俺の能力は
タッタッタッタッタッタッ……
呼吸が苦しい。走り始めてどれくらいの時間が経っただろうか。
「ほらぁ、もっと早く走らないとぉ、死んじゃいますよぉ?」
耳元で間延びした声が俺を急かす。
「うる…さい…。はぁ…はぁ…」
「まだ追ってきてますよぉ?気配は消えてませんからぁ」
くそ。撒けるか?体力はそろそろ尽きる。そうなったら確実に捕まる!
「捕まるどころかぁ、殺されますよぉ?言ったじゃないですかぁ。あいつらはぁ、あなたの命を狙っているんですってぇ」
俺が何したってんだよ。
「んーとぉ、あなたの能力が危険だからって理由だったと思いますけどぉ?心当たりありますかぁ?」
ねぇよ。大体なんだよ能力って!
俺は特殊能力なんて持ってねぇぞクソ!
「お前の…方こそ、はぁ…心当たり…ねぇの…かよ…はぁ…」
「ありませぇん。大体ぃ、妖精にそれを見破る力なんてぇ、ありませんよぉ?」
間延びした声がイラつく。俺を守りに来たとか言って嘘に決まってるぜこれ。
住宅街へ続く道をひたすら走る。小道を何度も曲がり、撒こうとするが、どうやら俺の命運も尽きたらしい。
「袋小路……かよ……」
目の前にコンクリの壁。登れそうな高さじゃない。
肩に乗る妖精は「あちゃー」と声をあげている。
「おう。鬼ごっこは終わりか?」
後ろから野太い声がした。
追い付かれたらしい。走っている音も姿も見なかったが。
「クソ……何かないのか妖精!!」
「私ですかぁ?あるわけないじゃないですかぁ。大体ぃ、私の名前はぁ、ミルキーですしぃ。妖精ってぇ、呼ばないで欲しいですぅ」
ツッコム気力もない。軽口に付き合っていられるほどの余裕もない。
「俺を…どうするんだよ」
「殺すに決まっているだろう。そのために来たんだからな」
分かってたよ畜生。
「何で俺を殺すんだよ」
「お前の能力が危険だからだ」
男はさも当然の事の様に言う。
「その能力ってのは、教えて貰えないんだよな?」
「能力はそいつにしか分からんものだ。俺が知るわけなかろう?」
っくそ!
「ふん。話は終わりだ」
男は巨大なハンマーを持っていた。どこから出したのだろうか。
ヤツはハンマーを振りかぶると、ニヤリと笑い
「じゃぁな」
それだけ言い、振り下ろした。
死にたくない。嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ死にたくない死にたくない死にたくない死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死死死死死死死──────────
「おわっ!」
日差しが眩しい。
「朝…?」
時計を見ると、いつもの時間より少し早めだ。
「あれは……夢…か?」
悪夢だった。巨漢に追いかけられ、ハンマーで潰される夢。俺が、死ぬ夢。気持ち悪い程に鮮明で、リアルな夢だった。
「夢で良かった……か?」
「何がぁ、夢なんですかぁ?」
間延びした声、聞き覚えのある声がした。
「お前……」
手のひらサイズの妖精が目の前を飛んでいた。
「あ、どぅもぉ。私ぃ、ミルキーっていいますぅ」
止めろ。その先を言うな。聞きたくない
「あなたぁ、命、狙われてますよぉ?」
────────────────────夢が、始まる