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2. 先ずはお試し授業


「それじゃ 取り敢えず今日は昌の勉強の様子を少し見て頂けるかしら」

「はい、分かりました」


「終わったら細かい事とかのお話もあるので私を呼んで下さい」


「はい。それじゃ行こうか」

「ふんっ… はぁ~あ…」



 昌はふて腐れた顔でさっさと自分の部屋へ向かって歩いて行く。俺はやれやれと言った感じでその後をついていった。やがて昌の部屋に着いたが昌は扉を開けて部屋に入るといきなりその扉を閉める。


入って来るなと言わんばかりのその態度… ええ根性しとるの、姉ちゃん!

俺はお構いなしに扉を開けて昌の部屋に入る。


昌の部屋に入って中の様子を見ると…

目眩がしそうなほどカラフルな色調、ぬいぐるみや小物がその辺にあふれてゲーセンのような賑やかさ。

よくこんな部屋で暮らせるなと言うのが俺の正直な感想だ。さすが筋金入りのビッチだ。



「なに?… なんか用?」

部屋に入ってきた俺を見た昌の一言。用があるに決まってんだろ。


「取り敢えず数学の教科書出して…」

俺が依頼されているのは数学と英語。この2教科は文系理系問わずに重要となる教科だ。


「はぁ~ マジでヤル気?」

「マジでヤル気」


かったるそうに喋る昌は無視して家庭教師を開始する。

なかなか用意しない昌を急かせてようやく勉強する態勢を整えると数Ⅰの基本的な例題を解かせてみた。

最初にやらせた問題なら5分もかからないだろう。


「う~ん………」


ようやくちゃんと問題を見て解き始めた昌… 嘘だろ、こんなもんも分かんねーのか?

一応真剣に考え始めたので黙って出来るのを待つことにした。



 机に向かって必死に考えてる昌の横顔を見ると… 流石に冴子さんの子供だけある。

色白でクリッとした可愛い瞳、形の良い眉、鼻筋が高く通ってその下に何とも愛らしい唇がある。


だが残念なことにそれらの最高な素材を派手な化粧が完全にぶち壊している。

それにその錆びたような下品な色の茶髪と言うか金髪… 女なら髪の毛を大事にしろ。


顔だけで言うと完璧に可愛い。アイドルにでもなれんじゃねーって感じだが、残念なことに種族はビッチ…

そして俺がこの世で唯一、その存在を否定したいのがビッチだ。


クソ生意気でクソほど可愛い女子高校生か… 昌はナマカワJKだな。



 そんなことを思っていたのだがいつまでたっても問題が解けない。

今はその愛らしい唇をへの字に曲げ、形の良い眉はつり上がり、眉間にはしわを寄せて瞳は不満の炎を映している。その美しい顔はもはや犯罪者のような表情となっている。


「もういいよ… 俺が解くから見てて…」


そう言って解き方を順序良く説明してポイントとなることを指摘していく。どうせまともに聞かねーよなと思っていたが、昌は案外真剣に俺の説明を聞いていた。


はっきり言って学力的にはヤバいと思うが、案外真面目に教えれば伸びるかもとその時俺は感じた。

それから例題を何問か解かせてみたが、「お前高校に何しに行ってんの?」と聞きたくなるレベル…


取り敢えず解き方をゆっくりと教えて行きながらその反応を確かめてみた。



「ちょっと休憩するか…」


小一時間ぐらいやっただけだが、昌のイラつきがヤバそうになってきたのでちょっと休憩…

俺がスマホを弄っていると急に昌が喋ってきた。


「…あんた名前は?」


その偉そうな言い方を止めろ… それにその険しい表情も。可愛い顔が台無しだぞ。


「名前は愁一だけど… それが?」

「だったらさー、愁一…」


いきなり呼び捨てかい? 一応お前より年上なんだけど…


「家庭教師辞めてくんない?」

「…何故辞めなければいかんのだ?」


「私さー、ボッチとかモブってムリなんだわ… イケメンならまだしも…」


ふてぶてしい態度で昌はそう言ってきた。どんだけ差別するんだ、こいつは…


「イケメン先生なら真面目に勉強するのか?」

「あたり前じゃん… イケメンならモチベが違う」


「そうか… それじゃ仕方ないな…」

「辞めてくれんの?」


「辞めるわけねーだろ! 馬鹿なの、お前?」

「お前って言うな!」


「じゃあ昌…」

「なんじゃい、愁一…」


二人は互いに名前で呼び合うほどに打ち解けて仲睦まじくなった…



 休憩後は教科を英語に変更。

これも高校1年生レベルからの確認をやってみた。数学ほど酷くはなかったが、大学受験には到底足りていない。


「このthatは何を指してんの?」

「…あれ」


「このitは?」

「…それ」


「………舐めてんのか?」

「Yes!」


 こいつと喋るなら真冬が丁度いい。血圧が上昇して体温が勝手に上がってくる。

昌はこれでも高校3年生… 来年は大学受験だ。


こいつに厳しく勉強を仕込んでやろうと思っていたが、それ以前にこっちの精神が崩壊しそう…

結局この日は2時間程度の様子見と言うことで昌の学力を大まかに把握した。


どうやら真面目にこいつを鍛え上げるにはかなりの労力を要することだけは分かった。

モブとボッチをひたすらバカにするこいつに、俺がそれらの代表として制裁を加えてやろう…


はじめて昌に会った日の俺の感想だ。



取り敢えず今日はこれぐらいにしておいて、今後の予定を考えようと思い昌に今日はこれで終了だと伝えたが、最後に一言だけ昌に言っておいた。


「昌、俺はお前が言うように高校時代はボッチでモブだった。だがな、勉強ではお前は俺の足元にも及ばん。結局お前はボッチでモブ以下のビッチだ。悔しかったら俺を超えて見ろ…」



俺は昌に宣戦布告した。悔しかったらかかってこい… いつでも相手してやる。

その言葉を聞いて鬼のような形相で俺を睨む昌…


「ぜ、絶体あんたなんかクビにしてやる… どんな手だって使ってやるから…」

「やれるもんならやってみな… その悪い頭でいい知恵が浮かぶとは思えんが…」



顔を真っ赤にしてこっちを睨む昌…

見てて楽しくなったのでもっと煽ってやろうかと思ったが、こっちもそこまで暇じゃない。


「フンッ!… 覚えておきなさいよ…」


俺はそんな憎しみのこもった最高の恨み顔で昌に見送られて部屋を後にした。

それからリビングに立ち寄り今後の予定などを冴子さんと話し合った。



「今日は本当に申し訳ございませんでした… 昌ったらあんな態度ばかりで…」

「いえ、別に気にしてません。それにさっきやってて思いましたが勉強をヤル気はあるみたいですので…」


「そうですか… 本当にお願いします。 あの子、前は塾とかに行かせてたんですが… 結局さぼって遊びに行ってて…」


「そうなんですか…」


「それで… 家庭教師なら家から出さなくて済むと思いまして…」

「とにかく頑張らせてもらいます」


「本当にお願いします… それで……………」


 その後はこれからの予定とバイト料についての話となったが、流石にお金持ちだけあって破格の提示だった。最初は1回につき1万円出しましょうかと言われたが、そんな高額な報酬を頂いても昌の成績をそこまで伸ばす自信もないので、取り敢えず月6万円の定額制とした。


一応週2回以上程度でやることにしたが、それでも相当歩合はいい。

細かな決め事などもだいたい決まったので、今日はこれで帰ろうかと思っていた時、玄関の扉が開く音がして少しするとリビングの扉が開いた。


「あれ、母さん… お客さんだったの?」

「ああ、ひなの… お帰りなさい。 こちらは今日から昌の家庭教師をやっていただく安角愁一さん…」


「初めまして。 自分は縁あって昌さんの家庭教師をやることになった安角愁一と申します」

「そうなんですか… 初めまして。 私は昌の姉のひなのと申します」


そういって丁寧にお辞儀をして挨拶をしてくれた昌の姉さんである「ひなの」さん…

むっちゃくちゃ美人… こんな美人初めて見た!



顔は正に冴子さんの娘と言った感じでそっくりだ。

切れ長の目に細い眉、高い鼻にやや薄くて魅力的な唇、頬から顎にかけたラインがシャープで美しいという言葉しかでてこない。それに昌と一緒できめ細かくて白く美しい肌… 俺は初めてこのような人を見た。


そして何よりその服装も落ち着いた大人の雰囲気を漂わせており、何もかも俺の理想にドンピシャだ。

長くてつややかな黒髪が振り向いた時にファサッっと靡く姿はもはや芸術的に美しい。

昌の錆びたような色をしたセミロングの茶髪とは大違い。


「昌の家庭教師ですか… 大変ですね…」


クスッっと微笑みながらひなのさんはそう言ったが、その微笑みだけで目眩がしそうだった。

俺達モブでボッチな種族にはどうせ高嶺の花子さんなんだが、見ているだけでも癒される。


………このバイトに来てよかった。

俺は絶対この家庭教師を辞めないぞ! 勝負だ…昌!



愁一を辞めさせると言った昌、絶対辞めないと誓った愁一

家庭教師終了予定日まであと約300日… この二人のバトルがこれから始まっていく。


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