7. 昌と愁一
はぁ~あ… しかし本当にムカつく… 愁一のヤロー。
あいつに仕返しするまでは家庭教師を続けさせてやる! このままやられっぱなしじゃ納得できない。
フラれた江藤君に雰囲気似てるし、それに一番言われたくない言葉をズケズケ言いやがるし…
ビッチって言うな―!! マジむかつく…
それにボッチでモブだったくせにちょっとイメチェンしたぐらいでいい気になって…
いきなりイケメンになれたとでも思ってるワケ? 自惚れてるんじゃないわよ!
あんたなんかね、どんなに頑張ってもイケメンになんかに…
……………凄いイケメンになったね… 見て普通にびっくりした…
でもおかげで少し気分が楽になった。
最初に見た暗い雰囲気で物静かに喋る様子… 本当に江藤君に似ていた…
マジやばかった… フラれた人のそっくりさんが家庭教師なんてどんな嫌がらせ?
でもイメチェンしてくれたおかげで見た目はだいぶ違うようになったし…
それに江藤君はあんな軽薄な喋り方しないし…
やっぱり江藤君がいい… あの根暗な…ううん、物静かな雰囲気が大好き。
愁一がイメチェンで雰囲気変えてくれてホントよかった。
初めのままの雰囲気でずっと傍で居られたら… ヤバい、惚れちゃう…
愁一になんて絶対惚れたくない!
でも何で私ってあの雰囲気に弱いんだろう… 私ってやっぱりボッチ好き?
イケメンのチャラ男は大っ嫌いだし… もともとそんなにイケメン好きな訳でも無いし。
そんなことより愁一への復讐だ。
これからそれを考えないと… ヒントは見つけちゃったしね…
さっきリビングで見た愁一の様子… あいつ絶体お姉に惚れてるな…
この辺りからあいつの弱みを握ってやる。
今までの数々の無礼な態度にキッチリ詫びをいれさせてやるからね…
…………でも、
愁一にクソ可愛いって言われてちょっとドキッとしちゃったな… クソはホントに余計だけど…
可愛いなんて今までいくらでも男の子から言われてきたけど…
なんだか江藤君に言われてるみたいな気がして… エヘヘッ…
はぁ~あ… 江藤君に言われたいな…
昌、お前の目ってクリッとしてて大きくて超カワイイよ!…
そ、そんな事言われたら… キャアアアアアアアア~~~! だめ… 異次元に行っちゃいそう。
でも、愁一もよく言えるよね… こんな恥かしいこと… ボッチの癖に。 やっぱあいつはバカだ。
昌はベッドに寝そべってVS愁一用の策を練っていた。
このままで終わらせるか! 絶対復讐してやる!
この言葉をスローガンに昌は脳機能を全力で酷使する。
今使っている脳機能を勉強に向ければ成績など飛躍的に上昇し、結果として愁一という家庭教師もいらなくなるので愁一を辞めさせることもできるという事実に昌は全く気付いていなかった。
………さて、ちょっくら見て見ようかな…
昌はそう言ってパソコンの電源を入れる。パソコンが立ち上がると直ぐにあるサイトに入る。
パソコンの画面に出てきたのは小説の投稿サイト。愁一も利用しているサイトだ。
慣れた手つきで操作を進めて行きお気に入りをチェックする。
あ、更新されてる… どれどれ…
昌も愁一同様このサイトが大好きであった。
元々は大好きな江藤君の趣味に合わせようと読み始めた小説… だが、読んでいるうちにどっぷりハマった。最初は本屋で推理モノや恋愛モノを買って読んでいたが、無料で読めるこのサイトを見付けて最近ではここで小説を読むのが日課となっている。
あはははッ… マジウケる。 いつも思うけどこの作者ってホントにギャグのセンスもってる。
凄く勉強になるな…
昌はそう言って小説を読み楽しんでいたが、何かを思い出したように急にサイト内で何かを検索しだした。
ふむふむ… なるほど。
何かを確認すると真面目な表情になりそれから暫くパソコンとにらめっこしていた。
まてよ… 愁一か… 使えるかも。
昌は悪戯っぽい表情をして楽しそうに作業を開始する。
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ひなのさんとの会話を終えてようやく碓井家から出てきた愁一、げっそりとやつれている。
ひなのさんと大学の話で盛り上がったのはいいが、あんなに近くで喋ることになるなんて思わなかった。
ひなのさんのエンジェルスマイルを見ながら、まったりお茶を飲めたらそれだけで幸せって思ってたのに何であんなに俺のことに食いついて来たんだろう…
言っておくが外見は一日で変えられるが、内面を一日で変えるなんて出来るわけがない。
俺の中身はボッチでモブのままである。話が盛り上がってくるとひなのさんはどんどん俺に近寄って来るし…
最後の方なんか俺の真横にひなのさんの顔があったな。
おかしい… 最初は対面にいたはずなのに、いつの間に横に来たんだ?
でもやっぱり美人だな~ 下僕でいいから雇ってくれないかな…
あんな人を彼女にするには… まずこの性質を何とかしないとな。
高校時代好き勝手し過ぎた。マジで個人的に誰かと遊んだことなんて一度もねーし…
おかげで集団の中に入るのが怖く思うようになっちゃった。
高校のクラスみたいにボッチでも過ごせる所だといいが、サークルとか仲良しの集まりにボッチが参加とか意味わかんねーよな。
3年になって実験とかの授業でボッチもやってられねーし…
人生がかかって来るんで俺もそろそろ脱ボッチでもして友達作ろうかな…
ひなのさんの友達で薬学部の先輩を紹介してもらえるからそれを契機に出来るだけ変えて行こうか…
それからなんだかんだと考えながら家に帰るため駅に入りホームで電車を待っていた。
もう夕方から夜にかかる時間であるが、ホームには制服姿の高校生も結構いる。
部活や塾帰りの子たちかな… そう言えば俺もつい数ヵ月前は制服を着た高校生だったな。
何だか懐かしくてその子たちをぼんやり眺めていると制服姿の女の子2人と何となく目が合った。
すると向こうは2人ともこちらを見ながら楽しそうに喋っている。
おかしいな… なんか変な感じが…
以前なら俺と目が合ったところですぐに視線は違う方へ移る。なんせモブなんで…
どうしていつまでも俺の方を見る?
後ろを確認しても誰もいない。後ろにイケメンでもいればそいつを見てるんだろうが、ここには俺しかいない。もう一度確認してもまだこっちを見ている。それにこそこそ2人で内緒話でもしているような感じ…
はっきり言って最近こういうことが多い。もしかしたら自意識過剰なのかもしれないが…
俺としては出来れば周囲から見られたくない。ボッチでモブと言うと世間では悲しい人達と思われがちだが、やっている本人は案外楽で楽しく生きている。
他人から注目されないんで基本好きなことができる。服装も気にしないで済むし、見たくもないドラマを見てみんなと話題を合わせる必要もない。結構悠々自適に暮らせて楽なのである。
そんな俺たちボッチが最も苦手とするのが他人から注目を集めること。
大勢から見られるとそれだけでイジメられている気分になる。
周囲から視線を浴びる原因は多分イメチェンしたことが原因だろうと言うことは分かっている。
出来れば早く元のボッチスタイルに戻りたいが、昌の手前今は戻ることもできない。
昌への対応が落ち着いたら速攻で元の姿に戻ろう…
俺はニヤニヤしながらこっちを見て喋っている女子高生を見て何となくそう思った。