1、やりすぎ勇者
「はあ~・・俺が魔王だったらなあ。」
そうぼやいた紅い髪の青年は、真っ黒で背もたれの頂点と肘掛の先端に髑髏の飾りがついたいかにもな玉座に腰かけた。
かつて残虐で非道な魔物が蔓延り、それらを意のままに操ることが出来るほどの強大な力を持っていた魔王が治めていたこの国。
先の発言など聞かれてしまった日には即刻なにかしらの魔物によって、胴体と首がオサラバしていたであろう全くもって危険な発言である。本来であれば。
「俺が魔王だったら、こんな簡単に倒されたりしねーのになあ」
同情すら含まれていそうな声を向けられた先は、全長は3mほどの筋骨隆々な男で、1枚1枚が頭ほどの大きさがありそうな鱗に覆われた尻尾が生えているいかにも魔王っぽい・・・というか魔王。
だが、残念ながらきっちと上半身と下半身で二等分されている。
更に向こうには魔王だけではなく、全身緑で一つ目のオーガ、下半身が蛇のラミアと、本来であれば1匹いたら100匹いると思えと教わる子供と体格が同様なコブリンと思われる残骸、大中小の全身鱗で覆われたドラゴン、などなど・・・と思わしき魔物の残骸たち。
最早原型を留めていないものが多く、判別はできそうにない。
「仲間はよえーしなあ・・・・」
魔物の残骸のずっと向こうに、爪で引き裂かれた修道女、腹に穴の開いた重鎧、涙のあとが残る悲痛な表情のまま紺のローブを纏う胴体とお別れした魔法使い。
どれも、青年のかつてのパーティメンバーだ。
もちろん息は既にないだろう。
青年は仲間が死んだあとに本気を出した、と状況は雄弁に語る。
「・・・?」
青年は徐に立ち上がると、かつての魔王だった上半身のすぐそばに落ちている、漆黒で持ち手が黄金のロングソードをまじまじと見た。
なんとなく、気になるらしい。
10秒ほどじっと見た後、何の躊躇いも無くその剣を手に取った瞬間
光が弾けるように広がり、魔王の残骸からピンクの縦ロールを両サイドに纏めて、レースがふんだんに使用されたフリッフリのドレスを纏う美少女が現れた。
「ぱんぱかぱーん。汝のねがい、叶えてしんぜよーう。」
と声が青年に届くと同時くらいに、少女の体は映像がブレたかのように斜めに切られる。
が、瞬きの後、少女は何事もなかったようにそこに佇んでいた
「・・・・おかしい、斬ったよな?」
青年は新手だと思い先制しても、倒せなかった事実に驚愕こそしていたものの、表情には出さない。
少女の口元が、にんまり、と効果音が出そうなほどに弧を描いて
「いやー、強いね。でも強すぎなんだよね。おかしいな、調整に失敗したかな?
ってことでー責任を取って!君をしょぶ・・・願いを叶えて、他の世界におしつ・・・じゃなくて、他の世界で魔王として生きさせてあげようってことになりました!
はい、ってことでさようなら!」
と、早口で捲し立て、さようならの直後に青年の体は光になって霧散する。
「えっ?」
霧散する直前の青年の発した声が、魔王城に反響した。