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プロローグ

「富士山から見る日の出は凄く感動するらしいよ」


 病院の談話室から見える夕日を眺めながら、目をきらきらさせて皐月さつきはそう言った。


「悠斗君、富士山に登った事ある?」

「ないよ、ない。そんな事考えたこともないよ」

「悠斗君が考えるのはサッカーの事だけか」

「なんだよ、そのサッカー馬鹿みたいな言い方ぁ」


 皐月はくすくすと笑った。そんな彼女を見て悠斗も笑う。

 長い入院生活の中、同年代の男子とこんな風に話をすることはほとんどなく、皐月にとって楽しいひとときだった。


(学校で知り合ってたら、こんな雑談しながら登下校できたかな?)


 頭の片隅でそんな高校生活を考えてみたりする。

 退院できれば皐月が通うはずの高校に悠斗が在籍していると分かって、ふたりの距離は一気に縮まった。


「ご来光を見ると世界観が変わるって・・・どんな感じかなぁ」

「あぁ?」


 空想ばかりの皐月に悠斗は時々置いてけぼりを食らう。


 ずっとサッカー少年だった悠斗は、友達も集まってくる女子も元気で活発な人ばかり。

 読書好きな大人しい女子は初めてで、いつもと少し勝手が違ってまごつくこともあった。しかし、悠斗が考えたこともない奇想天外な事を突然言い出したりする皐月との会話は楽しかった。


「宇宙から地球を観てみたいな」

「富士山の次は宇宙かよッ」


 苦笑いする悠斗に皐月も笑う。


「だって、健康な人でも簡単に行けないでしょ。行ってみたいなぁ、地球、青くて綺麗だろうね」


「富士山なら行けるんじゃない?」

「行きたいけど・・・どうかなぁ・・・」


 退院してもすぐ体調を崩して再入院、それが定番のようになっている皐月には夢のような事だ。山登りの様な体力を伴う事を実際にしてみようとまで考えたことがなかった。


「俺が負ぶって登ってやっても良いよ」


 悠斗が笑顔を見せる。


 入院してきた時に浅黒かった悠斗の肌も色が抜け、頬が少しこけてきていた。人を背負うどころか自力で登り切るのも辛そうに思える悠斗の姿に、気づかぬ振りをして「嬉しいな、楽しみ」と皐月は返した。



 死の陰を感じないわけではない。


 でも、希望は持ちたい。



「私ね、生まれ変わったら色んな事してみたい。今まで出来なかったこと全部。悠斗君は生まれ変わったら何がしたい?」


「生まれ変わりって・・・・・・」

「あ、生まれ変わるより退院が先か。だよね」


 笑顔を見せる皐月に、悠斗は苦笑いして質問を流した。

 死ぬ訳ないとか退院したら何しようかだろ? なんて事を言いたかったが何も返せなかった。




 死んだその先が有るのか無いのか分からないけれど・・・。

 でも、もしもあるのなら・・・。



(また悠斗君と出会えるといいな、「よぉ、また会ったな」なんて話をしてみたい。多分、私が悠斗君を待つことになるんだろうけど・・・)



 そう皐月が思っていた半年後、悠斗との別れはやってきた。自分が見送る側になるとは思ってもいなかったのだが・・・。





 そして、皐月にもその時が迫ってきていた。







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