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英雄達の交友譚  作者: 笹矢ヒロ
第一章 春
14/26

準備

一年の生徒が演習中に何者かに襲われた、という噂は次の日にはあっという間に校内中に広がっていた。由緒ある学園内で生徒が切りつけられるという不祥事の発覚を恐れて教師達は模擬戦としばらくの中止を緘口令と共に出し、特に現場に居合わせたペルセたちには厳重に注意されていたが、その程度であの衆人環視の中、人の噂に戸が出来るはずもなく、ペルセ達の実際に被害に遭った生徒達の下には生徒達が詳しい話を聞こうと集まってきていた。

投げナイフで攻撃してくる不気味な「ファントム・ナイフ」と名づけられた不審者の正体や目的については様々な議論や憶測が飛びかっていた。うわさに聞いたところでは「貴族に恨みを持つ反社会派のテロリスト」というなかなかに現実的なものから「脱獄した死刑囚」さらには「この学園で非業な死を遂げた生徒の怨霊」とオカルト的なものまで様々あった。いずれにせよはっきりとした証拠もなくいまだ犯人の正体はつかめていなかった。

そんな中ペルセたちは今、男子寮内の談話室に集まっていた。談話室にはペルセをはじめセナンやオリオ。それぞれ模擬戦での班の代表者から上級生まで集まっていた。鍛え方から主にここにいるのは騎士志望の生徒達だなとペルセは見ていた。


「生徒で自警団を作ろうと思っているんだ」そう生徒達の輪の中心で熱く語ったのは最上級生のカタリオだった。

「今現在、校内の巡回は主に教師達が行っている。その他にも監督生が朝昼晩前の点呼や交替で一年生の次の教室までの引率を行っているが、残念なことに現時点で不十分だといわざるをおえない。」

そうだろうか、犯人は捕まっていないが、あれから犠牲者は出ていない。牽制にはなっているのではないかとペルセは思ったが声には出さなかった。

「この問題の一つの解決策として俺達は生徒達で自警団を組織することを考えた。教師にも監督生にしても数に限りがある。これでは全校内を見回るのは不可能だ。しかし自警団が出来れば見まわりの人数が増えることになる。」カタリオの話を人一倍熱心に聞いているのはオリオだった。彼は初の被害者が自分の班の仲間だったため事件の早期解決を強く願っていた。それはペルセもだがスピナスは当初こそパニックになったものの怪我はなく、アリナのほうも翌日には普通に登校していたため幾分か余裕があった。

「賛同するものは挙手してくれ」オリオが真っ先に手を挙げ、その場にいたほぼすべてのもの達が手を挙げた。

「ありがとう。先生には既に僕のほうからお願いしてある。先生方も顧問をつけること、夜間での一人での行動は禁止という条件付きで合意をもらっている。」

「具体的なことはどうするつもりだ。」カタリオの近くに立っていた男子の言葉に対して彼はうなずくと、

「基本的には放課後と休日に当番制で巡回をしようと思っている。」

それから少し硬い表情をすると

「騎士を目指してこの学校に通っている以上みな毎日のように武術の訓練に励んでいるはずだ。もちろん各個人で不審者に対応できるならそれが一番良いし自警団をわざわざ設立する必要もない。しかし現状ほとんどの生徒が賊一人に対応できていないことから残念なことにほとんどの生徒が武術について未熟であることはいなめない。なので団員にはある程度の実力を要求する。この点については騎士志望の上級生は問題ないだろう。一年生でも班の代表者や実技で上位に入るものなら十分だと俺は思っている。」そういってカタリオはペルセとオリオのほうを見た。オリオは既に入る決意を固めたようでリストに真っ先に名前を書いたがペルセはしばらく迷っていた。

「危険が伴うし、放課後の貴重な時間を割いて活動することになる。有志での活動だ。入るのに強制はしないが・・・・」迷っているペルセを見てカタリオは意外そうな顔をした。確かに俺の家柄と実力を考えればカタリオがそう思うのは当然だろう。

「いえ、入らせてもらいます。」そういってペルセは名前を連ねた。

「そうか。君は案外慎重な人間なんだな」

「なんで迷ったの?」寮の自室に帰りすがらペルセの横を歩いていたセナンが先ほどの事を聞いてきた。

「いや。別に・・・なんとなく」

「まあペルセ嫌い・・・というか苦手だもんね。そういうの」

「どういうことだよ」ペルセは怪訝な顔をした。

「どういうこともなにも気づいてないの?ペルセ、ソルディン家の嫡男だから、とか実力があるんだから、とかそういうことで決め付けられるのは嫌いだもの。別に自警団に入ること自体は望むところなんだろうけど、それを当然だって言われるのは嫌なんでしょ。」その言葉に胸をつかれた。セナンの言葉はまさにペルセの内心を射ていたのである。

「お前はいやじゃないのかよ」

「まあ、好きか嫌いかでいったら嫌いだよ。でもとりあえず今はペルセの実力は役に立つし、僕も微力ながら役に立つ。ペルセもファントム・ナイフを捕まえるなり何なりすることには賛成なんでしょ。」

「まあな」

「なら、とりあえずのところはそれでいいんじゃない」そして二人は長い廊下を歩いていった。

最終的に自警団は全体三十人程度で構成された。そのうち一年はペルセとオリオ含む五人だけだった。他に志望者はいたのだが今の一年の実力の中で入っても大丈夫と認められたのはその五人だけだった。その五人の中にセナンも入っているがこれは本人が乗り気ではなかったのを強引にペルセが引っ張り込んだのである。

自警団の発足が正式に決まるとその他雑事を決めることになった。

まず団長。これはカタリオで満場一致だった。副団長はそのカタリオと仲のよい三年のメリオーズ。その他各学年に団長との連絡役がつくことになった。一年の連絡役はオリオである。これは一番熱心だったと言うこととで自らの志願で決まった。ペルセとしてもオリオの機知はともかく実力は認めている。自警団はクラブ活動の一環として教師側に認められたため活動費と現在空いている部室の使用が認められた。ただその代わりに指導役の教師への毎日の日誌の提出と独断での活動を禁止された。

尚、申請の際に名前をただの自警団からわりかし調子のいい二年の先輩達によってマルセス学園騎士団に改名した。

そうして活動が始まったペルセの騎士団業務だが、初日は部室もとい騎士団本部の改造に費やされた。改造といっても掃除してソファや机をそれっぽく並べただけだが。その間に団長達は各団員の希望を聞きながらローテーションを考えていた。一年は主に上級生との組み合わせが多いが場合によっては同じ一年と、オリオとも組む場合がある。そのときはお互いの技量は認めていても複雑だろう。

そうしてペルセ達男子生徒が学園騎士団を発足しだしたころ、女子寮のアリナは自室で一人長々と眠れない夜をすごしていた。

先日の事件はアリナの、正確に言うとアリナの周りがかなり騒がしくなった。彼らにしたらアリナは今ここで潰される訳にはいかない手駒なのだ。当然のごとく心配した。

もちろん気になりはする。あの事件は自分を狙ったものかもしれない。

ただ、今それより気になるのは机の上に置かれた金色の押印がされた封筒だった。見間違えてなければこの押印はこの国の旗と同じもの・・・王族からの招待状だった。

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