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1. 生徒の名前はアキラ

ご愛読いただき感謝いたします。


この作品は高校時代をボッチでモブとして優雅に過ごした主人公とボッチを嫌うビッチ少女との家庭教師物語です。これから長らくのお付き合いを頂ければと思いますので宜しくお願いします。


ええっと… ○○町の3丁目5番の15… ここだ。


確か名字は… 碓井うすい

間違いない、ここだ。

しかし… なんて大きな家なんだ…


家の門にかかっている表札は碓井… それを確認した俺はインターホンを押す。

ピンポ~ン………


「はい、碓井ですが…」

「すいません、今日から家庭教師をさせて頂くことになっている安角あずみ愁一しゅういちと申します」



「まあまあ、よく来てくださいました。私はお世話になるあきらの母で冴子と言います」


そう言って碓井家の母である碓井冴子うすいさえこが玄関口から門のところまで出てきた。


「さあさあ お入りください」


門を開け丁寧にお辞儀をした後に冴子は愁一を先導して歩き玄関まで来ると扉を開ける。


「どうぞ…」


冴子さんに促されて俺は玄関に入り靴を脱いでいると冴子がスリッパを用意してくれた。



「取り敢えずリビングの方でお話ししましょうか…」


そう言って冴子は愁一をリビングへと案内した。吹き抜けの広くて大きな空間に大きなTVやソファーがあり、家具やテーブルもデザインが独特で個性があり素人でも高価なものだと分かるものばかりである。


「どうぞこちらのソファーで座っていてください。昌を連れてきます」


冴子は微笑みながらそう言って静かにリビングから出ていった。



あの人がお母さんか… 凄い美人だな…

確か受け持つのは高校3年生だったな… とてもそんな大きな子がいるとは思えない。


愁一は冴子を見て驚きを隠せなかった。パッと見た目では30歳ぐらいにしか見えない…それに凄い美人だ。豪華な部屋の様子を見て少し気後れして落ち着かない感じであたりの様子を伺っていると、なんだか大きな声が聞こえてきた。


賑やかだな… 最初はそう単純に思っていたが、言葉がはっきり聞こえてくるとその内容に驚いた。



「だからさー、どうして塾じゃダメなわけ?… 家庭教師なんてイミフだしー…」

「あなたがいつもさぼって塾に行かないからでしょ… 塾の先生も呆れ返っていたわよ」


ちょっと待てよ… あの声はどう考えても女の声…

確か名前は「あきら」…男のはずだよな…


嫌な予感がした… いや、嫌な予感しかしない… いや、嫌嫌嫌嫌嫌。




 俺にこの家庭教師の話が舞い込んできたのは2週間前のこと。

俺は今年無事受験に合格して晴れて夢だった某国立大学の薬学部に入学した。


田舎から出てきて今年からこの都会で一人暮らしをする。当然お金も必要になるのでバイトはするつもりだったが、何をやろうか悩んでいた。力仕事は向いてないし、やっぱコンビニの店員か…


そう思っていたところにこの家庭教師の話が舞い込んできた。この碓井家と親父の兄が親しいらしく、俺がこの街にある大学に進学したことを知った親父の兄が俺のことを紹介した。


俺が通う学部の偏差値はかなり高い。それを見込んで碓井さんが是非家庭教師にと頼んできたらしい。俺はこの家庭教師のバイトの話を聞くと即決でOKした。


俺の取柄は勉強ができることであり、それを生かした得意分野でバイトができる…

それに… はっきりと聞いてはいないがどうやらバイト料がかなり良いらしい。

俺にとっては願ってもない条件なのでこの家庭教師のバイトは凄く有難い。




 ただ、俺には一つだけ不安なこともあった。

それは高校3年間を通してずっとボッチでモブだったことである。

先に言っておくが、決して根暗なわけではない。もう一度言う…根暗じゃない(ここは大事)。


中学時代は部活もやってたしそれなりに友達もいた。

だが、高校に入り薬学部を目指した俺は猛勉強… 何せ学年順位30番以内にいなければ合格の見込みがないので死ぬほど頑張った。それと…趣味に嵌ってしまった。元々読書好きだった俺は勉強の休み時間に小説を読んでいた。



 親も読書好きで家には文豪と言われた人たちの小説が一通り揃っている。俺も小さいときから読書が好きでそれらの本は中学までで読み終えてしまい、それからは現代の小説に嵌っていった。さらに推理小説やコミカルな小説まで幅が広がり高校での休み時間はもっぱら読書にあてていた。



周囲の人たちと話すより小説を読んでいた方が楽しい… そう思って好きな事をやっていると自然とボッチになる。そしてボッチが目立つはずもないのでこれまた自然とモブになる。

世の中の人に言いたいのだが、通常ボッチとモブはワンセットになるものだ。


これで嫌われ者であれば見事「三冠王達成」なのだが、流石に嫌われはしなかった。

それに言っておくが「彼女いない歴=年齢」ではない。なんと中学時代に一度だけ彼女はいた。


だから別に女が苦手なわけでも無いのだが、今どきの女子についていくのは流石にキツい。

そんな訳で生徒としてベストなのは男、それもおとなしいタイプだ。


逆に最悪なのはビッチギャル… あいつらは俺達モブでボッチの天敵である。

高校時代にもあいつらだけにはさんざん悪口を言われた。どうしてあいつらはボッチをイジメる?


そう思っていたが家庭教師をやる子の名前を聞く機会があり、「ウスイアキラ」と教えて貰った。

当然こう思う… あきら → 男だろ…


ラッキ~ 楽勝じゃん。



そして今、そのアキラなる者が俺の前に現れた。

髪の毛を茶髪に染めてバッチリ化粧を決め込んで派手な服を纏ったビッチofビッチのようなクソギャル…


なんなんだ… この生物は?


俺が昌を見た第一印象。



「昌、先生にご挨拶をしなさい」

「はぁ?… 何なの、この根暗そうな奴… まるでモブでボッチじゃん」


昌が俺を見た第一印象。


なにを… このクソビッチが!

当たってるじゃねーか…


こいつはニュータイプか?… なぜ一発でそれを見抜いた…

アキラ… なんて恐ろしい子…。

俺は焦った… 3秒と掛からずに正体を見破られたことに。



「これ昌! なんて失礼な事を… ゴメンなさいね、ええっと…安角さん」


冴子さんは慌てた顔をして俺に謝り、昌の方を睨み付けた。

でもその時俺は思っていた… 流石にこれは無い。


もともと女の子じゃない方が良かったのに、ましてやこのクソビッチ…

悪いけど断らせてもらおう…


そう思ってそれからはあまり話を真剣に聞いていなかった。

冴子さんは必死になって昌の非礼を詫びてくれていたが当の本人はスマホを弄っている。


こんなに綺麗でよくできたお母さんなのになんでこいつはこんなにクソなの?

そう思って呆れ返っていたが、取り敢えずこの話は無かったことにしようと決めていた。


「本当にごめんなさいね… 安角さん。 でも、どうか昌の家庭教師に………」


何とかお願いしようとしている冴子さんの声を消すように昌は怠そうな声で喋りはじめる。


「お母さん… こんな空気より存在感の無い奴が私に勉強教えるぅ? ないわ~…」

「あきら!…」


もういいですよ冴子さん… どうせ断るし…



「大体ボッチとかモブみたいな奴って何なの? 存在してる意味あんの?」

………………

カッチィーーーン!


あなた… 言いましたね… 言っちゃいましたね。

どうしてなんだろうね… ビッチはボッチとモブをイジメる習性でもあんのか?


だいたい字だって変わんねーだろ? 

ビッチとボッチ… 「ビ」と「ボ」しか変わんねーじゃん!


分かったよ… こうなったらボッチとモブの根性を見せてやるよ!

おめーの嫌いな勉強を嫌がらせのように叩き込んでやろうじゃないか…



「お母さん、わかりました。家庭教師を引き受けさせて貰います」

「はぁ? 何言ってんの、キモいんだけど… JKの体でも狙ってるワケ?」


「昌… あんまり口が過ぎると母さん本気で怒りますよ」


冴子さんがそう言って昌の方を向くと、昌の表情は一変して急に黙り込んだ。

どうしたんだ、何が起こった?


「昌、いいわね… 安角さんに家庭教師をお願いしますからね」


冴子さんがそう言うと昌はプイっと顔を横向けたが何も反論しなかった。


「それでは安角さん、出来の悪い娘ですがこれからよろしくお願いします」


そう言って冴子さんは深々とお辞儀をしてくれた。礼儀正しくて本当に優しそうな良い人だ。


「こちらこそよろしくお願いします」


そんな冴子さんに俺もお辞儀をして丁寧お礼を言う。



ただ最初に冴子さんに一言だけ謝っておきたい…

昌に勉強はしっかり教える… ただし優しく教えるとは一言も言っていない…


見てろよこのクソビッチ! 目にもの見せてやる!


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