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5.艱難たる生(その6)

「ではでは私の番ですね。行きますよ~……! ハイッ!」

 ルイスはそう言って、ダイスを甲羅へと投げ入れた。最初の出目は6。ダイスを再び手にしながら、彼は言う。

「どんどん行きましょう。ハイッ! 6足す5で11! ハイッ! 11足す8で19! ハイッ! おッ、19足す9で28! お次は――」

 チェシャ猫とロリーナ、そしてルイス・キャロルは微笑みを浮かべているが、その他の三名の顔は次第に青くなっていく。野ウサギは慌てふためいて言った。

「ちょっとっ……! ルイスさんっ、いったいどこまで……」

 しかしその時、ようやくルイスの動きが止まった。

「あ……。7ですね」

 彼は残念そうに言ったが、野ウサギは大きく胸を撫で下ろした。ルイスは微笑みながら一同に言う。

「計7の目が出た時は、ターンポイントは確保された上で強制終了。この7をそのまま32に足しまして、トータルポイント39点で交代です」

「……この野郎……、六回も振りやがった……! どうなってやがる……!」

 グリフォンが忌々しそうに言った。けれどもルイスは笑って言う。

「フフッ! 確かに六回振れるのは滅多にないでしょうね! ですが悪しからず。たまたま幸運が最初に訪れただけでしょう」

 ウミガメは唸るように言う。

「ムゥ……。使っているのがわしらのダイスじゃあ、文句の付けようもない……。流れに乗ったというわけか……、ハァ……」

「フッ……! フフフフッ!」

と、ここでロリーナは皮肉っぽく笑って言った。

「やれやれ、まったく。あなたたち、てんでピントがずれてるのね。もっと頭を使いなさい。このゲーム……、どこまで振ってどこで止めるのがいいのかは、『数学的な』判断基準があるのよ……! ね、ドッドソンさん?」

 ルイス・キャロルは肩をすくめ、他の者たちは動揺の色を見せた。続けてロリーナは得意気に説明する。

「ダイス二個の出目36通り中で、得点できる出目は30通り。全ての得点を足すと、合計210点になるわ。つまり210割る30で、得点できる場合は、平均7点得る事ができる……」

 野ウサギやウミガメは頭を捻っているが、ロリーナは続ける。

「即ち、プレイヤーの任意の時点のターンポイントをX点とすると、このゲームでダイスを振るという行為は、X点を賭けてXプラス7点を得られるか、それともリセット目を振ってX点失うかというギャンブルになるのよッ……! 得点の確率は30/36で、倍率は(X+7)/X。これを掛け合わせて1より上か下かを考えると……! 基準となるのは35点! 要するにッ、ターンポイント35点未満であれば、振り続けた方が得になるという事よッ!」

 ルイス以外の表情に、多かれ少なかれ驚きが浮かぶ。グリフォンは甲高い声で言った。

「35点っ……! そんなにッ? 直感じゃあ信じ難いが……。それならさっきウミガメは、勿体ねえところで止めちまったってわけかッ!」

 と、ここでルイス・キャロルは拍手をしてロリーナに言った。

「フフフッ! お見事! 数学的に完璧に正しい答えです!」

 ロリーナも笑ってルイスに言う。

「フフッ! 教えてくれたのはあなたよ、ドッドソン先生? 家庭教師のミス・プリケットより前に、初歩の数学はあなたが私に教えてくれた……」

 彼女は更に言葉を継ごうとしていたが、ここでチェシャ猫が遮った。

「ニャハハッ! あたしに言わせれば、そんなの所詮は計算! 卵が孵る前にニワトリ数えてるってもんだね! スペードの女王様ッ、博打はそんなに甘くないからッ! ほらッ! さっさと振った振った!」

 ロリーナは猫を睨みながらも、ダイスを手に取り、無造作にそれを振った。出目は9。続けて二投目。出目は8。それから彼女はなんと三投目四投目にも8と9を振った。ナンチャッテウミガメが笑って言う。

「ムハハッ! 流石はスペードの女王! 大きい目を立て続けに! えー、これで、ターンポイント……」

「34点だよッ」チェシャ猫が小馬鹿にして言った。「で? 女王様、どうするの? さっきの35点とやらに1点足りないねえ♪ きっちり数学の証明をするの? それとも二番手に付けたからって、ほどほどで満足しちゃうのかなッ?」

 猫とルイスはほくそ笑んだものの、他の者たちの表情は曇った。しかし間もなくロリーナは不敵に微笑んで言った。

「フフッ……! 下らない挑発ね……! でもいいわ、付き合ってあげる……。あえて合理を捨てる必要はないんだから……!」

 一同は息を呑む。そしてロリーナは五投目を振った。

 カッ、カラランッ!

「フッフフフッ!」

 唖然とする一同に対し、ロリーナは一人無邪気に笑った。

「10ねッ! これでターンポイント44点! それじゃ、ここでターン終了するわ♪」

 チェシャ猫と野ウサギは地団駄踏んで悔しがり、グリフォンとウミガメはそれを嘲笑った。一方、ルイス・キャロルはポイントを表すためのチップを銘々に差し出しながら、明るく笑ってこう言ったのである。

「フフッ! ではでは第二ラウンドと行きましょうか! この時点で点数の低い方からスタートで……、おっと、一ラウンド目と変わりませんね。でもでも、面白くなるのはここからですよ~!」

 野ウサギは唇を噛み締めた。一ラウンド目の結果は、野ウサギ0点、ウミガメ30点、ルイス39点、ロリーナ44点。彼だけが圧倒的に出遅れている。

「……うう……。まるで周回遅れ……。やっぱり兎にレースは向いてないんだ……」

などと、野ウサギは嘆く。チェシャ猫は苛立って舌打ちをしたが、ルイスは野ウサギの手にダイスを持たせて言った。

「ほらほら、気持ちを切り換えて! 私はこの状況は悪くないと思ってますよ。ま、ちょっとだけ頑張ってみてくださいッ。そうすれば私の考えも分かるでしょう」

 野ウサギはルイスの状況分析に半信半疑ながらも、ダイスを振った。

「……6……。っもちろんまだ振るっ……! ……9……。これで15点……。ううっ……! せめてこれだけでも確保したい気もするけど……。いやっ……、駄目だ……! こんな所で留まったって意味がない……!」

 野ウサギは独りで言いながら、更にダイスを振る。

「ニャハッ! 10だッ! いいじゃんいいじゃん!」

 チェシャ猫ははしゃいで言ったが、野ウサギの表情はかえって苦しくなったようだ。

「っこれで、計25点ッ……! くっ……! ううっ……、35点未満なら振った方が得って話だけど……。うううっ、ルイスさんっ、僕はどうすればっ……!」

 野ウサギがすがるようにルイスに尋ねると、ルイス・キャロルは笑って答えた。

「フフッ! 絶好の展開ですよ、野ウサギさん。今考慮すべきべきは35点云々ではなく、他のプレイヤーのポイントです……!」

 野ウサギははっとして相手チームの方を見た。三名とも苦い表情をする中で、特にウミガメの顔面はほとんど蒼白と言っていいほどである。

「……そうかっ……! ナンチャッテウミガメの点数は30……! 僕が次、5を出せば……、『ヒット』のルールッ! 彼を振り出しに戻せるんだっ……!」

 野ウサギはそう言うとダイスを掴み、意を決して甲羅の中に投げ入れた。

「……くっ……!」野ウサギはうなだれて言った。「うう……。6だ……。合計31……。追い越してしまいましたよ……。それも、こんなにちょこっと抜かしただけじゃあ、また頭を悩ませ……」

「フッ……!」

「ニャハハハハッ!」

 ルイスとチェシャ猫は同時に噴き出した。戸惑う野ウサギを見て、チェシャ猫は一層笑って言った。

「ニャハハッ! あんた、よく見て! よく思い出してッ! 点数足してく時は、出目は両方使わなくてもいいの! サイコロ片方の目だけ足す事にしてもいいんだ! つまり~……」

 野ウサギは目を見張って甲羅の中身を見た。出目の合計は6。その内訳は、5の目と1の目である。野ウサギは顔を上げて言う。

「5だっ! そうかッ、ならっ……! この5だけをターンポイント25に足してッ、30点ッ……! これでターン終了! ウミガメをヒットだッ!」

「ムゥウッ……! 兎に蹴落とされるなどとッ……!」

 ナンチャッテウミガメはそう言って、持ち点30点分のチップの山を突き崩した。それから彼はすぐにダイスを手に取り、このラウンドの二番手として振り始める。

 10、8、6、5と続けて出したところで、ウミガメはにわかにうろたえて言った。

「ムムゥっ……! いかん……! 下がり調子だ……! リセットされない内にっ、ここでステイッ! 29点でターン終了だっ……!」

 野ウサギは悔しそうに声を漏らす。

「……くっ……。結局一ターンで1点差まで追い上げられた……」

 しかし彼をよそに、ルイス・キャロルはダイスを取りつつ、こんな風に言ったのである。

「フフフフフッ……! 三番手は私……。トータルポイントは39……。トップのロリーナとは……、なるほど、5点差ですねッ」

 これを聞いて、野ウサギは跳び上がるようにして言った。

「5点ッ! さっきの僕の状況と同じだっ……! という事は……」

 ルイス・キャロルは笑って言う。

「フフッ! そうです。その5点を作るのはサイコロ一個でも二個でもいい……! 出目の36通りを6かける6の表にして思い浮かべれば分かりやすいですが、このゲームで5を作れる確率は36分の13ッ……! 実に3分の1以上! 更には二投目として出る可能性もある……!」

「ニャハハッ! 面白いねッ! つまりは最初っから、こういう展開見越したルールだったんだッ!」

 チェシャ猫が大声で言う一方、ロリーナはもうずっと前から黙って表情を険しくさせている。ルイス・キャロルは言った。

「それでは行きますッ……! ハイッ!」

 ダイスは小気味良い音を立てて甲羅の中を転がり、やがて静止して二つの目をプレイヤーたちに披露した。

「5-4の9ッ! って事は~……?」

 チェシャ猫が真っ先に満面の笑みで言った。ルイス・キャロルも微笑んで言う。

「5のみ採用してターン終了! トータル44点でロリーナをヒットですッ!」

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