2、弱すぎパーティ、弱すぎ魔王、困惑俺
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というわけで、俺は勇者パーティご一行の一人だった男。
どうせ大した相手でもないし、めんどくさいからパーティの後ろで見てたら、まさかのパーティ壊滅。
王都で魔王討伐パーティとして組まれた、あの世界での最強の4人を即席で集めて行ったから、道中何かを倒したわけでもなければ、相手の実力を見ようとしたわけでもない、とは、いえ。
いやいや、だってマジでそんな強い相手じゃなかった。
魔物だってどれも、俺から見れば例えるなら成人が幼児を相手にするくらいの差で圧倒的に弱かった。魔王はそこそこだった気もするけど、さすがに3人がかり(もちろん俺は含まない)で倒せないわけがない
これって俺のせいじゃなくね?
仕方ないので衝撃波と共に剣を横に薙げば大量に魔物が死に、試しに魔法で適当に石や炎の玉や氷の矢などを撃ってたら更に死に、奥にいたデカいやつはなんか話し始めたからめんどくさくなってちょっとダメージ増加を使って斬ったら二等分になって動かなくなった。
魔王はいつだろうと待ってたらいつになってもこない、よくよく見ればこいつなんかいい武器っぽいの持ってるし、魔族の中では強いらしい竜人の特徴である尻尾もあってめちゃくちゃ体デカい。
そしてようやく思い至ったんだよ、あれ?これ魔王だったのか?と。
「マジか、想像以上によえーな・・・」
自分がそこそこ強いことは勇者ともてはやされていたことや、幼い頃から人に接するときは加減が必要なことで自覚はしていたが、まさか自分以外の最強と呼ばれる3人が、加えてそれを殺った魔王がこんなにも弱いとは想像していなかったわけで。
うーん、どうするか。
「はあ~・・俺が魔王だったらなあ。」
今の記憶を継承するなら勇者対策は万全にするし、継承せずともこんな簡単にやられたりはしないんだが。そしてもうちょっと面白くてワクワクするような戦いができたかもしれないのに。
つーかまず手下弱すぎだし。それらを鍛えることから始めて、魔王城の結界も見直して・・・
うーーーーん
というより、そもそも俺が魔王ならここに勇者が辿り着く前に殺すだろう。そりゃそうだ、自分を脅かすかもしれない存在が生まれた時点で野放しにしとくのは愚策。
力を奪うなり、まあめんどくさくなれば殺すなりすればいいだけだろうに・・・
「俺が魔王だったら、こんな簡単に倒されたりしねーのになあ」
あまりの弱さに哀れを通り越して同情すら覚えそうだ
どうすっかなぁ。
とりあえずあたりを見回す、といってもどこを見ても背景が変わるだけで見渡す限りの残骸もとい肉片、肉片、肉片・・・と人間。魔王軍に人間がいるはずはなく、勿論パーティメンバーだったもの、だ。
「仲間はよえーしなあ・・・・」
思えば本当にあの3人が死ぬのは早かった。
さすがに魔物と言えど、多少の知恵はあるらしい。先に狙われたのは修道女だった。
数十体のゴブリンが突然横から現れて防御してるうちに、遠くのドラゴンの斬撃攻撃(爪)で引き裂かれた。
聖職者全般支援魔法が使えるものが多く、状態異常回復や治癒魔法などが使えることからどこのパーティにも一人はいるだろう。
パーティ募集の際は支援魔法師と称され、常に募集が貼り出されている。勿論支援魔法師は聖職者だけではなく、支援魔法が使えるものであれば基本的に誰でも成ることは出来る。
だがこれらの魔法もといスキルは使用すればするだけスキルレベルが上がる。協会などは寄付などに応じて誰にでも支援魔法を使うため、パーティの中に支援魔法師がいない場合や普段の病気怪我など重用される。そのため使用回数が多く、他の職業よりスキルレベルが上がりやすい=支援魔法師として強い人が多いのは必然的に聖職者になる。
そんな支援魔法師の中で、支援魔法のそれぞれが最もレベルが高い者がそこに倒れている修道女であり、世間的には聖女と呼ばれ崇められているのだそうだ。
まあ、申告してはいないが俺も支援魔法は使えるし、もっと言えばスキルレベルも修道女より高い。
スキルレベルはどれも10レベルが最高で、一般的にはどのスキルも5レベルあればスキルを極めし者と言われ称号が女神によって自動付与されるなか、聖女の支援魔法は軒並み6レベルに迫っていた。
ちなみに俺は平均7レベル。支援魔法自体得意じゃないんだよな。そんなの使うよりさっさと攻撃してしまった方が早いから。
次に狙われたのは魔法使いの女。
支援魔法師がいなくなったことで、状況が絶望的になったことで心が折れて泣き出し、碌な攻撃や防御も取らないまま背後に転移した死を迫る者によってやられた。
魔法使いと称される職業は、攻撃魔法を専門に扱う者だ。攻撃魔法と支援魔法では系統が異なり、職業によってどちらかしか使えないということではなく、どちらかスキルレベルの高いほう若しくは適正高い方の職業が選択されることになる。
例えば幼少期気付かず適正の低い支援魔法を練習して、攻撃魔法より支援魔法のレベルが高かったとしても、10歳の時に希望すれば協会にて受けられる適正検査で攻撃魔法の方が適正が高ければ魔法使いとなる。
ちなみにこのバッファーや魔法使いなどはクラスと言い、それぞれのクラスギルドで証明書となる身分を証明するバングルを貰うまでは自己申告となる。つまり協会で診断してもらった適正を自分のクラスとして認識するのだ。
魔法使いはスキルを使う際、足元に使う魔法の魔法陣が描かれ光るため見た目が恰好いい・・・つまり練習するやつも多い。そのせいかスキルマスターのレベルは魔法使いだけ少し高く6レベル。魔法使いの女は確か魔法系の平均スキルレベルは7レベルだった気がする。氷魔法が得意で8レベルだと言っていた気もする。
ちなみに俺は魔法は一律9レベル。魔法は使えるほうが戦闘の幅が広がる。
残された重鎧は男だっていうのに、メイン火力やバッファーがいなくなったことで自分に回復がこないことへ絶望したらしい。どこからか飛んできた光線攻撃を避けようともせず腹に風穴が空いて死亡。
重鎧のクラスは守護者、敵に挑発スキルなどを発することで魔物の敵対心を上げることができ、他のパーティメンバーへの攻撃を減らすことが出来るパーティの盾役だ。
防具破損や怪我をしやすく、一番の不人気クラスだろう。正義感や使命感に燃えたやつ、もとから防御力の高いやつなどしかやらない。
そんな不遇クラスの中でどのクラスからも尊敬されるほどの人格者・実力者として名を馳せ守護神と敬称されたこの重鎧の防御系平均スキルレベルは7レベルだった。
まあ言わずもがな俺の方がレベルは高いが80レベル、防御なんてする前に倒せばいいだけだし。
あ、俺のクラスは剣士。物理斬撃スキルが得意なクラス、ってことになってる。
と、一人ずつかつての仲間をみていても特に感じたことは無かったので、そういえばと魔王が持っていた武器へと視線を移す。
結構なレアものっぽい。
持って帰るか、とそれに触れた瞬間のこと
近くの魔王の残骸が眩く光って、謎のフリフリ縦ロール女が浮いていた。
・・・おかしい、気配はなかったはず。
よくわからないが、とりあえず相手の唇が動いたことで警戒を高めた。
魔法か?とりあえず殺しとくか。
「ぱんぱかぱーん。汝のねがい、叶えてしんぜよーう。」
斬撃の9レベルスキルを発動してダメージを底上げする。
鍛錬によって目視では絶対に追えない自信のある速さで放った斬撃は、スキルの”物理攻撃力ブースト7”の効果であるダメージ増加大を使い魔王が一太刀でやられたほどの威力を載せて、その女を両断したはずなのだ。確実に、声を発する前に。
「・・・・おかしい、斬ったよな?」
実際斜めに両断されたが、それは映像のように断面が白く到底効いているとは思えない。
こいつ、強いな。
多少の驚きはあるものの、現に自分という存在が実現している以上、自分の攻撃が効かない相手が出てくる可能性は危惧していた。
それが魔王ではなく、今、こいつだっただけだ。
唐突に女はニヤニヤと口元を緩めて、早口で何かを言って、
「えっ?」
発した筈の声は俺の耳には届かず、俺は光になった。
スキルレベルの桁修正しました