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5.艱難たる生(その7)

「やった……!」

 野ウサギが声を上げた。

「女王は点数ゼロッ……! チームで考えても、こっちが完全に先行した……! 勝てるッ……! 勝てますよッ……!」

 浮かれた表情を向ける野ウサギに、ルイスもにっこりと笑顔を返した。チェシャ猫は口の両端を目元まで持ち上げて笑う。

「ニャハハ~ッ! さっきロリーナちゃんが34点から更に振らなかったら、逆にルイスちゃんが5の差で狙われてたんだよ? あたしの挑発が効いたのなんのってッ!」

「ムゥウッ……! お主、そこまで計算してっ……?」

 ナンチャッテウミガメが打ちのめされたように言ったが、そんな彼にグリフォンが怒鳴った。

「こんな落ち着きのねえ奴がそこまで考えるわけねえだろッ! 騙されるなッ! ええい忌々しいッ!」

「ニャハハハッ! どう思おうとご自由に!」

 ルイスチーム三名の共に笑う声が広間に響いた。が、すぐに彼らは、一様に口をつぐむ事となった。彼らの笑い声に混じって、別の者が笑う声が聞こえてきたからである。

「……フフ……、フフフフッ……」

 声の主はロリーナであった。彼女はルイスたちが黙った後も、怪しく笑い続けて、それからこう言った。

「フフッ……。そう……、突き放すのね……。あなたはいつも私を突き放す……。そうよね、ドッドソンさん? そうして後ろを振り返りもせず、さっさと他人から離れていくのよね?」

 他の者たちは戸惑いの色を隠せない。中でもルイス・キャロルは、どこか決まり悪そうにして言った。

「ロ、ロリーナ……、いったい何を……」

 ロリーナはダイスを手に取り、無造作に振った。出目は8。甲羅からダイスを取りつつ、彼女はルイスに言う。

「二年ぶり……。いいえ、二年半よね……?」

 彼女はそこで再びダイスを振った。出目は4。周りの者たちは訝しむ。ルイス・キャロルが動かないため、野ウサギは慌ててロリーナのポイントをチップで数えた。ロリーナは三投目を振り、出目は9で計21点となる。尚もダイスを取りながら、ロリーナはルイスに言う。

「二年半ぶりの再会だわ……! 実に二年半もの間、あなたはうちの敷居を跨がなかった……! 私に会おうともしなかった……!」

 振った結果は二度目の9。これでターンポイント30点となるが、彼女はトータルポイント30点の野ウサギに気付いているのかいないのか、更にダイスを手にする。動揺の色を隠せないウミガメやグリフォンをよそに、ロリーナは喋りながらダイスを振った。

「それまであんなに親しくしてたのにッ! それを突然ッ、まるでそれまでの日々を否定するみたいにッ!」

 感情的な大声と共に放たれたダイスの出目は、5となった。他の者は息もつけずにいたところだが、ルイス・キャロルはここで辛そうに言った。

「……ロリーナ……。確かに私は、この二年半というもの、君にもアリスにも会わないようにしていました。けれど……、だからと言って、私が君たちとの思い出を、否定するわけがないじゃありませんか……」

 ここでチェシャ猫が、好奇の視線でルイスとロリーナを見比べて言った。

「ええっ? なになに? ひょっとして痴話喧嘩?」

 ロリーナは黙ってルイスを睨みつけている。ウミガメもまた好奇の表情を浮かべ、野ウサギ、グリフォンは眉間に皺を寄せて訝しんでいる。ルイス・キャロルは深い溜め息をつくと、一層表情を歪めて、低い声でロリーナに言った。

「……私がリデル家と疎遠になったのには……、理由があるのです。ロリーナ、君の耳には入れないようにしていたのですが……。私は、君のお母様から聞かされたのです。なんでも……、私が、君に言い寄っているという噂が持ち上がっていると……。分かるでしょう? 未婚の女性に、そのような噂が立っては婦人の名誉に関わります。君は十六歳、アリスだってもう十三です。ですから私はお母様と話し合って……、苦しみながらも、家族のみんなときっぱり交流を断つ事にしたのです」

 ロリーナは一瞬驚いた表情を見せた。が、間もなく視線を落とし、それから不気味な笑みを浮かべた。

「……フッ……。フフフッ……。フフフフフッ……!」

 彼女は笑い声を漏らした後、声高にこう言い放った。

「馬鹿ねッ……! それならなんの問題もないじゃないのッ……! だってそうでしょう? だって……! 私はあなたをッ、愛しているんだからッ!」

 一同が様々に色めき立つ中、ロリーナは更に言った。

「ドッドソンさんッ……、いいえ、チャールズッ……! あなただって気付いてたでしょう? 私の気持ちにッ! 私の愛にッ! 長年素知らぬ振りをしながらも、本当はちゃんと……!」

 ルイス・キャロルは顔をしかめつつ、こう答えるのみであった。

「……ロリーナ……。済みません。私は、君の気持ちには答えられないのです……」

 と、ここでロリーナは勢いよく甲羅の中に手を入れ、ダイスを掴みつつヒステリックに言った。

「そうよねッ! そうでしょうともッ! あなたはこの私じゃなくあの子をッ……! アリスを愛しているんだからッ!」

 グリフォンとウミガメが慌てて言う。

「っおい女王っ! まだ振るってのかっ?」

「35点だぞっ……! お主の理屈じゃあっ……、ここからは不利な賭けに入るっ! 流れも悪くなったというのにッ!」

 答える代わりに、ロリーナはこう言った。

「私は勝つ……! あの子は絶対に解放しないッ……! 私が永遠に、闇の中に閉じ込めてやるのよッ!」

 ルイスとチェシャ猫は歯を食い縛り、野ウサギは声を震わせて言う。

「ルイスさんは44点っ……。もしっ、もし女王が9を出したらっ……! ヒットされて振り出しに戻ってしまうッ!」

 スペードの女王はダイスを握りしめた拳に向かって大きく息を吐くと、甲羅を目掛けて渾身の一投を放った。

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