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5.艱難たる生(その8)

 カッ、カッカラランッ!

 果たして彼女の出目は、4であった。周りはそれぞれ大きく溜め息をつく。ロリーナは甲羅の中のダイスとルイス・キャロルの顔を睨んだ後、声を落として言った。

「フンッ……。39点……。いいわ。ここでターン終了よ……!」

「ウニャ~……。これまた5の差で後ろに付けられた……! リセットになっちゃえば良かったのにさッ」

 チェシャ猫が言った。ルイスがヒットを逃れた事で安堵しかけていた野ウサギは、にわかに顔色を悪くする。一方、グリフォンは甲高い声で笑って言った。

「ヒャッハッハ! これで二ラウンド目終了。ウミガメが29点、野ウサギ30点、女王が39点で、カジノ潰しが44点! 次はこの順で振るんだよなッ? こっちのチームは、二人ともお前らのすぐ後ろに張ってるぜッ!」

「ニャハッ! お生憎様! ロリーナちゃんはともかく、ウミガメと野ウサギの差は1! このルールじゃ1でヒットできるのは8通りしかないもんねッ!」

 チェシャ猫たちは挑発し合っていたものの、ルイス・キャロルはここでロリーナに向かって言った。

「……ロリーナ……。君は何か、色々と勘違いをしているのでは……? 確かに私は、あ、アリスを愛していますが……、それはあくまで『子供友達』としてであって、そ、そういう意味では君やイーディスの事だって、私は同じように愛して……」

「アハハハハッ!」

 ロリーナは刺々しい大声で笑った。が、その目には烈火のような怒りが燃えている。

「嘘はほどほどにする事ねッ! あなたのあの子に対する態度と私に対する態度ッ、いったいどこが同じだというのッ? あの話にしたってそう! 『不思議の国のアリスの冒険』ッ! あなたの主役はアリスじゃないッ!」

 ルイス・キャロルは戸惑いながら言う。

「そっ、それは……、あの時既に君は大きかったし、反対にイーディスは幼な過ぎて、主役にしたら話が進まないからでして……。それにロリーナ、君だってちゃんと登場させているじゃないですか……」

「フッ! ヒインコとして? それとも最後のシーンで想像に耽る、大人の『お姉さん』としてかしらッ?」

 ロリーナは嘲笑いつつまくし立てた。

「あの本の最後の数ページ、他から浮いてるけどとっても感動的よねッ? 幼い妹の空想と純粋さに思いを馳せ、将来を想像して幸せを祈るお姉さん! フッ! わざとらしいったらないわ! あれは『お姉さん』なんかじゃあない! 二人っきりで野原で睦まじくしているあの人物はッ! 姉ではなくッ、チャールズッ! あなた自身の事じゃないのッ!」

 ルイス・キャロルの表情は青ざめ、他の者たちは唖然としていた。ロリーナは更に言う。

「いい加減とぼけるのはやめる事ね! あなたにとってアリスは特別! あなたはアリスを、愛しているッ! 一人の女としてッ! 私に名誉がどうのなんて嘘よ! 本当はあなたはッ……! あの子にッ、求婚したんじゃなくてッ? それを父か母に断られて、うちに近寄れなくなったんじゃなくてッ?」

「そっ、そんなロリーナっ……! ごっ、誤解ですっ! 求婚だなんてッ……」

 ルイス・キャロルは慌てて否定したが、ロリーナは彼を睨み、声を押し殺すようにして言った。

「……全部あの子のせいよ……。あの子は蛇……! あの子さえいなければッ……! 今までだって、ずっとそうだった……。私の欲しい物は、あの子が先に取っていく。私の希望は、みんなあの子が奪っていく……! あの子は自由で、媚びるのだけは上手くて、何かにつけては長女の私ばかり縛られ、顔をしかめて苦しみに耐えている……! 私のささやかな幸せはッ……、全部あの子が壊していく!」

 彼女はここで、再び刺々しい大声で言った。

「だから今度はッ、私が壊してやるのッ! あなたとアリスが神様気取りで創り上げたッ、この不合理極まりない(よこしま)な世界をねッ!」

 ルイス・キャロルは悲痛に顔を歪めていたが、ここでグリフォンが仰天して言った。

「なっ……! なんだってっ? っ『創り上げた』ッ? ひょっとしてっ、今まで聞き流してたが……! この男がルイスとか呼ばれてるのはっ……! あの『造物主』ッ、ルイス・キャロルの事だって言うのかっ?」

「ニャハハッ! その通りッ♪」チェシャ猫がいたずらっぽく言う。「あんたたち頭が高いよッ! ここにおわすは世界を創造せし二柱が一、その名もルイス・キャロル様でござぁいッ!」

 幻獣たちは唖然とし、野ウサギは改めてその身を緊張させた。ルイス自身は少しだけ微笑んだが、一方でロリーナは鼻で笑って言った。

「フッ! あなたたち、畏まる事なんてないわ。彼とアリスのおかげで、あなたたちは今まで散々苦痛を味わってきたのよ?」

 ナンチャッテウミガメは呻くように言う。

「ムゥ……。何百年も前に聞いたはずの話が、今日こんなところで……! 頭がどうにかなってしまいそうだっ……! それでは先刻から言っておるアリスというのが、神の片割れ、『女神』のアリス……!」

 ロリーナは忌々しそうに言う。

「フッ……! ここの年寄りたちに言わせればね……! この世界が生まれたのは、本当はたった三年前……。彼の喋った物語を、私の妹、あなたたちも知ってるあのアリスが、自分の魂を使って顕現させた……。私がすぐそばで見ていたのにも気付かず、二人だけで目配せし合ってね……! それがこのワンダーランド……! この呪われた世界なのよ……!」

 ルイス・キャロルは悲しげに言った。

「ロリーナ……、どうしてそんな言い方を……。ここは私たちの、思い出の世界でしょうッ……?」

「アッハハハハッ!」

 耳を突くような甲高い声で、ロリーナは笑った。

「『私たち』ですってッ? 『私たち』って、いったい誰と誰の事かしら? 私は違う……! イーディスはまだしも、私は違う……! 私の思い出じゃあないわ……! 私にとってこの世界は、単なる屈辱的な『記憶』、そして不公平さの象徴でしかないわッ……!」

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