6.嘘つき(その6)
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ゲーム名『ダウト・バウト』
・トランプ一デック五十二枚をシャッフルし、中身がプレイヤーに分からないように六枚抜いて、並べてよけておく。残りのカードを各プレイヤーに均等に配る。
・手番のプレイヤーは手札から任意のカードを任意の枚数伏せて場に出し、『任意の』数字を一種類宣言する。
・対戦相手は手番プレイヤーが出した札に対し、『ダウト』を宣言する事ができる。ダウトが宣言された場合、手番プレイヤーがその手番に出したカードを全て表にし、手番プレイヤーの宣言の真偽を確認する。
「手番プレイヤーの宣言が偽=ダウト成功の場合」… 手番プレイヤーは、それまで場に出されたカードを全て引き取り、手札に加えなければならない。手番プレイヤーの宣言の一部が正しく一部が嘘である場合も、判定は偽である。
「手番プレイヤーの宣言が真=ダウト失敗の場合」… ダウトを宣言したプレイヤーは、それまで場に出されたカードを全て引き取り、手札に加えなければならない。また、手番プレイヤーは最初に抜いてよけた札の中から一枚を指定し、その中身を見る事ができる。
・ダウト宣言の有無及び成否に拘らず、手番は次のプレイヤーに移る事とする。
・手札の中で同じ数字が四枚揃った場合、プレイヤーは任意のタイミングでそれらのカードを公開し、ゲームから取り除く事ができる。
・プレイヤーが手札を全てなくし、且つ手番が終わった事が確定した時点で、そのプレイヤーの勝利が決定する。
ゲームは例によってベースとなる『ダウト』をロリーナが指定し、ルイス・キャロルがルールの骨子を提案。それから両者が協議した上で詳細が確定した。ダウト失敗時に相手が抜き札を見る事ができる、即ちダウトのリスクを上げるように要求したのはロリーナである。
それから法廷の中央にて準備が整えられている間、証人席に座ってゲームの展開を推測していた野ウサギは、必死で頭を巡らせた末にこう呟いた。
「……うーん……、駄目だ……。イメージが湧かない。どんな勝負になるんだ……? 毎回『好きなように』出していいって言うんじゃ、上がるのに差なんか付かない気が……」
すると彼の隣で腕組みをしていた帽子屋が、横目で嘲笑いながら言った。
「フンッ……! 所詮お前の頭ではその程度だ」
「ぐ……。なんだよ、分かったような口振りで……!」
野ウサギがこう言うと、帽子屋は間近に顔を近付けて彼に言った。
「裏切り者のお前よりは、分かっているとも! 私が今ここにカードを持ってさえいれば、陛下の勝利の前哨戦として、この場でお前を打ちのめしてやれるというものを……!」
「……持ってるけど? アタシ」
と、こう言ったのは、帽子屋の向こう側に座っていた第一の証人、白兎メアリー・アンであった。彼女は外套のポケットを探りながら、続けて言う。
「トランプだろ? ホホッ……! 持ってるよ……! 他の物は何もかも失くしたけど、最後の手慰みにね……。やるかい、お二人さん? タダで貸してやるよ。アタシも興味がある。向こうはまだ準備に時間が掛かりそうだしさ」
野ウサギと帽子屋は渋面を作りながらも、間もなく両者声を揃えて言った。
「「ああっ、やるともッ!」」
こうしてメアリーがトランプを出すと、帽子屋は引ったくるようにして手に取った。
「流石に五十二枚では時間が掛かる。10からAを抜いて、2から9の計三十二枚、そこからよけておくのも六枚ではなく四枚にする」
帽子屋はこう言いながら、手早くカードを準備する。証人席の長椅子の、野ウサギとの間にスペースを作って、この前哨戦の場が設けられた。メアリーは帽子屋の後ろから勝負を見守る。
「フンッ……! では、お前から始めるがいい」
帽子屋はこう言って、野ウサギに先攻を譲った。野ウサギはちょっと唇を引き結ぶと、自分の手札十四枚を見つめて考え始める。
……えーっと、僕の手札は……。
23344455688999
……んっ? 7がない……! 7以外の2から9。七種十四枚っ……! 7は四枚とも帽子屋に行った? もしそうなら、「四枚揃えばいつでも除外できる」っていうルールだから、あいつも七種類っていうのと同じだ。けど……、もしそうでないのならっ……、つまり、抜いてよけた札の中に7があって、帽子屋は二枚とか三枚だけ7を持っているというのならっ……! 奴は八種十四枚! 上がるのに八ターンかかる! こっちは七ターンで上がれるっ! これはっ……、勝ったかもッ……!
「……よし……。なら、行くぞ……」
野ウサギはそう言って、手札から9を三枚、伏せて場に出した。
「まず、これは9っ……!」
帽子屋は鼻で笑いながら自らの手札を引き抜く。
「7だ……!」
彼が伏せて出したカードも三枚。野ウサギは心の中でほくそ笑む。
……7を出したッ……! わざわざ出すという事は、奴はやっぱり八種十四枚だったという事……! やったぞ、勝ってやった……!
それから野ウサギは4を三枚、5を二枚と出し、一方の帽子屋は6を二枚、8を二枚と出す。お互い特にダウトは掛けず、野ウサギの残りの手札は233688の四種六枚。帽子屋は七枚である。
……カードの総枚数でもこっちが速い……! 完全に僕の勝ちだ……!
野ウサギはこのように思いながら、二枚の3の札を出す。
「ハイッ、3ッ……!」
すると帽子屋は不気味に笑いながら、手札を三枚場に出して言った。
「『7』だッ……!」
「えっ……?」
思わず呟いてから、野ウサギの顔色はみるみる青ざめた。
……な……、7っ? なんでっ? こいつ、7はさっき出したはずっ……! この三枚は嘘っ? ……あっ……、いやっ……! 「さっき言った7」の三枚が嘘なのかっ?
野ウサギはここで自分の手の中に残っている、2、6、8、8の四枚を見つめて思った。
……ひょっとして……! 奴はっ、こんな風にしてバラで残ってしまう、一枚や二枚だけの札を、早い内にまとめて「三枚」として処理したんじゃないかっ? だとするとっ……! 奴の手札はもう、二種四枚とかになってるんじゃ……! こっちは三種四枚! このままじゃ負けるっ! どうすればっ……!
「ほらどうしたッ!」帽子屋が鋭く言った。「『ダウト』をコールするのか! それともスルーして自分の手札を出すのかッ! いつまで時間を掛けているッ!」
彼の後ろからメアリー・アンも言う。
「ホホッ! 時は金なりッ! さあどうするんだいッ?」
野ウサギは歯ぎしりし、唇を噛み締めた上で、遂にこう言った。
「……ダウトだっ……! ダウトしてやるっ……! この7は『嘘』だっ!」
「フハハハハッ!」
帽子屋はすかさず高笑いして、場に積み重なったカードの上の、直前に自分が出した三枚をめくって表にした。三枚の7の札。即ち帽子屋の宣言は「真」である。
「残念だったなッ! ダウトは失敗! これにて勝負ありだッ!」
彼は場に出た他のカードと合わせて野ウサギに押し付ける。その数二十枚。野ウサギは震える手でそれらを掻き集め、手元で開いて確認する。
……何種類かは四枚揃って実質消えるけど……、それでもこれで、五種類以上……。帽子屋は残り四枚だ。う……、負けた……。
「……参りました……」
帽子屋とメアリーが声を上げて笑う。野ウサギは彼らから顔を背けて思った。
……くそぅ……。やるんじゃなかった……。あ、いやいやっ、そんな事はないぞっ……! 自分でやるって決めたんだ……! まだまだほんの少しだけど、このゲームの事が見えてきた……! ルイスさんとスペードの女王が……、命を賭けて行うゲームが……! 巧みに嘘をついて、どんどんカードを減らしていかなくちゃ駄目なんだ……! 今はそこまで頭が回らなかったけど、「抜いた札」の情報も関わってくる……!
彼は法廷の中央に目をやった。そこには小さな丸テーブルと椅子二脚が用意され、ルイス・キャロルとロリーナ・リデルが、今まさに着席しようというところだった。野ウサギは体を強張らせながら思う。
……女王と戦うのは二度目だ……。けど、前の『チキンクラップス』とは、ゲームの種類が全然違う……。嘘のつき合い、見抜き合いなんだ……! それに何より、女王は前回、本気でゲームそのものに勝とうとはしていなかった。けど、今の彼女は違う……! あの目はもう、完全にイカレてるッ……! 何がなんでもっ、ルイスさんをこの場で殺すつもりだッ……!




