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6.嘘つき(その7)

 さて、ルイスたちが中央のテーブルを挟んで椅子に座ると、ナンチャッテウミガメが用意されたトランプをシャッフルし始めた。対戦者両名の手元には低い箱状のついたてが置かれており、ルイス・キャロルの手錠は外されている。

 念入りなシャッフルが終わり、ルイスとロリーナ双方が一度ずつカットした後、ウミガメはデックの上から六枚を取り、テーブルの端によけて並べた。続いて彼は残りのカードを交互に配っていく。

 カードが配られるにつれて、法廷内の注目も再び彼らに集中し、興奮の声があちこちから湧き起こっていった。傍聴席を区切る柵はたわむほどに押され、トカゲのビルや料理番もこれでもかと身を乗り出している。

「静粛にッ!」

 やがてウミガメが大声で言った。彼は丸テーブルの傍らに立ち、聴衆のざわめきが落ち着いたところで、低く憂鬱に満ちた声で一同に告げた。

「それでは……、只今より、我らがブラックレディーことロリーナ・シャーロット・リデル対、カジノ潰しことチャールズ・ラトウィッジ・ドッドソンの、決闘裁判を行なう……! 方法はゲーム、『ダウト・バウト』による一回勝負。チャールズ・ドッドソンが勝った場合、彼は無罪放免……。一方、ブラックレディーが勝った場合……! 『自由に対する反逆罪』に対する正当な罰として、この場でチャールズ・ドッドソンの心臓を、生きたまま抉り出すものとするッ……!」

 再び低いどよめきが起こり、聴衆たちは様々にその表情を歪めた。ロリーナ・リデルは刮目しつつ微笑んで、反対にルイス・キャロルはうつむき気味にじっと彼女を見つめた。

ウミガメは続ける。

「ゲームのルールは先の取り決め通り……。イカサマを行なった者は、即刻負けとする。……では、先攻後攻を決めるための、コイントスを行なう……!」

 彼はどこからともなくコインを取り出すと、頭上高く放った後、ひれの先に挟むようにして受け止めた。

「表か、裏か……!」

 一同が息を呑んだのも束の間、ロリーナ・リデルは刺々しく言った。

「裏よ!」

 一方、ルイス・キャロルはここで不意に小さく微笑むと、声を高くしてまくし立てた。

「ではでは、私は誰かさんの顔が描いてある方にしましょう。『表に決まり』です! このコイントスの結果で、『ゲームの行く末が予言できる』かもしれませんよ? 『うらない』、なんちゃって!」

 トカゲのビルは思わず口元を緩めたものの、その場のほとんどの者は顔を引きつらせるのみであった。ナンチャッテウミガメは黙ってひれを開き、コインを確認する。

「……裏だッ……! 先攻はブラックレディー!」

 早くも拍手と歓声がロリーナに送られる。他方、最初の勝負に敗れたとも言えるルイス・キャロルであったが、その表情からは緊張は去り、今やすがすがしかった。

「それでは……!」低い声で、ウミガメが言った。「対戦者両名、それから一同、覚悟は良かろうな……? 自由と真実、そして運命を廻る決闘ッ……! 『ダウト・バウト』ッ! ゲーム開始だッ!」

 法廷に雄叫びが轟く中、ルイス・キャロルとロリーナ・リデルは、手元に配られたカードの束を同時にめくった。その数二十三枚ずつ。彼らはそれを一通り眺めると、ついたての手前に、表にして無造作に広げた。その様子を遠目に見て、ドードーは思う。

 ……流石だ……。二人とも、カードを細かく数字毎に並べ直したりはしない。ついたてがあるとは言え、その動作だけで相手に手札内容を悟られるおそれがあるから……。

「それじゃ……!」ロリーナが皮肉っぽく言った。「いよいよこれが、終わりの始まりね。……まずは、小手調べと行こうかしら……!」

 彼女は手札から二枚を拾い上げ、テーブルの中央に裏向きに放った。

「4よ……!」

 対するルイスは不敵な笑みを浮かべながらロリーナをじっと見つめると、やがて毅然としてこう言った。

「ダウトッ……! この二枚は4にあらず……!」

 聴衆たちがどよめきの声を発する。ロリーナはというと、すぐにあからさまな嘲笑を浮かべて、傍らのウミガメに顎で指図した。ウミガメがロリーナの捨て札二枚をめくる。

「……4ッ! 二枚とも、宣言通り4である! ムハッ! よってカジノ潰しのダウトは失敗! この二枚は彼が引き取り、ブラックレディーは抜き札から一枚を指定して見る事ができるッ!」

 すぐに周囲から歓声と嘲笑が湧き起こった。一方、野ウサギは歯を食い縛りながら思う。

 ……出鼻をくじかれた……。いや、でもまだ大丈夫だ……! 引き取る事になったのは今出した二枚だけだし……、その二枚の4がルイスさんの手札中の4と合わさって四枚になれば、四枚揃いはいつでも除外できるってルールなんだから、実質的にルイスさんは損をしてない事になる……! ……抜き札の中に、4がなければ、だけど……。

 その間、抜き札の一枚を手元で確認したロリーナは、それをウミガメに返しながら、笑ってルイスに言った。

「フフッ! いきなりダウトだなんて、裏の裏を掻いたつもりかしら。フフフッ! それじゃッ、どうぞ、あなたの番よ?」

 ルイス・キャロルは手札に4を加えて混ぜながら、困ったように笑って言った。

「いやはや、そうですね~……。ではでは私は、これで行きましょう。7が二枚ですッ……!」

 更地のテーブル中央に伏せて出された二枚を一瞥した後、ロリーナはルイスの顔をじっと見つめた。彼の表情を涼しいと形容するなら、見つめるロリーナの表情は凍てつくような厳しさである。周囲の者にさえ耐え難いと思われる時間が過ぎた後、ロリーナは刺々しくこう言った。

「ダウトッ……!」

 息を呑みつつ、ナンチャッテウミガメはルイスの捨て札をめくった。

「……5と2だっ……! 7ではないッ……! ブラックレディーのダウトは成功ッ!」

 ウミガメはそう言って、5と2の札をルイスの方に押し戻した。聴衆たちから罵声が飛んでくる。

「この野郎ッ、嘘っぱちだッ!」

「嘘つきッ! やっぱりあいつは嘘つきなんだッ!」

「ざまあみろッ! カジノ潰しは自分のターンを潰したッ!」

 そんな中、ダウトに成功したロリーナは、ベールの向こうでほくそ笑みつつ、次のように考えていた。

 ……フフフッ……! チャールズ、私のさりげない誘導が効いたようね……! あなたは私の裏を掻こうとした。裏の裏、即ちいきなりのダウトはないと踏んでね。その結果、あなたは大きなミスを犯したのよ……! 今、あなたは7を二枚と言って、5と2を出した。この『ダウト・バウト』は、手札に一枚とか二枚で細かく持っている数字を、いかにまとめて通過させる事ができるかというゲーム……。という事は、あなたが出した5と2も、そして十中八九、宣言に使った7も、あなたは手札にそのまま細かく持っているという事……!

 彼女は自分の手札に視線を落とす。

 ……そして今……! 私の手札に2は三枚、5は二枚、7は一枚ある……! 5は「三枚ではなく二枚」、7は「二枚ではなく一枚」よッ……! という事はつまりッ、抜いた六枚の札の中に、5と7の残りが一枚ずつあるという事ッ! それで5と7は合計四枚になる!

 ロリーナ:222557

 ルイス:2577

 抜き札:57

 ……さっきあなたがダウトに失敗して、私は抜き札のAを見る事ができた……! 要するにッ、ゲームが始まったばかりのこの時点でッ、私は隠された六枚の内、既に三枚を知る事ができたという事ッ! この情報は、これから確実に私を勝利に導くわッ!

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