 すると彼の横から、ヤマネが手を叩いて嬉しそうに言った。

「あっははッ! それってもしかしてッ、女王様、詰めに入ったって事じゃないのッ? ひょっとしてッ、カジノ潰しはもう詰んでるんじゃないのッ?」

 この声や同様の推測から、聴衆たちの大部分は期待に胸を膨らませてゆき、ごく一部の者たち、即ちドードーや野ウサギたちだけが、唇を噛み締めて成り行きを見守った。

 注目の中、ルイス・キャロルは表情を強張らせながらも、対するロリーナの目を見据えて言った。

「スルーします……!」

 ロリーナ・リデルは不敵に微笑み、聴衆からは不満の声が上がった。けれどもルイスはそれらには構わず、無言で手札をじっと見詰める。やがて彼は息を一つつくと、カードを手に取り、場に出して言った。

「Aが、三枚です……!」

 その表情は苦しいままだが、両の目はしっかりと対戦相手を捉えている。ロリーナは再び凍てつくような眼差しで、ルイス・キャロルを観察した。

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