3.人殺しの女王(その9)
「フフフッ……! やっぱりせっかちでしたね!」
ルイス・キャロルは猫にそう言うと、体を橋の出口の方に向けて更に言った。
「それでは私は先に進みますが……、カード式にした事ですし、もうさっきみたいに上半身だけ付いてくるのは、なしにしてくださいよ?」
チェシャ猫は不機嫌そうにカードを振って言う。
「ニャア? あんた五軒進むんでしょ? こんな小さな字と絵じゃ、見えないじゃない!」
しかしルイスは笑って言った。
「カードを開いた後、種類を大声で叫べばいいだけですよ! ご自分で叫ぶのが嫌なら、ギャラリーの方々が言ってくれるでしょう。ではではお先に!」
舌打ちする猫をよそに、ルイスは小走りで先へ進んだ。パーで勝ったので一軒、かつその位置に賭場があるため、おまけが付いて更に二軒。そしてそこにも賭場があるので、もう二軒追加で進み、合計五軒分の前進である。
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「お前さんッ! お見事だよッ! もう次で上がれるかもしれないねッ!」
ルイスが目的地に辿り着いて振り返るや否や、料理番が彼の顔の間近で息を切らしながら言った。彼女は真っ先にルイスに付いてきたらしい。その後ろにはカエルや他の何割かのギャラリーが、わらわらと歩いてきていた。ルイスは料理番に言う。
「フフッ……! ありがとうございます。けれど油断は禁物。カップが唇に運ばれるまでの間にも、多くのしくじりがあるものです」
料理番は気を引き締めて、ここからの展開を予想する。
……この人はこんな風に言ってるけど……、次、グーかチョキで勝てばおまけが付いて、もう上がれるのは、事実なんだ……! 猫の奴は手堅く行くなら、グーを出すしかない……。この人はそれを素直に予想するなら、パーを出して、一軒だけ前進か……。猫がそれをもし予測するならチョキを出すから、この人はグーを出すべきだけど……。もし、もしも猫がパーで勝っちまうと、またあいつに並ばれる事になる……! ううう悩ましい……! やっぱり、ここからが長くなるのかも……!
と、ここでルイス・キャロルが声を大きくして言った。
「皆さん! 真ん中は開けてください! 猫さんが見えるように……。猫さんっ! それではよろしいですかっ? 第十二回戦! 行きますよ~!」
通路の向こうのチェシャ猫は片手を上げて制するようにするようにした。一方で、ルイスは既に、右手でカードを一枚持ち上げ、左手の二枚は下ろし気味にしている。そして間もなく、猫も同じ体勢になると、不機嫌そうに怒鳴った。
「準備できたッ! 行くよッ!」
「「ジャン、ケン、ポンッ!」」
両者は掛け声の後、右手のカードを高く上げて開いた。
「パーですッ! 私の手はパー!」
ルイスが大声で向こうの猫に言った。猫は歯を食い縛りながら息をつく。同時に彼女の周りがどよめいた。猫はルイスに向かって怒鳴って言う。
「あたしもパーだよッ! アイコだッ!」
料理番は体を震わせた。……危ない……! あの女、パーで狙ってた……! 守りに入らなかった……! 畜生……。ここへ来て、賭けたものの大きさの差が効いてるのかも……! あいつはせいぜい、この人の召使いになるだけなんだから……!
彼女がそんな風に思っている間に、ルイスと猫は再びカードを選んで持ち上げた。
「じゃあ行きますよ~!」
ルイスが大声で猫に言う。料理番は息を呑む。
「「アイ、コデ、ショッ!」」
ルイス・キャロルの掲げた札は、先程と同じく、パー。
「パー対、チョキだっ……!」
ギャラリーの中で、両者のカードを読み取れる者が叫んだようだった。周囲が一斉にざわめく。ルイス・キャロルは唇を引き結んだ。
「ニャハハハッ!」猫は狂喜した。「ニャハハッ! やったッ! 読み切ったよ!」
彼女はそう言うと軽やかにスキップをして通路を進んだ。
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料理番はたまらず猫に向かって声を上げる。
「ハッ! お生憎様ッ! 賭場んとこ一軒跳び越しちゃって、損した気分だろッ?」
「黙れ負け犬ッ!」
チェシャ猫は瞳孔を開いて料理番を恫喝した。
「あたしは勝つ……! あたし自身の力で……! あんたみたいな奴隷根性の女とは違うんだから!」
料理番は涙ぐみながら唇を噛んだ。猫は次いでルイスを睨みつけて言う。
「あんたも、忘れちゃいないよね? 負けた方が勝った方の言いなりになる……! 最後はハラキリ、肉一ポンドさ!」
ルイス・キャロルはチェシャ猫を見据えて言う。
「……協力者になってもらう。私が望むのはそれだけですよ」
「同じ事さッ! 行くよッ!」
十四戦目であった。勝負はグー対グーの引き分け。
持ち越されて十五戦目。チェシャ猫は連続となるグーを出す。対するルイス・キャロルの手は、パー。僅かばかり前進する。
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十六戦目。ルイスの手はグー。一方、猫はこの時、パーを出していた。ルイス・キャロル痛恨の敗北。チェシャ猫に三軒分の前進を許し、一軒差まで迫られる事となったのである。
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