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英雄達の交友譚  作者: 笹矢ヒロ
第一章 春
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噂話

「フラクタル家か、西部の方だったよね」セナンが男子寮に戻りながら言った。

「ああ、西部の方に領地を持つ侯爵貴族だ。まさか娘がこの学園に入ってきているとは思わなかったけど」

「まだ縁談がまとまってない貴族にとって学園はお見合い場みたいな物だから。まあここみたいに寮にいれるのはまだ抵抗があるみたいだけれど」というか僕たちがそうじゃん。

ペルセにもセナンにもまだ婚約者は決まっていない。女の子からしたら絶好の獲物だろう。下手に引っかからない様に注意しなくては。ペルセは改めて気を引き締め直した。


アリナはなかなか仕事が手早い性質らしい。いくら人が少ないからといっても翌日にはもう参加者全員の名簿と代表者の書かれたリストをまとめ上げてきた手腕はさすがである。

「スピナスも入っているのか」リストを読み上げたペルセは軽く眉を上げた。

「ええ、昨日話をした直後に入りたいって自分から行ってきたの」アリナが話を先輩達の所に持ち込んだところ、真っ先に手を挙げたのはスピナスだった。

「自分が役に立たないことは分かっています。でも班の中で自分がなにもしてないのが情けないんです」

「あまり気にする事無いよ。同じ班でもマラフもやってないから」それでもスピナスは頑として譲らなかったそうだ。最終的に周りの説得もあって、アリナも折れたらしい。

「まったく、マラフのやつも見習えば良いのにな。まったく、いつまでたってものらりくらり、ふらふらして。あれでそこそこ腕も立つし、情報通で役に立つからなおさらタチが悪い」そういいながらペルセ新しい友人の顔を思い浮かべた。

「そうね、まあ彼は前線に立つ騎士と言った柄ではないわね。それでカタリオ団長の非番の日に合わせて顔合わせをすることに決めたから。それで向こうの団長さんになにか連絡があるときは私か三年のカトリーン先輩に伝えてくれるように言ってくれる。」

アリナがなぜこの様にせわしなく働いているのかというと彼女が一年ながらこちらで言うところの副団長的なポジションに決まったからである。実際名門伯爵令嬢という身分の高さに加えて武芸の嗜みもあると来れば適任だっただろう。

その後、顔合わせと会議により、男子の巡回ルートの一部変更。女子寮の手前での報告が追加された。

その後、ペルセとセナンには例の見張りの件の報告が待っていた。ミリヤ嬢の件を含め、報告することはそれなりにある。

「・・・以上で学園から得た情報はすべてです」

「了解した。引き続き何か分かったら教えて欲しい」報告を受けたセレインはあくまで冷静だ。ペルセとセナンが去って行くとセレインはアライルの方を見た。

「どう思う、アライル。彼女のこと」

「まあ目を離すわけにはいかないな」相変わらず父達は懐疑的だ。

模擬試合はしばらく中止となったが他の授業は続いている。つまり課題はでるということだ。基礎はだいぶわかってきたとはいえ未だ苦手な科目も多い。

そういうわけで班全体の勉強会は続いていた。ペルセも騎士団の仕事と課題を平行してやるのはキツかったので最近はもっぱら手伝ってもらう側に回っていた。必然的にこのメンバーで勉強会以外にも集まることが多くなる。そうやってちょくちょく集まっていると今更ながらにこのメンバーが目立つことに気づいた。

騎士学校の性質を併せ持つこの学園は男子が多い中で女子二人というのは目立つし、容姿もスピナスの方は親しみやすそうな顔立ちだし女性人気は高い。アリナの方は近づきがたいが異国情緒ただよわせる美しい顔立ちをしているし、その上取り巻きが多い。男子の方もいいたくはないが自分をふくめいろいろと目立つのである。

そんな中一番平凡なマラフが絡まれる事態が起きたのはそう遠くない事だった。

マラフは器用に立ち回れる人間だ。加えて俺たちと親しくしていることで手をだそうとするやつもそうそういなかったのだろう。

が、バカなやつというのはどこにでもいるものだ。一人になったところで人気がないところに連れ込まれたらしい。案の定セナンが駆けつけた時にはおきまりのように悪口を並べ立てていた。

「おまえなんて所詮引き立て役だ。」

「たいした能力もないくせにどの面下げて一緒にいるんだ。」と、因縁をつけられてとり囲まれている。

「なにやっているんだ、そんなところで」セナンが冷ややかな目で一瞥をくれた。知名度でいったらソルディン家には及ばないがククルシオ家も十分すぎる程の影響力を持つ名家だ。この程度の下級貴族の次男、三男なら余裕で蹴散らせる。

「おまっ、ククルシオの・・・」セナンに気づいた途端マラフから引き下がる。

「さっさと行け」セナンもこれ以上かまう気はなかった。

「なんで・・・なんでだよ。なんでおまえもそんな奴をかばうんだ。ソルディン家のところといいお前といい、まさかあのよそ者の女にそそのかされておかしくなったか。」叫ぶようなその声はほぼ八つ当たりでしかなかったが、セナンの気を引くには十分過ぎだった。

「どういうことだ、それ」先ほどより、一度も二度も声色が下がったのは仕方が無いことだろう。でもそんなことよりも聞きたいことがあった。

よそ者の女、この言葉から連想される人間はセナンの思い付くところアリナ一人だけだ。セナンの態度に余裕を取り戻したらしい。マラフをいじめていた一人が言葉を続ける。

「彼女、王妃様に呼び出されたんだってな。ずいぶん目をかけられているらしいじゃないか、みんなも、父上も言っているぜ、もしかしたらファントム・ナイフの事件だってあいつがやったんじゃないかって。」ここぞとばかりに相手が言い募る。

「で、なんでそれがお前達がマラフを脅すことにつながるんだ?」相手は図星をつかれて言葉を詰まらせる。

「それはまあ、そいつがよくアリナと二人きりで話していたから・・・」へえ、そうなのか。意外な事実を知りマラフの方をみる。

だが、追求すべきはそこじゃない。

「話はそれだけか。ならもう行け」そういうとセナンはマラフをつれてきびすを返した。

「ああいうこと、よくあるのか」先ほどまでの出来事を思い返しながらセナンはマラフに聞いた。

「うん、まあ。でもさっきみたいなこと言われたのは初めて」

「・・・・それって君のこと?それともアリナのことか」

「どっちも、面と言われたのは今日が初めて・・・ただそういう噂は結構聞くんだ。」

「彼女はね、優しいんだよ。僕にもスピナスにも。やっぱそれって貴族としてはおかしいから・・・」

彼女をしばらく見張っていてほしい。そう言われた父の言葉を思い返した。


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