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英雄達の交友譚  作者: 笹矢ヒロ
第一章 春
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終章

ペルセ達は久しぶりに五人で過ごしていた。スピナスが退院して戻ってきたのだ。退院祝いに用意した大きな花束と菓子が詰まった箱で盛大に祝うと後はスピナスを気遣いながらのんびりと過ごしていた。

「ファントム・ナイフ。捕まえたんでしょ」スピナスが聞いてきた。

「ああ、まあね」大捕物の末に犯人を縛り上げた後には先生達による夜間無許可での外出禁止のきつい罰と何枚にも渡る反省文が待っていた。それでも一躍英雄になったことと、カタリオがアリナをわざわざ訪ねてきて真摯に謝っていたのを見てたら、悪い気はしなかった。きっとかの祖先パーセルダ・ソルディンもこんな気持ちだったに違いない。

「また私だけ何も出来なかった」スピナスはそう言って悔しそうに、寂しそうにしていた。

「荒事なんて普通の女の子はしないほうがいいと思うけど」アリナの方を見ながらセナンはそういった。本当はアリナも荒事より駆け引きの方がむいているんじゃないかと思う。

「それに、気づいていないかもしれないけれどあなたはもう大事な役目をはたしているのよ」

「え?」なんのことか分からないとスピナスはアリナの方を見た。

「あなたは私を信じてくれた。私に犯人をつかめる決心を決めさせた。これが大事な役目じゃなくてなんて言うの」この国に来たばかりの私にできた友人。それはテノンも同じ事だ。

だからあの時王妃様にテノンを助けてもらえるようアリナはお願いした。

「彼はあなたを間接的にとは言え害そうとしたのよ。」困った顔してヘランナ王妃はアリナの方を向いた。

「そしてそれと同時にサルロー公爵家の謀略の生きた証拠です」アリナが返した。

サルロー公爵家が彼を雇ったのは疑いようもない事実だ。今のところアリナにも王妃にもその事実を口外するつもりはないが、たとえ表沙汰にしなくとも彼の口からいつ漏れるのではないかとヒヤヒヤしながら公爵は過ごすことになるだろう。それにそれを除いても彼の諜報網は捨てるには惜しい。そういった事を織り交ぜてアリナは説得した。

「なるほど・・・ここで恩を与えれば確かにいい手駒にはなってくれそうね。いいわよ、結局死者は出てないし、サルロー公爵家にとっても牽制材料にもなりそうだし」ちょうど王妃様も同じ様な事を思ったようだ。そして、アリナの方をじっと見た。この力強い目、この目に彼は引きつけられたのだろう。

「彼はあなたに忠実な犬になってくれそうだわ」こうしてアリナは新しい仲間をこの国に得ることに成功したのである。

「そろそろ夏だな」腕を伸ばしながらペルセはつぶやいた。すべてが終わった後、ペルセとセナンは共に実家に一度報告のためにもどってきていた。

そして、二人はまっさきにそれぞれの父上の元に向かっていった。ペルセはアライルの元へとだ。

「随分、顔つきが変わったな」

父上だけでなく母上もマラフを見ていた。

「何を、見て来た?」

「この世界の裏側を少しだけ 」

父の問いかけに、静かに……けれども決意を込めて言葉を返した。

その応えと態度に、父上は息を吐く。

「少しはましになったようだな」

「まあ、他の仲間のおかげかもしれません」

「そうか・・自分の無力さを痛感したのだろう」

「はい」父上の問いに、ペルセは迷いなく肯定した。

「ならば、早く学園に戻れ。あの学園でその友人達を守ってこい」

「あの、父上・・・ということは、父上はアリナが王太子妃になることに賛成なのですか」

「西の地方領主どもに余計な権力を持たせるよりはな」

ペルセはすぐさま帰って来たばかりの屋敷を後にした。このことを今すぐアリナに伝えてやりたい。

なんだか今年の春はずいぶん長かった。けれどもようやく夏が来たのだ。夏期休暇になればおそらくペルセとセナンには実家の手伝いが待っている。他の面々達も自分の将来に向けての準備があるのだろう。

「セナンにあんな動きされちゃな、今年の夏はもっと真剣に取り組むか」思い出すのは大捕物でのセナンの軍才と俊敏な動きだ。自分も負けてはいられない。

「オリオも誘えばいいじゃん。僕も今年は稽古にかまっていられないかもしれないし」

「へえ、そうなのか。なら誘ってみるか」髪のクセをいじりながらペルセはつぶやいた。

それと同時にセナンもペルセのとっさの頭の回転の速さを思い出していた。

その時、二人とも同じ事を考えていた。この友人がいつかライバルになるかもしれない、ということを今回の件で実感したのである。

「アリナはどうするの。一度実家に帰るの」王太子妃に正式に推挙されるのならウェルセルムに一度戻らなければならない。そこで場合によっては正式にウェルセルム国王の養女として迎え入れる段取りとなるかもしれない。

「ああ・・・どうしよう、そうしようかな」今のうちにウェルセルムの夏を味わっておきたい気もする。母とも、もう一度話し合って決着を付けなければいけない。もっとも負ける気はさらさらないが。

「それなら、僕も一度家に帰ろうかえろうかな」マラフにもやらなければならないことは山ほどあるだろう。

スピナスは久々に家族との時間を楽しむ気だ。彼女にもやることはあるだろう。

みんなそれぞれの将来に向けてしなくてはいけないことはあるのだ。ペルセは改めて実感した。今年の自分の夏は一体どうなるのだろうか。そんなことを考えながらペルセは自分の自宅へと向かう馬車に揺られていた。



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