4、「俺、勇者だったんだよね」
インフルで死んでました。皆さんも体調にきをつけて・・・熱出たら休んで・・・
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さて、そんなこんなで俺はどうやら魔王に成ったらしい。勇者からの魔王へ転生。最早誰にも負ける気がしないな、慢心は良くないけど。
「んで、なんか事情があるっぽいけど・・・まあそれは後で聞くとして、俺はお前を信用していいの?」
鬼人はやはりブツブツと、「計画と違う」「こんなはずじゃ」などと零していて話はできそうにない。あたりを見回しても、魔王城らしいここには魔物の気配がそこの鬼人1体以外何もしないことから、なにやら込み入った事情がありそうだが。
仕方ない、得意ではないが”支援魔法7”を使い精神を正常な状態に戻すか。
・・・いや、それじゃ面白くないな。ここはアレにするか。
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「・・・えーと、つまり前の俺はゴーストっていう、1500年生きないと全ステータスもスキルも1のすげえ弱い魔族だったと・・・」
「はい。勿論以前は私と同様の鬼人でした。勇者によって打倒されてしまい、本来であればその段階で魔族の中から最も強い者が自動的に選ばれ魔王となり、以前の魔王は消滅してしまうはずが何故か魔王様はゴーストとなってしまいました。そのため次の魔王が決められず、このままでは魔族の存続が危うくなってしまうので魔王様に消えて頂こうと決定されたのですが、それは早々に無理と判断されました。」
「無理?」
「ゴーストは、人間にとってはほぼ害が無く弱い魔物ですが、魔物にとっては倒せない難敵です。何故なら”聖魔法2”以上の浄化でしか倒せず、我ら魔族に聖魔法が使えるはずもありませんから・・・」
アレの効果によって精神が正常に戻ったためようやく話しができる状態になった鬼人へ、とりあえず現状についての説明を求めたがまさかの状態を告げられた。なるほど、把握はした。
ショックを受けはしたものの、俺についてはすでに1500年経過してるわけであまり関係はない。
魔物にとっては難敵で人間にとって弱いゴーストが魔王ってことと、「勿論以前は鬼人だった」なんて言われ方から、ゴーストが魔王になることは変っていう認識が当然にあるんだろう。つまり魔王っていうのは、魔物にとっても人間にとっても絶対的に強い存在が魔物の中から自動的に選ばれるって意味なんだろうな。多分。
言葉通りに捉えるなら、討伐の基準が精神的な敗北なのか動けないから敗北になる身体的なものなのかは定かではないものの、どちらかの条件で魔王の敗北が決定したら魔王の座が次に移る。なら前魔王がゴーストになったとしても関係なく、それ以前の段階で別の誰かがなるはずだったのだ。なのに魔王の座は誰かに移ることなく、人間から見て弱い魔物なのは間違いないゴーストになっても尚魔王のままだった。
順番が狂ったか、はたまた再び選ばれたのか。
というかそもそも、ゴーストって弱いか?いや、元いた世界じゃゴーストなんていなかったけど、このゴーストって響きと実体があるくせに存在が朧気な自分を見て思うのは、物理攻撃が効かなさそうってこと。多少倒すのに苦労しそうなものだが、さっき見たステータス的には全く効かないわけではないだろう。どちらにしても今すぐ判別するわけにはいかない、要検証。
・・・?いや、おかしくないか?なんでゴーストって響きに
「魔王様・・・恐れながら、お聞きしたいことがあります」
鬼人の言葉にようやく意識が現実へ戻ってきた、何か大事なことを考えていた気がするのにどこかに飛んで行ってしまったらしい。まあそのうち思い出すだろう。
空っぽの頭の中に浮かんだのは、そういえばこの鬼人の名前は何だったかということくらいだ。
「どうした、アミラ。」
必死こいて記憶を掘り起こして見つけた名前を呼ぶ。きっと魔物であろうと人間であろうと、名前を呼ばれて嬉しくない女はいないだろうから。
「はっ、はい。では・・・魔王様は、一体何に成ってしまわれたのですか?・・・いえ、この質問は正しくありません。恐らく、誰になったのですか?とお聞きしたほうがいいでしょうか。
以前の魔王様であれば、我々配下の名を呼ぶことなど一度たりともありませんでしたから」
1500年生きてどう変わったのかと聞きたかったであろう質問は、いきなり核心を突いた質問に訂正されてしまった。どう誤魔化そうか悩んでいると、確信めいたその瞳が俺を射抜いて、なんだか嘘をつくのも憚られてしまう。
名前を呼ばれた瞬間、一瞬険しい顔をしたがそれでも少し嬉しそうに微笑んだ。ついつい前世でのクセが墓穴を掘ったらしいが、まあ笑ってくれたなら良しとしよう。というか、墓穴を掘ったにしてもよくわかったな、アレがかかっているしあんまり疑問は覚えないはずだけど・・・仕方ないか。
「俺、勇者だったんだよね」
アミラは耳に届いた言葉を吟味するように数秒黙ってから、小さく、え、とだけ絞り出す。そりゃそうだ、俺が逆でも何言ってるんだこいつってなるだろうし。
「前世っていえばいいか・・・俺は何ていうか常人じゃ有り得ないステータスやスキルの高さでさ、しかも今まで一人としていなかった職業だったんだよね」
ああ、思い返せば。
仕方なかったこととは言え中々に非道な行いを数々してきた気もする。まあ申し訳ないとは少しも思わないけど。
俺は自分の前世を淡々と語りだした。