4. 昌の抵抗
「そんじゃ 休憩にするか」
昌の集中力が無くなりグダグダになってきたのでちょっと休憩することとなった。
昌の顔は未だ納得いかない感じで機嫌は超悪い。とのかく俺のイメチェンがある程度昌に通用したことだけは確かみたいだな。
そういや家に着いた時に出迎えてくれた冴子さんも凄く驚いていたな。最初は「どなたですか?」って真顔で言われてびっくりした。昌とのバトルしか考えていなくてイメチェンの事すっかり忘れてたから何言ってんだと思ってしまった。
最初にこの家に来たときは髪も長く顔にだいぶ掛かっていたけど、今はすっかり短くなってワックスまで使ってる。それに色も違うし… 自分でもやり過ぎた感は結構ある。
しかしあの昌の驚いた顔を見たときは最高だった。頑張った甲斐があったわ。
昌は相変わらずのビッチスタイルだし… お前もちょっとは進化してみろ。
バカみたいに派手なネイルしてるけどあれで良く生活できるな。なに触っても爪があたってカチカチと音をたててるし…
そして休憩時間も終わって勉強再開。
今日はずっと数学をやっているが、再開すると昌はいきなりある問題の解き方を教えろと言って来た。
なかなかやる気になってきたな… 昌もちょっとは素直になってきたか?
どれどれ…と言った感じで昌の傍に行き教えようとすると、解いて見せろと言われてシャーペンを渡そうとする。
俺がそのシャーペンを持とうとしたとき、昌はその手をいきなり掴み自分の胸にあてた。
こ、こいつなにしやがる…
俺がびっくりしていると「パシャ…」っと音が鳴る。スマホで写真を撮った時に必ず鳴るあの音…
アホでも分かるこのシチュエーション… 昌は俺を性犯罪者に仕立て上げるつもりだ。
「やり~! 愁一、触っちゃたね… 教え子のJKの胸を触っちゃたね… これって犯罪だよ?」
昌はドヤ顔をして上から目線で偉そうに言ってきた。
「お前が勝手にやったんだろーが… 俺は何もやってない」
「チッチッチ… そんなの誰が信じると思う?」
「お前のビッチさを見たらみんな俺を信じてくれると思うけど…」
「私の可愛い顔で訴えればみんなは愁一が襲ったとしか思わないでしょ?」
「そんなに俺を辞めさせたいのか?」
「あたり前… なんか凄くムカつくし… それにビッチいうな!」
それから昌は余裕の笑みを浮かべて楽しそうに言ってきた。
「んで、どーすんの? 自分から辞めるっていう?」
ニタニタ笑いながら余裕かましてる昌… マジムカつく。
「言う訳ねーだろ、お前の自作自演の演技なんだから」
「だったらこの写真を親に見せるしかないなぁ~」
そう言って昌はケラケラと高笑いする。
「この写真さえあれば私が仕込んだことでも悪いのはあんたになるんだよ~ 世の中はね、可愛い女の子の味方なのよ」
勝利を確信してふんぞり返っている昌…
仕方ない、もうそろそろいいか。
俺はポケットからあるものを取り出す。それからすぐに声が聞こえはじめる。
『この写真さえあれば私が仕込んだ………………』
「一応とってたんだ… 今日の部屋での会話全部…」
俺が取り出したのはペンレコーダー。
こんなこともあろうかと大学の授業でも使用しているペンレコーダーで全会話を録音していた。
「………なに?」
驚いて呆気にとられている昌…
「親に言いたけりゃいえばいい。 俺もこれを聞いてもらうけど…」
「ぐぬぬ… フンッ!」
真っ赤な顔をして怒り心頭状態の昌、思い通りに行かずに足をバタバタさせて悔しがっている。
俺はほっと一安心… 良かった、こんなことも有ろうかと準備しておいて。
所詮ビッチが考え付く浅知恵… この俺様に通用する筈がない。
でもなんか得したな… ただでオッパイ触れた。 ラッキー!
「さあ、もういいだろ? 勉強再開だ」
青筋をたてながら怒りの形相で勉強し始める昌… それを見てやはり不思議に思う。
俺のことが嫌いなのはわかるがどうしてここまで拘る? モブとボッチを嫌うのもちょっと度が過ぎてるし…
昌のことなんて知りたくもないが、俺に対する攻撃の理由だけは知っておいた方がいいに決まってる。どうせこの先も続くんだろうしな…
「どうだ、できたか?」
「………まだ」
「なに? お前なにやってんの?」
「お前言うな!」
「じゃあビッチ」
「余計悪いわ… 喧嘩売っとんのか?」
「じゃあナマカワ」
「………ナマカワ?」
「クソ生意気でクソ可愛い、… 略してナマカワ」
「………クソは余計よ…」
そう言って急に視線を横に向ける昌… なぜか指で髪の毛を弄りだした。
てっきり怒るだろうと思っていたのだが、そっぽ向いただけで言い返してこない。
おかしい… 何故そんなにおとなしい?
なんか様子が変なのでそーっと顔を覗きに行くと… 頬をほんのり赤らめて照れているような表情になっている。
お前らしくないだろ? そんな姿を俺に見せるんじゃねーよ…
………思いっきり可愛いじゃねーか、ちくしょう!
照れて恥らっている様子が凄く可愛かったので腹が立ってきた。理由は分からない。
でも待てよ… 俺が言った褒め言葉って「クソ可愛い」だけだよな… それ以外で褒めた覚えねーし。
いっちょ試してみるか…
「昌… お前の目ってさ、クリっとしてて大きくて凄く可愛いよな」
「…………」
何か言おうとした昌だが、何も言わずに今度は顔を横向きからやや俯きに変えた。当然俺は昌の表情をそーっと確認。
するとさっきよりも明らかに頬は赤くなっており耳まで染まり始めている。
なるへそ… そう言うことか。
まだまだ子供でんな~、昌はん… 自分の弱点他人に見せたらあきまへんで~
昌の弱点みーっけ… これは今後の楽しみにとっておこう。
「それじゃ、次の問題やるぞ…」
余り遊んでいる訳にもいかないのでそれからも昌の指導を続けたが、昌はさっきまでと比べて明らかに素直な態度に変化した。ちょっと褒めてやったら嬉しくなって素直になる… まだまだガキだな。
案外チョロイんじゃねーかと思いだいぶ気持ちも楽になってきたので、それからは結構教えることに集中できた。それに昌も態度は悪いがやり始めると結構集中する。勝ち気で負けず嫌いな性格みたいなので上手くやれば成績は伸びると思った。
「よし、今日はここまでにしとくか…」
一応目標のとこまでやれたので本日はこれにて終了。それにこの後俺にはお楽しみが待っている。
「ん~~~、疲れた…」
昌も疲れたと言って大きく伸びをしてぐったりしている。
スマホをチェックすると予定通りにラインのメッセージが入っている。
お相手はひなのさん。
なんと昨日の晩にひなのさんからラインが来た。
『明日は昌の家庭教師で家に来られるんですよね… 終わったらお茶でも飲みませんか?』
そんなの飲むに決まってるじゃないですか… どーしよ…緊張する…
という訳で今日は一日ウキウキ気分だった。そしてラインのメッセージを読むと『今帰宅しました』と書いてあった。
さぁ~ お楽しみはこれからだ!
そう思って昌の部屋から出て行こうとすると急に昌が話しかけてきた。
「…あのさ、愁一… やっぱ家庭教師続けていいよ…」
机の方を向いたままぼんやりした感じで俺にそう言った昌…
そうか… なら助かる。 これで俺も安心してこのバイトを続けられる。
案外昌も素直でいい奴だな… 俺はそう思った… その時は。
「そうか… それは有難い。感謝するよ…」
気分も良かったので俺はそう言って笑顔で昌にお礼を言ってやった。
そして昌の部屋を出てリビングに向かう。
そこには俺の女神であるひなのさんが待っていてくれる。