6、母の愛
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「んで、こんな状況なわけだが・・・他の魔族はどうした?」
こんな状況、と称したのは勿論俺とアミラ以外誰もいない魔王城。ところどころ外壁が欠けているのか隙間風が吹いている。
先程ふと、防御系スキルが最大では無いのはもしかしたら効く状態があるのでは、というなんともお粗末な推理で敢行した実体化は成功。そのお陰かせいか、冷たい空気を乗せてくる隙間風を感じることが出来るのだ。
「ほとんど勇者に倒されてしまいました。残った魔族は私の祖母を含め5体だったと聞きます。ただ・・その5体も取り込める瘴気が少なくなり、なんとか子を産んだものの数が減り続け、今では私と兄のたった2体です。」
なるほど、それもそうだ。確かに俺も目につく魔物は一掃した気がする。魔王も一撃だったし、元の世界の魔族は壊滅しているだろう。
この世界の勇者もそうしただけのことか。
「取り込める瘴気が少なくなった?」
「はい。我ら魔族は魔王様へ隷従する契約を行うことで、魔王様のお力を借り受けています。厳密には、魔王様のお力が大地に流れ込みこの世界すべてを、特に魔王城周辺を人間の言葉で言う瘴気で満たします。
その瘴気を自身の活力として効率よく吸収することが出来るものは、魔王様に忠誠を誓ったもののみなのです。
勿論契約せずとも、瘴気を取り込むことは出来ますが格段にその量は落ちるでしょう。それこそ契約時の一割にも満たないと思います。
・・・話が逸れましたが、魔王様が倒されたことで一度魔王の継承権が破棄されたのかはわかりませんが、魔王様との契約が解消されてしまったようで、瘴気を取り込みづらくなりました。」
「ようは魔王と契約すると吸引口みたいなものがついて楽に吸えるってことか・・・ん?取り込み難くなったのは魔王がゴーストになって弱体化した影響とは考えないのか?」
「その判断は何となく、という次元の話なので一概には言えませんが、魔王様の強さで瘴気の濃度が変わるわけではないようです。そうなってしまえば、勇者より強い魔王様が誕生したとき、世界は抗う術をなくしてしまうので均衡を保つためだとは思われます。」
いや、その話だと魔物は減りすぎな気がする。
魔王という存在が大事。だから本来新しい魔王を据えるところ、ゴーストになった魔王が邪魔になる。しかしそいつが倒せない以上、再度契約するだけで解決するはずだ。
男女比にもよるだろうが、子をなせば数は増える。それに魔族は人間より長命だと聞くし、増えはしても減りはしなさそうではあるが。
「なるほどな・・ゴーストは倒せないから新たな魔王を誕生させられないのは分かったが、何故魔王と再度契約しなかった?していれば5体が2体に減ることもなかっただろう?」
アミラは言い辛いのか、苦々しい顔で短くため息をついた。
「・・・魔族は、強さこそが絶対です。強ければ何をしてもよいと考える種族がほとんどを占めていて、我々10柱のような存在であろうとも例外ではありません。・・つまり、滅びることがわかっていても、弱い者に従うことは自分が許せないのです。」
まあ、そうした考えは人間でもあるしわからなくはない。強いやつが弱いやつを虐める、強いやつに群れる。それが顕著になっただけの話ってことか。
別段不思議ではないし、寧ろしっくりくる考えではある。
「そうか。なら逆に何故お前は、いやお前たちだけまだ永らえたんだ?」
「祖母が子を生したとき、このままではいけないと魔王様と再契約したそうです。契約は長であれば種族全体、親であれば自分以下の子全てに適応され、これから産む場合は自動で行われると母が言っておりました。そして、鬼人は子を宿しにくいけれど、それでも同様に子を生すようにと。
そうして、我ら一族は女は必ず男女一体ずつを産み、魔族を絶やさずきたそうです。」
ああ、そうか。そもそも活動源が無ければスキルをまともに使うどころか、ステータスさえ弱体化するだろう。
当然だ。酸素の薄い場所で戦えば思考力が落ちる、体が思ったように動かなくなる。それと似たようなものか。そんな状態で子供を産んだり育てたりができるはずはない。
種族関係なく、信念を曲げられるほどに母は強いものなんだな。俺はあまり関わりがなかったから解らないが。
「そうか、祖母に、そして母に感謝するべきだろう。」
「・・・はい。」
魔族の感覚としては意外なのか、アミラは少し驚いた様子ではあったが素直に頷いて、先祖へ声を届けているのか暫く目を瞑っていた。