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英雄達の交友譚  作者: 笹矢ヒロ
第一章 春
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王妃の茶会

当日,軽い朝食をとると自室に戻って、髪を丁寧に結う。寮からでると、正門の前に白馬の馬車が止まっていた。もう少し目立たない所に迎えに来て欲しかったとのいうのはアリナのささやかな願いだ。

エルンセルの王宮は真っ白な大理石で出来ていている。この王宮が純白宮とあだ名されているのはこの白さ故であろう。

アリナはごくりと唾を飲み込むと馬車を降りた。待ち構えていたように王妃・ヘランナ様が侍女を引き連れて、自ら出迎えにそこにいた。ウェルセルムから嫁いできた王妃は親しげな顔をしている。けれども全く心安まらない。

「本日はお招きいただきまして、ありがとうございます。おそれながら、本日をとても楽しみにしていました」最大のお辞儀をしてそのまま頭を下げる。 「まあアリナ、遠いところからよくやってきたわね。どうぞ、頭を上げて」そういわれて頭を上げるとその周りを引き連れていた侍女達に囲まれた。

そのまま浴室に突き込まれるようにして入ると髪からつま先まで隅々に手入れされる。用意されていたレースが美しいドレスは空恐ろしいほど自分にピッタリだ。

「やっぱり、貴女にはこのドレスがピッタリね。母親似だと聞いていたから、懐かしいわ。まるで貴女のお母様の若い時を見ているよう」姿見の前にアリナを立たせると王妃様は満足げに微笑む。アリナは顔がこれ以上強ばらないので精一杯だ。そのまま侍女に髪を結われ、品のよい、高価そうなネックレスを付けられる。ようやく仕度が終わると茶会の用意がされた庭に通された。

「どうぞ、そちらの席にお掛けになってください」ヘランナ様は笑顔でそう言うと、空いている席を指す。既に燕尾服を着た男性がそのすぐそばでスタンバイしていた。

「では、お言葉に甘えますね」

手入れが行き届いた庭園は、花々で溢れている。その中で真っ白なクロスがしかれたテーブルは輝いているようだ。そしてそれよりも目立つのが、今回出席された方々のドレスだ。昼間のお茶会なので格式はそれほどでもないがみな品が良い。すでに他のみなは着席していた。主席者の貴婦人達の目がこちらに一斉に向かう。自然に、けれども優雅に頭を下げる。初対面の一流の貴族の妻達に私はどれだけ好印象を与える事ができるだろうか。

全員の紹介がされたところでそこから茶会が始まった。テーブルに盛られた甘味をいただきつつ、淹れてもらった高級なお茶を飲む。耳は会話に傾けているが。おいしいと素直に賞賛できる。特にソルディン侯爵夫人ディーネ様。つまりはペルセの母には目が引かれた。前に夜会でお見かけしたが面と向かって会うのは今回が初めてだ。

「アリナ様はウェルセルムの方ですよね。ご実家はどの身分かしら」

カドラ夫人から、そんな質問がきた。

「彼女の実家は国内でも十指に入る名門伯爵家なの」アリナより先にヘランナ様が自慢げに口を開く。

「王妃様にそう言っていただけると、父も光栄だと思いますわ。今度の手紙に書いたらどんなに喜ぶでしょう」控え目に、素直に。そんな印象を最大限に与えるためにつつましく微笑む。

「まあ、そうなんですの。そんな所のお嬢様がわざわざこの国へ・・・」そういってカドラ夫人だけではなく全ての夫人の目がこちらに注目している。

「エルンセルのことは小さいときに家庭教師から聞かされていました。エルンセルは東の草原が広がった美しい国だと。本当に、春のこの時期は一面が花の野ですね」

「本当に。特にジルベット平原なんてこの時期は見事ですわ、この時期もよいですがもう少し経って初夏になっても見事ですね」

「狩りの季節ですね。」

「ええ、ウェルセルムでもあるの?」

「はい、鹿追いの祭りは公式行事の一つですから」

「鹿追い祭り、懐かしいわ。母なる山、新緑の森、銀の鈴ふる若い鹿・・・」ウェルセルムの貴族なら一度は歌ったことのある鹿追い祭りの歌をヘランナ様は口ずさんだ。年をとっても変わらない美声はまさに銀の鈴を振ったようだ。

「貴女の旦那様なんて特に楽しみにしていらっしゃるんじゃない?」ふと何気ない表情でクラネス夫人が話題を振る。

「ええ、夫は狩りが大好きですもの。最近では息子まで巻き込んで、ほんと困ったものですわ」ディーネ夫人が細身の引き締まったプラチナブロンドをゆらしてそう答える。

「それはもう、ソルディン家の人間ですもの。そのくらい活発でなくては」周りの夫人たちからも笑い声が聞こえる。

「息子と言えば・・アリナ様、学園に不審者の話、本当ですか」ディーネ様が力強くこちらを見る。

「詳しいことは話さないようにと言われているんですが・・・はい」

知っているも何もアリナ達の模擬試合中の出来事だ。まあ怖いという他の夫人がたに比べディーネ夫人はなお強くこちらを見てくる。ソルディン家の妻としてか、母として息子を思ってか、そのどちらもだろう。

「ディーネ夫人、あまりアリナに詰め寄っても可哀想ですよ。アリナ、直接は見ていないんでしょう」ヘランナ様が助け船を出してくれた。

「ええ、まあ飛んで来たナイフを見たくらいで」実際それどころじゃなく隠れるので精一杯だった。それに余計な情報を与える気も無い。

「ディーネ様、ペルセ殿は熱心に取り組んでいらっしゃいます。学園内の見廻りに志願と聞いていますから」

「そう・・・どうせ周りに押し切られたんでしょう。まあ腕は確かな子ですから」

そこからしばらくペルセの話を一通り話して、話はエルンセル貴族の評判に移っていった。

「そういえば、最近サルロー伯爵が随分と大きなパーティーを開催していらっしゃるのはご存じ?奥方様なんて先日はダイヤモンドの首飾りを並べまるで宝石市場のように比べていたと思えば、次週には仲のよい貴婦人方達を集めてカルタの会をしていらっしゃる。そんな感じで毎週のように十も二十もなにか催し物をしていらっしゃるとか。この間、宅に宝石商が来た時にそれとなく聞いてみたら、随分と宝石やドレスをお求めになられているようですよ?それはもう根こそぎ買い上げてしまうような勢いだとか」

「まあ、それはすごいですね」

目線が此方に向いたので返事をした。公爵家ということなら身分は王族に次ぐ位だからもちろん高いのは高いのだが、今の時勢、いくら公爵家とて毎週のように催し物を開くなどあまり贅沢ばかりはしていられないと思うのだが。

「サルロー伯爵家ねえ、特に身内の人がご出世したなんて話はなかったと思うけど・・・」

それが本当なら、どうしてそんなに贅沢をしていられるのだろう。

「そうでしょう?他の奥様方の間でも、話題になっていたのですよ」

「ほんと不思議ね。ところで、エリス夫人。今日付けていらっしゃった宝石は、何処でお求めになられたの?とても美しいピンク色だわ」

ここでヘランナ様が話題を変えた。

「これはですね、サファイアなんですの。珍しいでしょ。買い逃すのが惜しくって、その場で決めてしまいましたわ。旦那は渋い顔していましたけれども」

「それはそれは、でもなんだかんだで、マルヴィ伯はエリス様に未だに惚れていらっしゃいますものね」キャッと周りが黄色い声を挙げた。それからは自分の旦那の愚痴が始まった。アリナは当然、話に入れないので聞き役に徹する。

…それから日が沈む少し前ぐらいまで、会は続いた。緊張したけれどもたいしてウェルセルムでの茶会とそんな変わらなかった。こういうところはどこも同じなのだろうか。…いずれこうした会を開く立場に私もなるだろう。学べることは少しでも学んで生かさなくては。



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