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5. ひなのさん



リビングの扉を開けると… そこには女神がいた。


「あら、………安角さん?」


ひなのさんは俺を見て目を丸くしていた。

ヤバい… 今の俺は対アキラ用に変身してたんだっけ… 忘れてた。


「…ど、どうしたの? なんか凄く変わったね…」

「え、ええ… 大学に入ったんでちょっとイメチェンを…と思いまして…」


昌をギャフンと言わすためだけにここまでやったなんて恥ずかしくて言えねー…


「でも、… 凄く似合ってるよ。いい感じだね」

「そ、そうですか?」


ひなのさんになんて言われるか心配だったけど、案外受けは良かったみたい…


「もう昌の家庭教師は終わったの?」

「はい、今終わったところです」


優しそうな顔で微笑みながら喋ってくるひなのさん…

眩しい… 眩しすぎる。 ボッチ族の俺達には眩しすぎるその笑顔…


ボッチだった俺が今までこんな美人とこんなに近くで… まして二人で喋るなんてありえない。

俺は瞬間接着剤で貼り付けられてそこにセメントを流し込まれたように固まりそうになった。



「安角さん、飲み物は何がいいですか?」

「すいません、珈琲を頂けますか…」


「はい、それではちょっと待っててくださいね… クスッ…」


ひなのさんは微笑みながらそう言ってキッチンの方へと向かった。

美しい… 美しすぎる… 見てるだけで幸せになれる。


気品のあるベージュのワンピース姿で静々と歩いていくひなのさん… ええなぁ~。

思わずポチになってひなのさんに付いて行きたかったが我慢した。


やがてひなのさんは戻ってきてテーブルの上に「どうぞ」と言って珈琲を静かに置いた。

ひなのさんは自分で淹れてきた紅茶をニコニコしながら少しだけ飲むと、


「昌は真面目にやってますか?」

そう聞いて来た。


「正直ちょっと言うこと聞いてくれない所もありますが、真面目にやってくれてますよ」

「本当に? なら良かった…」


そう言って笑顔になるひなのさん… かわゆい。


「あの子ね… 私の言うことも聞かないし、最近なんか全部無視されちゃってて…」

「そうなんですか…」


何となくわかる。あいつならそーだろ…


「そう言えばひなのさんは英文ですよね… 俺よりも英語を教えるのは得意じゃ…」


俺がそう言いかけると、ひなのさんはクスクス笑いながら、


「私が教えてあの子が素直に聞くと思います?…」


そう言ってやれやれと言った表情で笑っていた。



「それよりも安角君、サークルとか入るの?」

「いえ… 全く考えてません…」


ひなのさんは天使のような笑顔で… 俺の心をエグってきた。

ボッチにサークルとか… 無理でしょ? 死刑執行台に自ら笑顔で登るようなもんだ。

どう考えても自殺行為にしか思えない。


「私はテニスやってるんだ。安角君も一度遊びにおいでよ」

「………はい、そのうちに…」


やはり住む世界が違う…


きっとひなのさんみたいな美人はイケメンに囲まれて楽しくリア充テニスなんぞをやっているのだろう… おれなんてカーテン閉め切った暗い部屋でパソコン使ってネット小説読んで幸せを感じている…

………ヤバい、考えるのやめよう… 死にたくなってきた。



「でも安角君… ホントに変わったね。 凄くかっこよくなった…立派なイケメンだね」


ひなのさんは俺の顔をまじまじと見つめながらそう言って微笑んでいる。

そう言ってもらえると嬉しいが、その言葉を鵜呑みにするほど俺もめでたくはない。


「ねえ、今度大学で一緒にお昼しない?」

…はい? 今何とおっしゃいました?


「い、いいんですか?」

「うん、折角一緒の大学なんだし… そうだ! そう言えば薬学部の先輩紹介してあげる」


「えっ! 知り合いいるんですか?」

「テニスサークルに一人いるよ。私と仲がいい女の子」


「それは有難いです。是非お願いします」


思ってもいないところで知り合いができそうだ。これは本当に助かる。

大学のテストをクリアするには過去問や教授の情報がどうしても必要となるのだが、ご存じボッチの俺ではその情報が得られない。それに同じ薬学の先輩であればなおのことその存在はこの先重要となる。


ひなのさん… あなたはやっぱり僕の女神だ。

僕は喜んで奴隷になります… いえ、奴隷にしてください、その方が興奮できます… 別の意味で。



「だったらラインチェックしててね。都合ついたら連絡するからね」

「はい、お願いします」


よしよし… 思わぬところで大収穫。ひなのさんともご飯一緒に食べれるし、先輩紹介してもらえるし… ひなのさんを彼女になんてどうせ無理だろうけど仲良くなれるだけでも十分だ。


そんな感じでひなのさんと大学の話で盛り上がっていると、足音がしてリビングの扉がパタンと開いて昌が入ってきた。


「あれ、まだいたの? 愁一…」


一体何してんの?… と言った感じで昌が不思議そうに見ている。


「昌、なに呼び捨てにしてるの…失礼でしょ。 しかも名前で…」

「別にいいじゃん… 普通だよ」


ひなのさんは叱るように昌に言ったが、本人は何も悪びれる様子もない。


「ひなのさん… 別に気にしないでください。僕も昌って呼び捨てにしてますし…」


本当に気にしないでください…

何せ今まではボッチだったもんで名前どころか名字さえ呼んでもらったことないんで。


「ほら、本人も言ってるでしょ」

「でもあなたより年上の人だし、それに先生でもあるのよ」


「大丈夫だって… ね、愁一」


大丈夫じゃねーよ! お前に言われるとなんか妙にイラつくんだけど…

仕方がないんでハハハっと適当に笑っていたら何故かひなのさんがクスッ…っと笑い始めた。


そして、「だったら私も愁一って呼ぼうかしら…」と言った。


………あの、…それはそれで困るんですけど… 


ひなのさんに名前で呼ばれたら緊張して固まってしまう… それになんか背中がゾクゾクする…

いきなりそんな事言われた俺はあたふたとして落ち着かなくなった。


「だめかな?」


そう言って上目遣いでひなのさんは俺のことを見る…

ダメな訳ないんだけど、その前にお願いします… その上目遣いをやめてください。

色っぽさが半端なくて興奮して死にそうです。 ボッチを抹殺する気ですか?…


「いいえ… 好きなように呼んでもらって構いません」

「そう? よかった。私の事も『ひなの』って呼んで下さいね」


無理です…神への冒涜です。 そんなことしたら罰が当たります。


「い、いや… 流石に呼び捨ては…」

「え~ッ、昌のことは呼び捨てなのに… 私とはそこまで仲良くしてくれないんですね…」


そう言ってひなのさんは悲しそうな表情をして伏目になる。

…………なんか…すごく嬉しいんだけど… この追い込まれてる感は何なんだろう?…


「わ、わかりました… ひなのさん」


「違うよね~」

「分った… ひなの…」


あ~あ… 言っちゃった。 おれ、ひなのさんの彼氏に殺されねーよな?

そんな訳で何故かこれからは「愁一・ひなの」の関係となってしまった。



昌とだったらお互い呼び捨てでも何にも思わんのだが、年上の超美人を呼び捨てって… 知らんぞ、どうなっても。


さっきから緊張の連続で色んなところから変な汗がいっぱい出ていたので、少し緊張を和らげようと昌の方を見てみたが、もう昌はリビングに居なかった。


…ということは、今はまた二人っきり… それにひなのさんの目が何故かウットリとしていて…


「ねえ、愁一…………」


それからひなのさんにそう呼ばれて喋りかけられたが、背中がゾクゾクしてもう限界…

駄目だ…今日はもう帰ろう。 色々と具合が悪すぎる。


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